インタビュー:「音楽論」から地球環境まで。Warp Records・スクエアプッシャーが語ったテクノロジーと未来の危険な関係

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何が残って、何が失われるのか...?

イギリス人エレクトロニック・ミュージシャンのトム・ジェンキンソン、通称「スクエアプッシャー」。独自路線で突っ走るWarp Recordsに所属してジャンルやスタイルでは形容しきれない独特の作品を作り続けエレクトロニック・ミュージックのイメージを刷新し続ける活動は世界中で支持され、ここ日本でもコアなフォロアーを生み出しています。

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定額制サービスの成長やダウンロード売上の低下など、変化が激しい音楽産業。その中でも特に物議をかもしているのが、クリエイターの未来ではないでしょうか。定額制サービスでクリエイターは食っていけるのか。クリエイティブな新人は育つのか。この状況で重要な役割を果たすのがテクノロジーの存在。外出先でも音楽が制作できるDAWツール。自分でプロモーションから販売までできる音楽ツール。もはやアーティストやクリエイターにとってテクノロジーとの共存は必要不可欠といっても過言ではないでしょう。

この状況をアーティスト達はどう思っているのか。そしてクリエイターの未来はどうなるのか? そんな疑問をアーティストに直接ぶつけてみようと思ったギズモード・ジャパンは、3年ぶりに新アルバム「DAMOGEN FURIES」(ダモジェン・フューリーズ)を4月にリリースし、ライブのため来日したスクエアプッシャー本人直接会って話をする機会を頂きました。

画面を動かして、360度のライブ映像を楽しめます。

ライブや作品で作り出す未来的で鋭いサウンド同様に、言葉も哲学的で鋭敏なスクエアプッシャー。未来像やテクノロジー社会のカルチャー論、地球の環境問題まで、他ではあまり聞けない話をどうぞ。

これは双方向の価値観のインタラクションだ

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ギズモード(以下ギズ):いきなりですが、あなたの情報をネットで見つけることは難しいですね。なぜならあなたはSNSを使ってコミュニケーションをしていません。それはあなたご自身のポリシーですか?

スクエアプッシャー(以下SP):まず言えることは、使う時間が自分には無いということだ。もっと他のことに興味がある。ただそれだけだな(笑)。

そうだな、オレはこう思っている。人生のほとんどの時間を音楽と過ごしてきた。子供の頃からな。その頃から全てが「パーソナルなレスポンス」とつながっていることに気が付いた。それは社会的システムが教えてくれるものでも、一般的価値観や大局的見地から学べるものじゃなかった。それを音楽に結びつけたものが、オレの根幹にある考え方だ。

オレにとって他の人がどう思おうと気にならないし、興味も沸かない。オレの友人も以前は音楽に惹かれていったが、多くの場合は他人からの視線を意識した社会的なスタイルを体現する音楽に浸透していった。それがいいか悪いか、最終的な答えは分からない。音楽は善にも悪にも利用される。だがオレはアートとしての音楽の可能性探求することに興味が惹かれる。オレは社会的価値観を高めるための音楽には関心がない。これと同じことがソーシャルメディアには言える。

一方で、オレも人々にオレ自身が何を思っているか、理解してほしいとは思っていないんだ。だからこれは双方向の価値観のインタラクションだ。オレの考えを誰かに押し付けようとは、少しも思っていない。

こういうインタビューが悪い例だ。ほとんどの場合、オレの価値観をオレが人に見せつけるような質問ばかりしてくるからな。だから最近はインタビューという形式が好きじゃないと説明するようにしている。あんたらジャーナリストは好きなフレームワークでオレを定義付けられるポジションにいる。そんなやり方はオレの活動にとって何の影響にもならない。あんたらのオレに対する見方を変えているだけだ。

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5/15 恵比寿ザ・ガーデンホールのライブから(画像提供、Beatink)

ギズ:それなら、あなたのファンに向けてライブをする時はどんな気持ちなのでしょうか?

SP:それは良い質問だ。ライブの場合、二極化が進む。一つはオーディエンスを喜ばせることに集中して、プレイして欲しい曲をプレイして、事前に計算して何がウケるかを演出する。もう一つは、自分が正しいと思ったことだけをただプレイし続けることだ。

オレにとってもライブは課題だ。人に意見を求めて自分を正当化するわけでもない。だがライブになると、人の反応に直面しなければならない。参加するか、無視するか、選択肢が生まれる。オレはライブを使ってオーディエンスにチャレンジしていきたい。チャレンジするためにはテクニックが必要だ。オレの場合は、オーディエンスを招き入れること。そうした上で断固たる方法でアイディアを提示する。

でも、オレは自分の身分証明書では「エンターテイナー」という職業に就いていることになっている(笑)。分かるだろ、それがどんなに奇妙なことかって。今まで一度も自分をエンターテイナーなんて思ったことはないからね(笑)。

音楽のブランドは拘束衣にしか見えない

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ギズ:あなたはこのクリエイティブな活動を20年も続けてきたが、ライブへのアプローチは時間と共に変わりましたか?

SP:方法論上は変わったが、本質的には変化していない。ステージに立つことが心地いいと思ったことも一度もない。だからこの3-4年、マスクを被ったり自分をカモフラージュしてきた。見つめられるのが嫌いなんだ。それに、個人的な好みもあるが、アーティストを物として扱い、製品として売る音楽産業のやり方が大嫌いだ

音楽産業では全ての物がブランドを作るために利用されている。だがオレには音楽のブランドは拘束衣にしか見えない。ブランドはアーティストのクリエイティブ脳を停止し、オーディエンスの脳も停止させる。なぜならブランドはシナリオ通りの反応で人を支配し、未来を考えるアプローチをも支配する存在だ。

オレの活動は、ブランド化から干渉されないことと言える。その一つの方法として、ライブセットでは演奏するオレがステージに立つ替わりに、映像がプロジェクションされるキャンバスとなったオレがオーディエンスの前に現れる。この方法だとオーディエンスはオレの身体の動きや手足を見るわけではない。

アーティストへの憧れがステレオタイプ化されれば、それは対象化につながる。そして個体への愛情が過渡になれば人間性の抹殺を意味している。人間的な感情や本質が失われて、その内にプロダクトそのものに飲み込まれてしまう。

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5/15 恵比寿ザ・ガーデンホールのライブから(画像提供、Beatink)

ギズ:あなたのライブセットを見ていると、常にテクノロジーに囲まれているが、必ず人間的な要素がどこかに入っていますね。

SP:オレのクリエイティブ活動にとっては人間的な要素は欠かすことができない。必要不可欠だ。テクノロジーはツールでしかない。テクノロジーはオレの知識を伝達して実行する。だが知識は人間だけが持つものだ。テクノロジーはその知識の可能性を拡げやすくしてくれる。

目的を持ってテクノロジーが利用されることが重要だ。それによって、テクノロジーは目的を明確にするための拡声器の役割となり、人のさまざまなアイディアをつなぐパイプ役になってくれる。

人には2つの選択肢がある。人がテクノロジーを管理するかテクノロジーに管理されるか、このどちらかだ。今、この社会を見渡してみると、ほとんどがテクノロジーによって管理されている。音楽の世界で言えば、テクノロジーに人が管理されれば、アーティストはただのデモンストレーターになる。アーティストではなくなる。ソフトウェアや機材、素材をステージ上でリアルタイムに再生するだけになってしまう。セールスマンの仕事だな。

人とテクノロジーのつながりは強いと思う。現代社会と思われるもののほとんどはテクノロジーの進化によって実現してきた。人はその度にテクノロジーに適応してきたが、テクノロジーによって考え方まで変えられてきた。今、ノートPCを使ってるだろ。人々はお互いとコンピュータのように接するようになった。もしテクノロジーを受動的に疑うことなく使えば、そのテクノロジーの特徴が自動的に理解できるように作られているからだ。

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SP:だからオレは音楽を通じて、人に疑問を持つ姿勢を持ってもらいたいと考えている。自分のライブを見終われば、オーディエンスは疑問を持つ姿勢を思い出し維持してほしいと思っている。なぜなら疑問を持つことが、テクノロジーに縛られた習性から逸脱するチャンスを作りだせる唯一の方法だからだ。テクノロジーの全てが商業主義に包まれている。ほとんどのテクノロジーはオレたちの性活に必要ないだろ? だがテクノロジー企業の多くが綿密な広告やマーケティングを使ってニーズを作ろうとする。これらは商業的な成功を目指して作られている。人間的な欲求を満たそうとはしていない。オレはそのやり方に反対だ。

今の時代、アーティストになりたくない

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5/15 恵比寿ザ・ガーデンホールのライブから(画像提供、Beatink)

ギズ:音楽産業はあなたが活動を始めた20年前に比べ大きく変化してきた。今、音楽家として活動を始めたいと思いますか?

SP:いや、絶対嫌だね。興味も持たないだろう(笑)

オレは子供の頃から科学に興味があった。科学者になりたいと思っていた。だからテクノロジーや数学に関心があるんだと思う。さっきも話した通り、テクノロジーは知識を応用するためのものだ。音楽活動もそのプロセスを学んでいることに等しい。

今の音楽産業では、もしヒット曲を作ったら、またヒット曲を作るようプレッシャーをかけられる。それが今の傾向だ。作品を作る方程式の一つを見つけたら、その中に閉じ込めようとする。その方が、ライフスタイルや収入、イメージ、信ぴょう性を担保しやすいからだ。だがオレには逆に学びの欲求を掻き立ててくれる。例えばオレが何か一つの方程式を見つけて作品を作ったとしよう。そんなものは喜んで捨てて、その替りに他のやり方をどんどん探し始める。それは科学的なアプローチで、そしてより人間的だと思う。製品や商業主義の特性に取り囲まれない、最も基礎的な人間的行動だ。学び、反応、適応。これらは人間のより自然な行動だ。オレにとっては、ヒットメーカーはマシーンのように見えるな(笑)。一元的な生活だ(笑)。

テクノロジーと人の関係から生まれる未来への不安

SP:未来に関するオレの心配は、人々が未来に対して虚弱体質になっていることだ。

今、文化的に我々の周りでは「レトロ・アクティビティ」つまりは過去を振り返る傾向が増えている。例えば、音楽も過去のスタイルに戻っている。その意味は、人々は未来に進むことを恐れている。未来について考える事を止める人が増えた。

その代わりに、これまで親しんだ安全で保証されている文化に落ち着こうとしている。オレが未来を示唆する音楽を作ることは、人々に広く未来を想像するキッカケを与える活動の一つでもある。

ほとんどの人が賛同しないだろうが、リスクを抱えたまま未来に進むことに、人類は絶望を感じているエネルギー消費は過剰なままリサイクルの問題は解決されていない廃棄物は減るどころか増えつづける一方だ。言ってしまえば、我々は人類自身を死に追いやっている。

この社会で生まれるテクノロジーへの見せかけだけのニーズが、環境破壊の原因だ。2年毎に新しいコンピューターを買い換えろと企業は言う。だがそんなのは嘘だ。企業の商業的目的は果たせても、地球破壊を助長するだけだ。ある意味、テクノロジーは未来の方向性を示してくれると思われている。だがオレには未来を破壊しているとしか思えない。そんなものは未来じゃない。テクノロジー利用に対して細かく批評的な見解を持つことによってのみ未来は可能になるとオレは思う。

* * *

「今の時代、アーティストにはなりたくない」とはっきり語ったスクエアプッシャー。でも彼が20年過ぎても活動を続けているその理由は、今のテクノロジーに決して満足することなくクリエイティブで有り続けろという我々の未来に対するメッセージのように感じられました。

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リリース情報

アーティスト:スクエアプッシャー(Squarepusher)

新アルバム:「DAMOGEN FURIES」

レーベル:Warp Records/Beat Records

リリース日:2015年4月21日

詳細情報はこちらからどうぞ。

image by Beatink

source: Squarepusher

supported by: Beatink

(企画、執筆:鴻上洋平、撮影:鈴木康太)