超人ミュータントのDNA解析で新薬続々誕生

超人ミュータントのDNA解析で新薬続々誕生 1

オランダには、メルセデスに衝突しても物損事故になる(車が凹む)ほど丈夫な骨をもつミュータントが住む集落があるそうです。世界は広いですね。

そうかと思うと、ストーブに触っても熱くない、ガラスの破片の上を歩いても痛くないミュータントもいるんだとか。

どちらも遺伝子の突然変異で生まれた超人です。

こうした遺伝子異常を新薬に応用できないかということで、今、アムジェンやジェネンテックを筆頭とするバイオベンチャーが猛烈な勢いで動いているという話がブルームバーグで紹介されてました。

もちろん超人には代償もあります。痛みを感じない米ワシントン州在住Steven Peteさん(34)の場合、赤ちゃんの頃、自分で自分の舌を噛み切りそうになって、それで初めて親が異変に気づいたといいます。調べてみたら遺伝子異常を父方と母方からそれぞれ1種ずつ受け継いでいました。ひとつなら問題ないのに、ふたつ重なると自損しても気づかないんです。その連続で、現在、左脚は不自由になってます。Peteさんのような人は世界に数十人います。

一方、骨が異様に強い鉄骨マン(骨硬化症)は世界に100人ぐらいいます。通常の人間ならば手足が切断されてしまうような状況でも、無傷な特殊遺伝子。南アのヨハネスブルグ在住の院生Timothy Dreyerさん(24)もそのひとりなんですが、やはり父方と母方から1個ずつ遺伝子異常を受け継いでいます。骨の発達が止まらないと脳が圧迫されるので手術を繰り返してきたんですが、ついに手術が追いつかなくなって聴覚を失ってしまいました。

凡人には想像もつかない悩みを抱える人々。でも、「彼らは自然の賜。有効な使い道を探るのはわれわれの義務だ」と語るのは、アムジェン社で骨粗しょう症薬国際開発部門を率いるAndreas Grauerさんです。ミュータント新薬はなにしろ、市場規模が半端なく大きいのです。

ひとりのミュータントから新薬ができる

ちょうどこの記事が出た2日後の24日には、仏サノフィ&米リジェネロン共同開発のコレステロール低下剤が欧州医薬品庁と米食品医薬品局(FDA)の認可を受けました。これも、あるひとりのコレステロール値が異様に低いエアロビのインストラクターの遺伝子突然変異がベースの新薬です。認可レースを繰り広げてきた米アムジェンも来月FDAから認可が下りる予定。

実用化されるとスタチンだけでは効き目がない患者さんに投与され、ひとり当たり年間12,000ドル(150万円)の出費で、年商10億ドル(1239億円)のビッグビジネスとなります。

無痛マン遺伝子→鎮痛薬

もっと大きいのが鎮痛薬で、当たれば年商180億ドル(2兆円超)の超巨大ビジネスです。

こちらはカナダのバイオテック企業「ゼノン製薬」が10年以上前から無痛の家系の人たちの遺伝子を調べ、イオンチャンネル「Nav1.7」を統制する遺伝子が欠けていたことを突き止めました。社員数十人で実用化は難しいので、その後はスイス製薬大手ロシュ傘下の米ジェネンテック(1,200人の研究開発部隊を擁する)と新薬を共同開発中です。

発売までには、まだ5年以上かかるみたいだけど、今の鎮痛剤の副作用もないスゴいものがきそうですよ。

鉄骨マン遺伝子→骨粗しょう症薬

骨密度が高いミュータントの遺伝子情報は何に使うのか? そりゃもちろん、骨密度が異様に薄い人の治療です。

米アムジェンが鉄骨マンの遺伝子異常を調べてわかったのは、骨の発達を妨げる、ある種のタンパク質が欠如してることでした。そこで数百通りの抗体を作ってテストを繰り返し、3年半かけて、そのタンパク質を抑制する抗体を突き止めたのです。

骨が薄くなる場所といえば宇宙空間もそうですよね? そこでさっそくNASAがこの新薬を投与したマウスをスペースシャトルに乗っけて13日間宇宙に飛ばし、帰還後に骨密度を調べてみたんです。そしたら投与してない15匹は骨密度が減ってたのに、投与した15匹はむしろ骨密度が増えて頑丈になっていたんですってよ! 恐るべし、ミュータント新薬!

この新薬は2つの第2段階臨床試験中で、早い方の結果は来年早々にも出ます。実用化されると、これまた年商10億ドル(1,239億円)か20億ドル(2,476億円)がチャリリンとアムジェンの懐に転がり込む計算。まさに金の鉱脈ですなあ。

昔、4,000億円弱、今10万円台

こうしたバイオ医薬品ブームの背景には、遺伝子配列解析が恐ろしく安くなってきたことがあります。ヒト1体の塩基配列の解析に1990年から2003年まで13年の歳月と30億ドル(3713億円)の膨大な国家予算がかかったのは今は昔。あのヒトゲノム計画と同じことが今なら1体1,000ドル(12万4000円)もあれば、ちゃちゃっとできちゃうんだそうですよ?

一番上の表は、バイオベンチャー各社が遺伝子サンプルの情報を買い漁っている現況なんですが、アムジェン、リジェネロンはもとより、グーグル出資のCalicoは世界最大の家系図サイト「Ancestry.com」(100万人以上の遺伝子サンプルを保有)と提携して長寿の鍵を握る遺伝子を探し中だし、セルゲイ・ブリン元妻アン・ウォジスキさんの「23andMe」(100万人以上の遺伝子解析記録を保有)も製薬10社以上と提携中、とあります。

ミュータント的には、世の中のために協力はするけれど、自分たちの苦しみを解消する方の研究にも力を入れて欲しい、というのが本音のようですけどね…。

source: Bloomberg

(satomi)