悪くないけどApple Musicにはガッカリだ

悪くないけどApple Musicにはガッカリだ 1

Apple Musicを使った米GizmodoのMario Aguilar記者の率直なレビュー。

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どうしちゃったんだろう…。

どこをどうとってもApple Musicは楽曲ストリーミングサービスとしては申し分ないサービスです。でももう2015年ですよ。こんな他社が何年も前からやってるのと同じ古いサービスじゃなく、もっとそれ以上のものがほしかったです。

まあ、ユーザーが求めるものは全部揃ってますけどね。月額980円で楽曲がオンデマンドで楽しめる。アプリは使って楽しい(先日GizmodoのKelsey記者が書いたように)。タップ一発で再生。感心するところもちらほら。

ただ、スペシャルなものがないんですよね。iPodとiTunesで革命起こした会社なんだからもっと何かあるだろうって期待したんですけど。前者は万人が買いたいと思った最初のデジタル楽曲プレーヤーで、後者は海賊版普及で沈没しかけの音楽産業を10年以上の長きに渡って浮沈させてきたデジタル楽曲ストア。

だけどこのApple Musicには、そういうスペシャルなものが何もないんです。

最初はハッピー

Apple Musicは昨年のBeats Musicのいい面は全部そのまま受け継がれています。人間がキュレートしたプレイリスト(例えば、伝説のエンジニアがプロデュースする「Behind the Boards: Butch Vig」)は、なかなかいい。アーティスト別のプレイリストもあって、売れ筋ソングからディープカット(ファンにしか良さがわからないマニアックな選曲)、そのアーティストに影響受けた曲まで聴けます。セレクションのクオリティーの高さを見れば、もう嫌でも人力ってわかります。

初日に早速試してみたら、Beats 1(Apple Musicの24時間生配信のラジオ局)はうれしい驚きでした。生ラジオ? ネットある今の時代に?と思って聴いたら、これが結構いいんですよ。今日もJulie Adenugaの番組を丸1時間飽きもせず聴いてしまいました。アップルは毎日のDJ以外にも、セイント・ヴィンセントとかの大物を高ギャラでDJ番組に引き抜いてます。ジェイデン・スミス(ウィル・スミスの息子)なんかヤバいこと言わねーかなって期待してついつい聴いちゃうよね(初日に30分ダウンしたのはもしかしてそのせい、という噂もある)。

Beats 1はとりあえず大ヒットですねー。まあ、Beats 1は月額払っても払わなくても聴けるからヒットするの当たり前っちゃー当たり前ですが。結局払ってまで乗り換える動機にはならないですけどね。特に僕みたいに他社のサービス(Spotify)購読してハッピーハッピーな人間は、プレイリストも再生履歴も全部Spotifyにあるので、それなしに一からはじめてどうなんの?とどうしても思ってしまいます。

それを見越してアップルが投入したのが、3カ月無料お試しで、ひと工夫すれば無料期間が終わった後に自動的に課金が始まる心配抜きで3カ月聴き放題できます。まあ、3カ月聴けば乗り換えちゃう人は乗り換えちゃうかもね。過去のプレイリストへの執着も断ち切れるぐらいの微妙な長さって気がします。

購読する人が大勢出るのは間違いなさそうだし、他社同様Apple Musicもユーザーはサービスにおおむね満足するでしょう。

僕が問題にしてるのは、そこじゃないんです。

失望

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やっとついにとうとうアップルの音楽ストリーミング実現!…と思ったら、出てきたプロダクトは、な~んか自分がやりたいからやるんじゃなく、やらなきゃならないからしょうがなくやってる感が激しくて。そこがガッカリポイントなんです。西暦2015年の今頃になって、なぜにアップルはこんな平々凡々たるストリーミングアプリを出すんでしょう。心底喜びが湧くところも、そりゃあります。しかし100%僕らの気持ちを正直に言ってかまわないなら、かなりヒマですね。今週はApple Musicの話題一色だけど、来週には誰も話題にしなくなっちゃうんじゃ…と心配になるぐらい、人の心を掴むものがない。へ~と肩すくめて終わり。

ニュースではみな「Apple Musicは『ストリーミングミュージック戦争』の覇者になれるのか」というテーマを取り上げてますね。機能面だけ見れば答えはNOでしょう。アップルで競争が一掃されることはまずないです。有料購読のユーザーが大移動するなら、それはコンテンツが目当てでしょうね。で、アップルにはそこから大量のお金が入る。でもどうせ大儲けするんなら、そのお金でもっとクールなものつくることもできただろうに。ユーザーのためになるようなもの。放っといても有料購読の人が何千万人と押し寄せてくる、だから手抜きでいい、ってことにはならないと思うんです。

こんなこと書くと「なぜアップルにだけ、そんなに要求が高いのよ」って言われそうですけどね。確かにそう。Spotifyにはそこまで革命的なものは期待しません。でもやっぱりiPodとiTunesはデジタル先史時代の音楽業界のビジネスのあり方を変えた革命だったと思うんです。

アップルが参入してくるまでは、デジタル楽曲といえば海賊版コピーで、デジタル楽曲プレーヤーといえばRioで、デジタル楽曲ソフトといえばWinampでした(この最後のWinampは結構よかった)。それが突然コンピューター上に楽曲の一大商圏ができたんだから、さあ大変。それまで出血が止まらなくて虫の息だった音楽業界も、曲をファイル単価で売ることが可能になって息を吹き返しました。簡単に使えるユーザーエクスペリエンスなので、買うほうもお金を払うのが気にならなくなった。アップルがデジタル音楽に与えた影響は語り尽くせないほど大きなものでした。

デジタル音楽の好調があまりにも長く続きすぎたアップルにとって、このたびの動きは「ストリーミングの未来に引きずり込まれた」という表現がぴったりなんですよ。

Spotifyは2008年にローンチ、2011年には米国に上陸しました。

時は流れて西暦2015年。だんだんデジタル楽曲を売るビジネスが先細りになってきて、古老のアップルがよろよろとパーティーに入ってきた。入ってきた格好を見たらな~んか昔流行りの服を未だに着ていて、そこで音楽が何年も止まってるみたいな風情だった、とでも言いましょうか。

ストリーミング音楽だってアップルがその気になればパイオニアになる機会はいくらでもあったんです。iPodやiTunesを立ち上げたときとは比べ物にならないほど会社は大きくなったわけだし。今のアップルにはもっとほかと違う、もっとベターなことする体力はあり余りほどありますからね。ところが、やってない。そこにガックリくるわけ。

切れる、Connect

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機会喪失といえば、Apple Music Connectも結構残念です。一応ここは、「アーティストが楽曲や体験をファンと直接シェアできるプラットフォーム」ってことになってます。Bandcampみたいな独立系楽曲ストアのフル機能版にスケジューリングとコミュニケーションのツールを搭載したようなものですね(余計にわからないだろうけど、とにかくなんかそういうやつ!)。

ただ今んとこ、Connectは薄っぺらいプラットフォームなんですよね。今日なんてSnoop Doggから「新しいレコードできた!」(5月に出してたんだね、知らなかった)っていう、超パーソナルなメッセージ(?)がきちゃいましたよ。アーティストとファンを繋ぎたいっていうアップルの意図はわかるんだけど(GarageBandのアプデでもConnectに直接パブリッシュできる機能ができたり)、その思いは虚しく空回りするばかり。結局昔からある大手レーベルのボットみたいなマーケティングツールの延長になっちゃってるんですよね、Connect。

まーでもわからないよね。こうやってウダウダ書いてるうちに、急に栄養不良のデジタル音楽シーンにクリエイティビティを取り戻すオアシスに化けるかもしれないし。ライセンス契約強制されてファンを失望させる前の、 かつてのSoundCloudみたいなコミュニティベースのものに化けてるかもしれないし。

…というのは楽観的に過ぎますかね。なんせApple Musicの背後で契約とりまとめて仕切ってるのは、元大手レーベルの大御所ジミー・アイオヴィン。音楽業界の重鎮を怒らすようなことするとも思えないですから。

Apple Music、悪くないです。悪くない。勝手に期待しすぎた僕が悪いだけ。

Mario Aguilar - Gizmodo US[原文

(satomi)