クリエイティブ集団「ピアノ・ガイズ」インタビュー:YouTube動画の成功はたった一つの姿勢が導いた

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すでにネットコンテンツとして大量に消費されるようになった「YouTube動画」。でも最近どうもYouTubeって同じような動画ばかりで、少し飽きてきてる人、いませんか?

そんな動画カルチャーを再定義するべく、YouTube黎明期から活動を続けているのが、アメリカのクリエイター集団「ピアノ・ガイズ」(The Piano Guys)。初めて名前を聞く人も、ネット好きなら彼らの動画を見たことはあるのではないでしょうか?

ピアノ・ガイズは、伝統的なクラシック音楽を、映像と編曲で現代風にアレンジし、誰も見たことのない動画を作り続けている4人組。ピアニストのジョン・シュミット(Jon Schmidt)、チェリストのスティーブン・シャープ・ネルソン(Steven Sharp Nelson)という音楽家に、映像クリエイターのポール・アンダーソン(Paul Anderson)、音楽プロデューサーのアル・ヴァン・ダー・ビーク(Al van der Beek)という、これまでの音楽家とは全く異なるチーム編成で活動しています。

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左から、ジョン・シュミット(ピアノ)、アル・ファン・デル・ビーク(音楽プロデューサー)、スティーヴン・シャープ・ネルソン(チェロ)、ポール・アンダーソン(映像クリエイター)

アナと雪の女王」「バットマン」、アデルデヴィッド・ゲッタまで、カヴァー曲を独自にアレンジするクロスオーバーな音楽性。コミカルかつシネマティックで、思わず見入ってしまう映像美。2010年に初めての動画「Game Day」を投稿して以来、ネットで高い注目を集めてきました。

彼らがどれ程ファンから支持されているかは、YouTubeチャンネルをご覧いただくと分かります。チャンネル登録者数は、YouTube全体でトップ200に入る370万人以上。試聴回数は6億回を超えるほど。しかも彼らは広告に頼ること無く、純粋にコンテンツを作り続けてこの圧倒的な数字を達成しているのです。

ギズモード・ジャパンでは、来日したピアノ・ガイズに話を伺う機会をいただきました。

最先端のテクノロジーではなく、あくまでも既存の技法を根幹にしながらも、なぜか五感を刺激させられる演奏と映像のアイデアは、一体どこから生まれているのでしょうか?

(文中の動画をお聴きいただきながら、インタビューをお楽しみ下さい。)

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左から、ジョン、スティーブン、ポール。アルは不在。

ポール・アンダーソン(以下ポール): 昔ピアノ販売店をやっていてね。ピアノを売ろうと躍起になっていた。その時に、クリエイティブな広告の方法を考えてみたんだ。新聞や雑誌、ラジオに広告費を支払っても、利益が見えないことに嫌気が差していた。だから思い切って動画に投資することを決めたんだ。

その時、ジョンとスティーブの動画を見た瞬間、2人と一緒に動画を作りたいと思ったよ。そしたらスティーブがアルを紹介してくれた。そこで気が付いたんだ。僕たち4人がアイデアを出し合えば、演奏も動画制作も音楽制作もコラボレーションできるってことにね。

ギズモード(以下ギズ): YouTubeを選んだ理由は? 活動当初はあなた達のような使い方をしているクリエイターは少なかったのでは?

ポール: YouTubeが凄いことは、「フリー」なことだ。誰でも動画をアップロードできる。僕らは早い時期に、一貫的にコンテンツを制作し公開すれば、チャンネル購読者数を増やして成長できることに気が付いた。特に、音楽コンテンツだったことで、チャンネルは早く成長していった。それから、YouTubeでヒットしたタイミングが良かった。僕らが始めた頃は、YouTubeで動画を公開する時代の黎明期だったし、僕たちの活動はその中でも非常に独自性があった。

YouTubeでヒットする要素が僕たちには初期段階から揃っていた。僕たちはその機会を活かしたにすぎないと思ってる。

最近は同じYouTubeでも、ユニークな動画を見てもらうことはどんどん難しくなってきているように感じてるよ。

ギズ: YouTubeで活動することで、困難だったことは?

ポール: 僕たちは動画制作に夢中になってのめり込んでいったこと(笑)。だから、いつの間にか僕はピアノを売る仕事のことを忘れていた(笑)。ピアノ販売は廃業したのさ。

いや、正直なところ、初めの頃はみんなで数千ドルを集めて動画を作っていたけれど、難しかったことは、動画でお金を稼ぐことだったね。6カ月動画をやってみた後、ほとんど収益を上げられなかった。だから、ファンにお願いしてみたんだ。「僕たちの活動支援のために、動画にお金を払いませんか?」ってね。

僕たちはサポートしてくれるファンのことを「ファウンダーズ」(Founders)と呼んで、今でも大切にしている。このファウンダーズ・キャンペーンを開始した時、あっという間に火が付いた。僕たちのために寄付をしてくれる人たちが爆発的に伸びていったんだ。早期のクラウドファンディングに近いね。

スティーブン・シャープ・ネルソン(以下スティーブン): 重要だったことは、集まったお金の額よりも、僕たち全員が活動を続ける励みが生まれたことですね。僕たち4人は、活動を始めてからも昼間は別の仕事をしていたし、家族もいるしね。だからファウンダーズの反応を見た時、これは全てを懸けて取り組むべきだって決心させてくれた。

スティーブン: 最初に全員が参加した動画は、僕たちのオリジナル曲「Michael Meets Mozart」だった。この動画の成功も大きな自信に繋がったと言えます。公開してすぐにYouTubeのトップページでシェアされ始めた。反響ものすごく良かった。活動開始してから最初の6カ月で再生回数が合計1000万回を超えて、チャンネル購読者は50万人近くまで伸びた。動画のシェアされる回数はもの凄いスピードで増えていった。

ジョン・シュミット(以下ジョン):実は2009年に動画の実験をしていてね、どれだけ僕らの動画がシェアされるか、試したことがあったんだ。その頃、僕はレコーディングやライブを行うピアニストで、すでにファンも存在していた。だから2009年に動画をYouTubeにアップしてみて、ファンにシェアしてくれと頼んでみた。そしたら公開から1カ月後にはなんと100万再生を超えたんだ。

その発見は初めての経験で、YouTubeの影響力を体感した瞬間だった。この経験があったからこそ、良い曲を作って、誰もが初めて見るような動画を公開しようと決心したんだ。

全てコラボレーションが絶対に必要

ギズ:違う分野の人間が集まれば、アイデアを組み合わせたり、認識を統一させたりすることが難しいと思います。皆さんは、どのようにしてアイデアを形にしているのですか?

スティーブン:機能するコラボレーションの秘訣は、お互いが持ち寄ったアイデアでグループ全体がより高いレベルに進める関係を作ること。4人がそれぞれアイデアと才能を持ち寄りながら、時には一人がグループをリードするときもあるし、時には全員で考えるときもある。でも、全てにおいてコラボレーションが絶対に必要だということが言えます。

また、グループで活動をすると、その中で自尊心やうぬぼれを起こすメンバーが生まれる時がある。そうなってしまっては、コラボレーションは機能しなくなる。グループは解散したり、作品が面白くなくなったりするでしょう。僕たち4人は、共通の一つは「家族」。もう一つは神を信じていること。これは僕たちにとって最も重要で、僕たちがつながっている最大の理由です。ビジネス・パートナーやアーティストでいる以上に、何か大きなことを成し遂げたいと思う上でとても重要だと感じています。 

ジョン:もう一つ重要だと思うのは、「ファン」の存在を常に考える事です。私たちではなく、ファンのために私たちは活動していると考えています。

ファンがいる国全てにライブで行きたい

ギズ: チームで活動するメリットを具体的に教えて下さい。

ポール: 僕たちのチームは、4人以外にも助けてくれる友人がいる。特に動画制作の面でね。でも、僕たち4人が動画制作から曲作り全てを行っている。その他には、Facebookを運営するし、ローカルマーケティングもするし、アルバムアートもデザインをしている。映画のセットのように大人数が各自決められた仕事をするわけではなく、少人数でできることをしているこの規模感が楽しいね

スティーブン: 少人数でいることによって、僕たちはファンとの距離を最小限に縮めることができる。今の規模でなら、ファンと直接コミュニケーションを取りやすく、彼らからのフィードバックを貰ってから反映しやすい。多くの動画がファウンダーズからのフィードバックの影響を受けて作られているんだ。

ファンと直接インタラクションしながら、作品を仕上げていくなんて、会議室に集まった人が全てを決めてきた古い音楽産業のやり方では実現不可能なことなんだよ。この時代には、ファンがどんな音楽をいつ欲しいのか教えてくれるし、熱心なファンは直接アーティストとつながることができて嬉しいはずだ。

ポール: Somewhere Over The Rainbow」がいい例だね。ハワイにライブに行く数週間前、せっかく行くなら動画を撮りたいと思ったので、Facebookページに「ハワイに行って動画を撮影するけれど、何の曲をプレイしてほしい?」と投稿したんだ。するとほとんどの人が「Somewhere Over The Rainbow」がいいとコメントをくれてね。だからその曲を用意して、動画撮影の準備を進めて、ハワイに向かったんだ。 

スティーブン:これまでライブでブラジル、シンガポール、フィリピン、ロシア、ドイツ、スイス、オランダ、イギリス、メキシコに行くことが出来て本当にうれしいよ。アメリカ以外の国のファンともソーシャルメディアを使うことで、インタラクションできる時代になったことは素晴らしいね。ファンがいる国全てにライブで行きたいと思ってる。YouTubeで5億回再生されたら、いろいろな国からアクセスがあるって実感が分かるよ。

ギズ:皆さんは、今の音楽産業をどのように見ていますか? 問題点や、気になることあります?

スティーブン: 今の音楽産業と僕らの違いは、僕らはスタッフに恵まれていることと、彼らと良い関係が結べていることに集約できる。例えば僕らのマネージャーの存在は、僕らにとって必要不可欠なんだ。彼のおかげで僕らはソニーミュージックとも契約ができた。それも彼が全て戦略立てしてくれたからなんだ。

ジョン:それからソニー・マスターワークスは小規模だけど、僕たちをパートナーと考えてくれるレーベルで、その姿勢は僕らに安心感を与えてくれる。レーベルとアーティストがばらばらに存在するんじゃなくて、一緒にインタラクションをしながら課題に挑戦していく関係を作ってくれる。ロイヤリティ料の小切手だけに期待しているアーティストと、売上しか見ないレーベルがいる一昔の音楽ビジネスの世界とは、全然違う関係を僕たちは獲得することが出来たことは本当に大きかったし、レアなケースだと思う。

スティーブン:僕にとって音楽の未来は楽観的だと思っている。その意味は、今後は必要の無いものを取り除くプロセスが本格的に起きると感じているからなんだ。

自分の価値観に誠実で、ファンと向き合うアーティストは、業界の仕組みが変わっていく流れの中で、強みを最大化する方法に辿り着くことができる。また小規模チームで、スタッフやレコード会社と共存関係を維持できれば、思い切って新しいことにもチャレンジしやすくなる。レコード会社が描いたアーティスト像に従う必要も無くなったしね。

今の時代は、ただYouTubeに動画をアップしても、誰も気にもしてくれない世の中なんだ。つまり「ユニーク」であることに、業界やオーディエンスの需要が傾き始めているってことと言えるね。このユニークさを持ったアーティストやクリエイターが増えることで、これまで見たことのないような作品がどんどん増えるだろうね。とてもワクワクするよ

ジョン:僕は自分たちのことではなく、多くのアーティスト特に新人アーティストにとって、音楽産業の未来は明るいと言えるのか、未だに分からないんだ。若いアーティストはお金を稼いで食べていけるのだろうか? 生き残る方法はあるのだろうか? 疑問を感じる時間が増えたね。

いつも誰か新しい作品を発表できることは、クール

ギズ:これからコンテンツを作っていくクリエイター達が、これからの時代には何を意識して創作活動を行えばいいと思いますか?

ポール:いつの時代でも、クリエイターが使えるテクノロジーが存在して助けてくれる。僕たちにYouTubeがあったようにね。例えばVineのように、ユーザーにコンテンツを届けて見てもらう仕組みは常に現れる。そして、それらのツールにはいつも誰か新しいアーティストが作品を発表している。僕たちなんか手の届かない才能を持ったクリエイター達が世界中にはたくさんいるんだ。

若いクリエイター達が工夫して考えたやり方で作品を世界中の人に見てもらうことができるのは、最高にクールだね。

スティーブン:日本のクリエイターには、常に「ユニーク」であることを大事にしてほしい。僕たちも常に自問自答しています。どんな動画がファンに好まれるか、どうすればシェアされるか、何が特別に感じてもらえるのか、どうやったらより多くのファンに見てもらえるのか。そしていつも議論する。議論して、誰も見たことのない作品を作るよう、ミリ単位で考えます。

「よし、音楽PVを作ろう!」と言うことは簡単です。そして実現することも技術的には可能でしょう。でもそれだけではYouTubeユーザーからは見向きもされません。

数年前まではそれでも良かった場合もありましたし、100万再生を超える動画も数多くありました。ですが今では恐らく10万回にも見たないでしょう。例え膨大なチャンネル購読者を抱えていてもです。それはユーザーが他愛もない動画に興味を失い、ユニークなクリエイターを求めているからです。

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4月22日に新アルバム「ワンダーズ」をリリースしたばかりのピアノ・ガイズ。動画を作るだけでなく、CDやダウンロード、グッズの制作も彼ら自らが行うという、DIYな姿勢を今でも貫いています。「ファン」の存在を何度も強調していた彼らの思いは、クリエイティブな動画だけでなく、あらゆる面に表れています。

YouTubeや動画メディアや撮影技術が発展した今の時代で、世界中のファンを驚嘆させるクリエイティブ集団が共有する価値観は、どれだけユニークになれるかという、シンプルな問いへの純粋な姿勢でした。

source: ピアノ・ガイズ

(執筆、撮影、鴻上洋平)