「デザインは新たな市場を生み出せるんです」工業デザイナー奥山清行さんが撒いた未来の農業の種とは?

2015.04.27 17:00
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「欲しい!」という気持ちをかきたたせるモノ。大事です。とっても大事です。

日本においては農業機械メーカーのイメージが大きいヤンマーと、フェラーリ新幹線といった歴史に残るプロダクトを生み出してきた世界的な工業デザイナー奥山清行さん。そのタッグが作り出したコンセプトカーならぬ、コンセプトトラクター「YT01」は、そのかっこよすぎるデザインが世界中で大きな話題となりました。


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そして、このコンセプトを元にデザインされた量産型トラクター「YTシリーズ」が2015年5月より発売されます。農業にさして興味が無い人もひと目見ただけで振り向き、ドライバーズシートに座り、ハンドルを握って運転したくなるトラクターです。


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既存ユーザーのみならず、新たなユーザー層をも振り向かせることができたのは、間違いなくデザインの力が生んだものでしょう。以前ギズが取材した佐藤可士和さんとともに、デザインの力でヤンマーに、いや農業という産業自体にイノベーションを起こそうとしている奥山清行さんラスボス級のオーラを放ちつつも、暖かな眼差しで語る奥山さんに、デザインとはなにか、そして「YTシリーズ」はどのようなコンセプトでデザインしたのか、直接尋ねてきました。

テクノロジーに惹かれるのは、人間の本能である」という、痺れる言葉も飛び出して、ほんと鳥肌モノでしたよ。


会社のビジネス全体を理解して、未来の市場をデザインする


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「僕の祖父は兼業農家で、父親は建設業もやっていたので、農業機械も建設機械も子供の頃からよく見てきたんですね。ですから、もうヤンマーのために生まれてきたと言ってもいいでしょう(笑)。

今の農業には課題がたくさんあると感じています。以前から農業に関してはいろいろ考えていたのですが、今回のお話を受けて自分に与えられた使命というか、自分が今まで学んできたことを発揮する機会がきた、という思いを抱きましたね」

――とはいえ、ヤンマーにジョインされた時は正直驚きました。日本人で初めてフェラーリのデザインを手がけ、E3・E6・E7系新幹線のデザインをしてきた奥山さんが、農業機械のデザインをするとは考えもしなかったです。

「僕にとっては自然なことなんですよ。そもそも僕の仕事は業界をデザインして、産業を作るところから関わります。未来の市場をデザインすることを常に意識しているんですね。例えば、少し前まで電気自動車や水素自動車の市場はありませんでした。それが商品が出てきて、参加する会社が増えてきて、取り巻く環境が反応して、結果として10年後なり20年後なりにその市場が形成されます。市場というのはお客さまだけではなく、商品があってサービスがあって、ビジネスを展開する業界全体があって初めてできるもの。ゆえに、徐々に築きあげていくプロセスが重要なんです。

私は工業デザイナーと名乗ってはいますが、プロダクトのデザインそのものは先の先。だからこう言っては申し訳ないんですけど、格好いいエクステリアでドアを閉めたときの音に重厚感があるとか、コンソールをタッチしたときの感触というのは、僕の仕事の末端部分なんです。ディナーコースの最後にデザートで出てきた、ケーキに乗っているイチゴのようなものですよ。自動車は裾野が広い業界ですけど、商品のカタチだけデザインしたとしても売れるものではないんですね」


実は地場産業、フェラーリのブランド戦略


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――ヤンマーはプレミアムブランドになるべく挑戦を続けています。海外の会社を渡り歩いてきた中で学ばれた、ブランド戦略を聞かせてください。

「僕が以前デザインを担当していたフェラーリは、イタリアのモデナ地方にある、従業員が3,000人くらいの中小企業。つまり地元の象徴たる地場産業なんですよ。ただ皆さんがご存知のように強力なブランドイメージを持っている。そのブランドイメージを作り上げるために、フェラーリは3,000人のうち600人をF1という、直接的な利益を生まない部門に投入しています。

というのも、僕がいたころのフェラーリは売上の17%がマーチャンダイジングから得た収益でした。フェラーリのロゴを使ったミニカーなどを作ったりするためのライセンス契約で得たお金ですね。しかも利益率の観点から見ると、フェラーリ1台を売って得た利益率よりもよっぽどそっちの方が高いわけです。

ブランドっていわばピラミッド構造をしているんですよ。フェラーリという商品が最上位にあり、マーチャンダイジングが中間層ですね。そして、ピラミッドの上が高くなっていくと、中間層のビジネスや土台のビジネスも引っ張られて横に広がっていくんです。となると、ヤンマーにとって最上位のプロダクトとはなにか、というアプローチが必要になってきます。

また、ブランド戦略ができている会社は、デザインをとても大切にします。だから、そういった会社は副社長か、少なくとも本部長クラスにデザイナーがいます。アップルのジョニー・アイブはその典型的な例でしょう。しかし日本の企業は、そういったデザインを担当する人が上層部にいない。課長や部長クラスがデザイン部門のトップという会社もあります。会社がデザインの重要性を理解していないということもあるでしょうし、その立場に相当するだけのデザイナーがいないというケースもあるでしょう。これではブランドの力を十分に生かしきれないのではないかと思います」


デザイナーとして仕事に向う姿勢


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――経営者に近しい目線で考えられているんですね。

「そうですね、経営をデザインするという話ですね。そういうデザインができる人が、日本でも経営の中枢に入ることが望まれている時代ではあるのですが、それに応えられるだけの人材がまだ少ないんですよね。もちろんこれからは増えるでしょう。一緒に仕事をしてきて、佐藤可士和さんには十分にその才能があると感じましたし。

僕らは手がけてきたデザインは違うものだけど、お互いにビジネスの話をするのが大好きなんです。僕らがやってるのはアートじゃない。きちんとプロダクトの計画を立てて、全体のビジネスモデルを作って市場を作って販売して、利益を得て人を育てていくものだという考えをお互いに持っているんですよね」

――未来の農業をどのようにデザインしていくのかは、ヤンマーと仕事をしていく中で考えられたのですか?

仕事を受けてから勉強するとなると、間に合いません。デザインコンサルティングというのは、クライアントよりも業界のデザインについて深く知っていなくてはならないんです。言ってしまえば医者ですから、僕らは。患者さんがやってきて『頭が痛い』と言われた時に、正しく診断しないとダメなんです。だから仕事を受けてから勉強したってそれは遅いですよ。常に疑問を持っていないと。

もしクライアントよりも知識が乏しい分野の依頼がきたときは、その仕事を断るか、お金をいただかないで学ばさせていただきます。知らないからといって報酬をディスカウントするぐらいだったら、金を取るなと。だって安い報酬で受けてしまうと、今後もその値段でやらなければならなくなるんですよ?

それだったら無料でやりますよと言ってしまうんです。そしてプロダクトが世に出るとお互いに判断した時は、ライセンス料が発生しますという契約書を最初に結ぶんです。商品が世に出なかったら、それまでのお代はいただきませんよと」


未来の農業の担い手に向けた種が「YTシリーズ」


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――「YTシリーズ」のデザインは、どういったコンセプトを元に作られたのでしょうか。

「『YTシリーズ』は今の農家の人たちに売るものではなく、今農業に注目しているけど躊躇している人や、農業という産業に若い人たちを巻きこんで新たな形を作っていこうと考えている企業の人たち...あとは、今農業をやっているんだけど後継者がいないとか規模を大きくしたいと考えている人たちのために植えた種なんです。

あくまで国内の話ですが、日本の農業の未来は、残念ながら現在の兼業農家の立ち位置から見ると難しい。農に携わる人の高齢化、後継者不足によって田畑が荒れてきています。かく言う私の実家でもそうです。1ヘクタールぐらいの田んぼと畑を持っていますが、5年くらい放置してしまっているので、もう水田には戻りません。悲しいですよ。僕も子供の頃は田植えの手伝いをしていましたから。もちろん、最近は趣味で農業をやる人が増えてきてはいますが、規模は家庭菜園クラスでしょう。

結局、農業に興味ある人たちが一番欲しがっているのは、新しい農業の知識なんですよ。だけどソフトの部分ってわかりにくい。だからインパクトが強く、一番わかりやすい形でだそうということで、「YT01」は農業機械のショーではなく、東京モーターショーのスポーツカーブランドが並ぶところに展示しようということにしました。

狙いの1つは、モーターショーにきた子供たちにヤンマーの新しいトラクターを気に入ってもらえたらお母さんが喜ぶ。そしてお母さんが喜ぶならと、農業に興味のあるお父さんがその世界にチャレンジするかもしれない、という感情の連鎖の部分です」


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――実際に反響を間近で見てどのように感じましたか?

「実際に子供たちに喜んでもらったのは本当に嬉しかったし、他の名だたるクルマメーカーのブースよりもたくさんの人に来ていただきました。あと経済誌の一面やNHKのゴールデンタイムのニュースで扱ってもらいたいなと考えたんですよ。多くの一般の方に新しい農業の在り方という提案が伝わるようにと。

もっというと、社内改革のためにもやらないと...というのもありました。

プロというのは一番保守的です。多くの成功と失敗を繰り返して経験値も高いからこそ保守的になります。これはもう当たり前のこと。今まで自分たちがやってきて成功しているやり方を、なぜ変えなければならなのだと。誰だってそう考えます。

ところが、お客さまの層が変わるのであれば、ビジネスも変えていかねばなりません

モーターショーの話に戻ると、各社ブースにコンセプトカーを展示していますけど、あれの半分の目的は優秀な人材を集めるためのリクルーティングなんですよ。ちなみに、モーターショーのコンセプトカーは2億、3億とお金をかけることが多いのですが、テレビ番組のスポンサーになるよりもはるかに小さい予算で大きな効果を出せました。

僕にとっては計算通り。ですが、ヤンマー社内の人も喜んでくれたので本当に嬉しかったですね」


テクノロジーに惹かれるのは、人間の本能である


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――従来の農業の姿を一変しそうな最新技術が「YTシリーズ」には詰まっていますが、人間とテクノロジーの付き合い方ってどうしたらいいのでしょう?

「テクノロジーには人間が本能的に惹かれる何かがあると私は思ってるんですよ。脳科学者の茂木健一郎さんも言っていたのですが、凄いものを見て『いいなあ!』と感じたときの脳の反応って、喉がカラカラに乾いて水を飲んだときの快感と同じ反応なんだそうです。

実際にみんな好きですよね。自分の人生を、生活を良くしてれそうなテクノロジーって」

――大好きです!

「ただ気をつけなければならないのは、何が必要だというところを考えすぎると、テクノロジーそのものの魅力が失われちゃうんですね。

必要性にかられて、誰もが仕方なく欲しがるテクノロジーはコモディティ化しちゃいます。安ければ安い方がいいとなってしまう。実際に、電気とか水とか生活に必要不可欠なものほど、お金を払いたくなくなる人もいます。

ところが生きる上では必要ないんだけど凄いもの、好きなものに、人は対価を払います。その逆転現象が面白いんですよ。そして、本来は必要ないけど誰かが欲しがるものがブランドになっていくんです。だから必要なくても欲しいモノって何だろう?ということを考えます。ニーズ商品ではなく、ウォンツ商品を作ろうということを」


もし自動車文化が廃れたとき、最後の1台になるクルマとは?


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――ウォンツ商品に関して、もう少しお話を伺いたいです。

ポルシェ博士も言っていたんですけど、自動車文化が廃れたとき、世界で最後の1台となるのはスポーツカーになると僕は思っています。世間にとって、一番必要のないものですよ。スポーツカーがなくても世の中はまったく困らないんですから。

しかし通勤に必要なクルマは、電車やバスに置き換えられる。逆に人間の感性に訴える車両は、必要以上のところにまで徹底的にエンジニアが突き詰めて作っている。エンジニア自身が欲しいと思って、本心からロマンをおいかけたプロダクトは世の中に残るんですよ。実際に今まで作られたフェラーリのうち、事故で潰れた車両を除けばほとんど残っていて、クラシックカー市場では20億とか30億とか価値が上がり続けているんですよね。

もちろん業界の裾野を広げるために、日々の生活において必要になるものも作っていきます。ヤンマーはそのためにディーゼルエンジンの研究開発をこれからも続けますし、農業機械だけではなくて建設機械も、エネルギーシステムにしても船にしても、いろいろなものを作っていきます。

しかしブランドのピラミッドの頂点に据えるべき商品は、ニーズ商品ではなくてウォンツ商品。ヤンマーはいままでそういう考え方をしなかったのですが、次の100年に見据えたブランド作りにおいて「YT01」のようなハイエンドプロダクトが重要ということを語り、説得するのが、ヤンマーにおける僕の役割なんでしょうね」


ウォークマンと新幹線


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――これまで奥山さんの将来の考え方にまで影響するようなプロダクトとの出会いはありましたか?

「ソニーのウォークマンには震えましたね。心底から。

歩道を歩いていても、自分が映画の主人公になった気分でしたよ。すごいですよね。周囲の風景を見ながら頭の中が音楽でいっぱいになるって。隣を歩いていたガールフレンドに聴かせたらやっぱり表情が変わって。あのウキウキ感は忘れられない。

あとは山形新幹線。はじめて見たのが吹雪のときだったんですよ。横殴りの激しい雪で白く染まった世界を切り裂いて、シルバーとグリーンの400系が山形駅のホームに入ってきたのを見たとき、全身に鳥肌が立ちました。私の故郷である山形に、新幹線という日本の技術の象徴がやってきたんだ、と思ったあのシーンも一生忘れないと思います。


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――最後に、「YTシリーズ」はどのような方に購入してもらいたいのでしょうか。

「先ほども言いましたが、『YTシリーズ』のターゲット層も、60代70代の農家の人ではなくて、テクノロジーが好きな人なんですよね。そういう人たちに、農業は面白いビジネスになると思って入ってきてもらいたいです。

あと、このトラクターのビジュアルイメージってアイアンマンのスーツなんですよ。だから最初はアイアントラクターと言っていたんです。結局その名前は使わなかったんですけど(笑)。強くて人のシモベになってくれる未来の道具。自分ができないことをやってくれるパートナーとして、お客さまに使っていただければと思います」


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大学や専門学校で客員教授を務めている奥山さんは「まだ成り立っていない業界に対して人材を育てても、卒業したときに就職先がない」ということを知っており、だからこそ、デザインの力で市場を作ることを強く意識しています。

世界で勝負してきたデザイナーだからこそ描くことができる、未来の農業のあり方。100年後にもヤンマーという日本産ブランドを残すための種まき。「YTシリーズ」が耕す未開の地こそが、農業という産業にイノベーションを起こしていくのでしょう。

次回はお待ちかねの「YTシリーズ」のハンズオンならぬ、ライドオンレビューをお届けしたいと思います!


source: KEN OKUYAMA DESIGN

(武者良太)

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