実は日本でスゴいプロジェクト進行中。ILC加速器ってなんだ?

実は日本でスゴいプロジェクト進行中。ILC加速器ってなんだ? 1

宇宙のさらに先へ。

ヒッグス粒子が発見されたときのこと、覚えてますか? 別名「神の粒子」ともよばれ、スティーブン・ホーキング博士が「宇宙の破壊をもたらし得る」と警告したことでも話題となりました。ヒッグス粒子は、他の素粒子に質量を与えるというかなり特殊な素粒子で、その存在は標準理論で予測されていながらも長い間、確認することができないままでした。

ヒッグス粒子の発見

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宇宙の誕生、ビッグバンの直後から10億分の1秒後ごろまでは、宇宙に存在するのは素粒子(それ以上分解できない、最小単位の粒子)ばかりでした。爆発直後で熱いですから、どの素粒子も高いエネルギーを持っていて、ほぼ光の速さで動いていました。しかし、時間が経つにつれてだんだんと冷めていきます。それにつれて、ヒッグス粒子は他の素粒子にくっつくようになり、みんなどんどん動きづらくなっていきました。他の素粒子に質量を与えるというのは、ヒッグス粒子が存在することで他の素粒子が動きづらくなる(動きづらい=質量が大きい)ということなんですね。

そしてさらに時間が経過し、素粒子が集まって陽子、陽子が集まって原子核、原子、分子とどんどん粒子は大きくなって、現在の宇宙の姿へ近づいていきます。

ちなみに原子ができたのは、ビッグバンから38万年以降のことで、このあたりが望遠鏡で観察できる限界。それよりも前の、ヒッグス粒子が単体でいた状態までを観察するためには、加速器を使ってそのころの状態を実験室で作り出してやらなければいけないんです。このために作られたのが、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)という世界最大の加速器でした。

ジュネーブのCERNにあるLHCでは、ビッグバンから3分後のころまでの状態を作り出すことができます。このLHCによって、ほぼ光速まで加速した陽子どうしを衝突させると出てくる未知の素粒子の中に、2012年、ヒッグス粒子らしきものが観察されたというわけです。その後の研究の結果、半年以上経ってからどうやらその粒子がヒッグス粒子であることが確定的になりました。

ILCって?

どうしてこんなに時間がかかるのでしょうか? それは陽子が、素粒子(クォーク)とそれらをつなげるグルーオンでできていることが一因です。リニアコライダー・コラボレーション(LCC)副ディレクターで、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長の村山斉さんは、陽子どうしの衝突を「豆大福どうしがぶつかり合うようなもの」と表現していました。

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ILC東京イベントでの村山斉さんの発表より

豆大福どうしがぶつかると、豆(=素粒子)も餅(=グルーオン)もぐちゃぐちゃにぶつかって、ばらばらにいろんな組み合わせを作って吹っ飛んで行ってしまいますよね。これではなかなか粒子や反応の判別が難しい(このぐちゃぐちゃの中からヒッグス粒子は発見されたわけですが)。では、豆つまり素粒子どうしのみを衝突させられればもっとシンプルな気がしません?

これを可能にするのが、今、世界各国の素粒子物理学者が作ろうとしている「ILC(International Linear Collider)」、国際リニアコライダーです。ILCでは電子と陽電子(電子の反物質、素粒子)を直接ぶつけることができます。これならば未知の粒子や反応を観察しやすいですよね。

そのILCの建設地として、岩手県の北上山地が有力な候補になっています。日本政府もこのプロジェクトを真剣にとらえているそうで、科学者たちとかなり慎重な議論を重ねているようです。4月末に東京で行なわれたILCのシンポジウムに参加した研究者たちは、「政治家と科学者はたいてい相容れないものだけど(笑)」と前置きしつつも、日本政府は協力的な姿勢だと岩手県でのILC建設実現に期待を寄せていました。

今以上に素粒子物理の研究を進めるにはILCの実現は必須だと研究者たちは言っています。ヒッグス粒子の詳細や、ダークマター(暗黒物質)の解明についてもILCで大きく前進すると考えられています。

世界的に注目される加速器が建設されることで、日本にサイエンス・フレンドリーな雰囲気が根付くといいですよね。

source: ILC ProjectScience Window

(斎藤真琴)