「ただのテック好きなんで…」そんな人が世の中を変えるかも

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テクノロジーが好きすぎて死んじゃう! そんなあなたは世界を変える原動力。

Googleが「テクノロジーで世界をよくするアイディア 」を掲げて開催したGoogleインパクトチャレンジ。グランプリを受賞したのが、GPSを使ってホームレスの人にパトロールをしてもらうアイディア。しかし、その仕組みが社会に与える影響を心配した声や批判が集まり、話題になっていました。

技術が人のニーズよりも先に生み出されるなか、よりよい社会のためにテクノロジーを利用していくにはどうすればいいんでしょうか。

ギズモードでは実際に「Tech for Good」(世界をよりよくするテクノロジー)に携わっている人に話を聞くことにしました。”Socially Conscious Nerds (社会の問題に関心の高いオタク)”を自称するNick Martinさん率いる「TechChange」は、Tech for Goodを実践する人を育てるためのオンライン教育を展開するスタートアップです。「愛知万博でみた日本のロボットがすごかったんだよね!」と語ってくれるくらい、テクノロジー大好きなNickさん。彼の考えるTech for Goodのかたち。少し覗いてきました。

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Tech for Goodを実現する「教育」

ギズモード(以下ギズ) まず初めにせっかくなのでMartinさんの思う「Tech for Good」の定義があれば教えて下さい。日本ではまだそんなに一般的な言葉ではないので。

Nick Martin(以下ニック) Tech for Goodは一言で言うなら、世界をよりよいものにするテクノロジーのこと。例えば、世界をより平和にするとか環境を守るとかね。人々をもっと健康にするのもそうだし、教育の機会を与えたり、農業をもっと簡単にするのもそうだね。こんな風にいろんな異なるセクターがTech for Goodに取り組んでいるけど、それぞれの境界線はちょっとずつあいまいになってきていると思います。

ギズ Nickさんの思い描く「Tech for Good」を実現するのに何が必要だと思いますか?

ニック 素晴らしいテクノロジーは毎日のように生まれ、発展し続けています。問題なのはどうやってテクノロジーを使うのか分かっていないことだと思っています。だからこそ教育が必要だと。世界には学校でテクノロジーについて学ぶ機会がない人もいるわけです。私たちがオンラインで授業を提供しているのも、そういった理由からです。インターネットはみんなに質の高い教育を提供する、きわめて民主的な場としての可能性を持っていると思います。

ギズ 具体的にそういったテクノロジー教育の必要を実感したシチュエーションはありますか?

ニック 例えば、ナイジェリアでマラリアを素早く検査できるツールが開発されました。何週間も待って病院に行くより効率的で安価なツールです。けれど人々はそのテクノロジーをどう利用していいか分からなかったんです。ヘルスワーカーたちをどう教育するか、どうやって一般の人に広めるか、などが問題となりました。そこで私たちがヘルスワーカーにオンラインのトレーニングを提供したところ、現地の人々は的確にツールを利用しマラリアを防げるようになったんです。こんなふうに、テクノロジーを利用するための教育は、とても重要だと思っています。

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ウガンダでも薬局のセールスにオンラインラーニングを提供

Socially Conscious Nerdsのパワー

ギズ 知識のギャップのせいでテクノロジーをうまく活用できない。こういった状況は先進国でも起こり得ると思いますか?

ニック どこでも同じように起こりうると思います。だからこそ「テクノロジーを社会貢献に繋げていくための教育」を人々にオンラインで提供することは画期的なことだったんです。

ギズ 以前インタビューで自分たちのことを「Socially Conscious Nerds(社会問題に関心のあるナード)」と呼んでいました。知識のギャップが先ほどのような問題を引き起こすなら、テクノロジーに詳しいナードたちのパワーはTech for Goodにも貢献し得ると思いますか?

ニック もちろんです。 プログラミングができることやガジェットを使いこなせること、それらについて深い知識を持っていることはとても素晴らしいことなんです。Socially Conscious Nerdsにはすごく期待しています。

社会問題に関心がある、と一言でいってもいろんなかたちがあります。世界をよくすることも自分の周りにあるコミュニティーをよくすることも同じです。世の中の人たちは、自分の持っているテクノロジースキルや、それがどれだけ社会の役立つのかを自覚していないことが多いと思います。

テクノロジーの可能性、そして危うさ

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ギズ これから社会にポジティブなインパクトを与えるテクノロジーにはどういったものがあるでしょうか?

ニック ドローンやSNS、携帯電話、ビジュアライズマップ。3Dプリンターなんかもそうですね。

ギズ 少し前にTechChangeのブログでもドローンの可能性がトピックになっていました。日本でもドローンの規制が進んでいるのですが、Nickさんはドローンについてどう考えていますか?

ニック ドローンは社会貢献の面で非常に高いポテンシャルを持っています。南アフリカではドローンを使って森林伐採が起こっている現場をトラッキングし、伐採に政府が関係していたことを明らかにできました。このデータに基づいて政府に対する訴訟が起こされています。ほかにも平和維持活動にも役立つはずです。今まで明らかにならなかった虐殺の跡、集団墓地が発見されることもあるでしょう。あともちろん必要な物資を届けるためにもドローンは使えるでしょうね。

やはり難しいのがレクリエーション目的のドローン使用です。私たちのオフィスにもドローンがあって飛ばしたこともあるけど、あれってすごくパワフルなんですよ。だから気をつける必要はあると思います。

ギズ ドローンと同じようにSNSを活用したTech for Goodの事例もたくさんあると思います。その一方でSlacktivism(人々がSNS上だけで何も考えずゆるーく社会活動に参加すること「slack(ゆるい)」と「activism(活動)」を合わせた造語)も問題視されています。これについてはどのように考えていますか?

ニック Facebook、Twitter、YouTubeのようなプラットフォームによって、オンラインで社会活動に参加できるようになったのは素晴らしいことです。ただし、参加したり意見を表明するハードルは格段に下がっていますよね。likeを押すだけ、とかリツィートだけ、とか。これによって世界に溢れる問題について感覚が麻痺してしまって、もはや危機感を感じなくなってしまう。その結果として耳を貸さなくなってしまうとしたら、危険なことだと思います。

Tech for Goodのひとつ「シビックテック」

ギズ TechChangeの教育はNPOやNGOで働く人が主な対象だと思いますが、そうでない普通の人もドローンやSNSなどのテクノロジーが社会に与えるポジティブなインパクトについて理解しておく必要があると思いますか?

ニック そう思います。自分の周りにいる人やコミュニティーをよくしていくためにテクノロジーをどう使っていくのか。これは知っておくべきだと思います。発展途上国の人々だけにあてはまる話ではありませんし、Tech for Goodにもいろんな形があると思います。

例えば、このところcivic tech(シビックテック)が盛り上がっています。テクノロジーでローカルなコミュニティーをよくしていこうという動きです。自分たちのコミュニティーをよくするためのマップを作成したり、それにもとづいてコミュニティーを運営してインターネットを低料金で人々に提供できるようにしたり。ほかにも市町村と人々が協力して、水道やゴミ、リサイクリングに対してテクノロジーの力でよりよいサービスを作っていこうとしたりね。Tech for Goodが生まれる機会は本当にどこにでもあると思います。

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ギズ ちなみにNickさんは昔からテクノロジーに興味があったんですか?

ニック そうですね。わたしの父がテクノロジーにすごく詳しかったんです。彼はホワイトハウスで働いていて、1984年に初めてホワイトハウスにEメールを導入しています。弟も京都大学でチンパンジーのアイちゃんの研究をしていたことがあります。

ギズ いつか3人一緒に何かやってみる予定などはありますか?

ニック もちろん。いつも考えていますよ。

ギズ ありがとうございました!

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テクノロジーの使い方がわからないのが問題、これは確かに日本でも同じかもしれません。タブレットを配ったけど、活用できてない…なんて話も聞きます。

Tech for Goodを実現するには、持たざる人にテクノロジーを与えるだけ与えて「はい、おしまい。あとはよろしく」、じゃ本末転倒。そこでどう使われるのか、どう普及させるのか、その先にある社会への影響も含めて、しっかり考えなければすべてがパーになってしまいます。ここ数年、日本でもプログラミング教育を!なんて言われてますが、そうやって出来上がった素敵なテクノロジーやシステムを「どう使えばいいか」考えさせる教育こそが必要なのかもしれません。

その意味で、最新のテクノロジーやイノベーションについて「これこうやって使えるんじゃない?」とか「でもこういう危険性あるかも?」なんてことをいろんな立場の人が話し合っていくことってすごく意味あることです。そうやっていろんな人からいろんなアイディアが集まって、Tech for Goodが生まれていく…。何だかわくわくしてくると思いませんか?

source: TechChange

(企画・取材・執筆/Haruka Mukai)