ジェイク・ダイソンの照明はミッドセンチュリーの夢を見るか

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21世紀初頭の名作として語り継がれていく予感、あります。

サイクロン掃除機の父、ジェームズ・ダイソンにはある一人の息子がいます。それはジェイク・ダイソン。ダイソン家の長男であり、大学でインダストリアルデザインを学び、2004年にはロンドンにワークショップを設立。自ら「モーターライト」という照射範囲をリモコンでコントロールできるダウンライト/ウォールライトを開発しました。

そしてジェイク・ダイソンは2人のデザインエンジニアとチームを組み、Jake Dyson ProductsとしてLEDライトの「CSYS」(シーシス)を開発します。

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スタンドの台座がつくCSYS desk

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机の天板などに挟み込んで固定するCSYS clamp

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1,409mmという高さを誇るCSYS floor。直立するレールにLEDが組み込まれたアームが水平に伸びます。この細身の十字架のアーム部は3 Axis Glideによって、自由自在に上下左右に動かせますし、ぴたっととまります。あまりのスムースさに、ちょこちょことポジションチェンジしたくなります。

シンプリズムを重視したジェイク・ダイソンがLEDの技術に着目するのは自然の流れといっていいかも。消費電力が少なくてエコ、発光部が小さくてデザインの自由度が高い、発熱が少なくて...

ストップ! 違うんです! ここ重要です。LEDは決して発熱の低い発光体ではありません。LEDが放つ光そのものはあまり熱くありませんが、電気を直接光に変えるLEDチップそのものはかなりの熱を持つのです。そして熱中症によりチップや周囲の回路がダメージを受けて、明るさが低下したりそのうち光らなくなってしまうのです。

「蛍光灯の寿命は5000時間ともいわれていたけど、実際には500~1000時間くらいでした。ライトに使われるLEDも同じで、電子回路部分の熱の処理が悪いと本来いわれている寿命ほどはもたないんです」

LED照明のヒミツ、ジェイク・ダイソンに聞きました

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LEDそのものは長寿命でパイロットランプのような低輝度な使い方なら何十年も光らせられます。しかしライトとして使うほどの高輝度を求めた場合、ヒートシンクなどによる高効率な放熱技術が欠かせません。

「数ある中で、いくつかの製品は公表されている寿命まで持つかもしれません。でも、これまでたくさんのLEDライトを分解してみてきましたが、熱を理解している私からすると果たして持つかな、と思っちゃうんですね」

確かに。現在発売されているLED電球はヒートシンクのようなパーツが台座部分にありますが、気になってウチにある電球の中を見たときにあれっ?と思ったんですよ。ヒートシンクが回路部分と接触していなかったんです。これってCPUクーラーを、CPUと接触させずに使っているのと同様ですよね。いいのかな、この設計で。と疑問を抱きました。

「安いLEDライトはたくさんありますが、それは数年間しか持たないプロダクトだから」と彼はいいます。え、もしかして一部のメーカーはLEDライトも消耗品として捉えているかもしれないってこと...?

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そこでジェイク・ダイソンはCSYSに、積極的にLEDチップを効率よく冷却するヒートパイプテクノロジーを採用しました。

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この銅製のパイプの中は真空で、1滴の水が入っています。LEDを点灯させると水滴が熱せられて蒸気となり、ヒートパイプ内に広がり、ヒートパイプ全体で放熱します。熱を失った蒸気はまた水に戻り、ヒートパイプ内部の銅製の網を伝わって熱源(LED)のあるほうへと戻り、また熱せられて蒸気となって放熱。こうしたサイクルによってLEDチップの温度を50℃前後に留めます。

「このテクノロジーによってCSYSは37年も光らせられます」

スゴい! 37年って! 長過ぎます!

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さらにジェイク・ダイソンは、LED銅ヒートパイプに、アルミのヒートシンクも組み合わせたペンダントライトの「Ariel」(アリエル)を開発します。

左右に伸びる両翼、これが全部ヒートシンク! 100wで9000ルーメン!という高出力なたった1つのLEDの熱を6本のヒートパイプでヒートシンクに運び、全身で冷却します。空冷万歳!

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まるで人工衛星のようなデザインですが、これは狙ってのこと。

「イギリスの初の人工衛星アリエルがモチーフです。ペンダントライトはまるで空中を飛んでいるように見せたかったんですね。実際には他の形状も考えました。丸くも、正方形にすることも考えました。しかしいずれもヒートパイプを曲げたり折ったりしないとならず、冷却効率が下がってしまうんですね」

そしてこのペンダントライトは1機で、ダイニングテーブルや8人用のワーキングデスク全体をムラなく照らせます。

「目指したのはオープンカーに乗っている感覚です。光は均一に、真上から降ってくる。仕事場でもこういった光を求めていると思うのです」

言い換えるなら公園のガーデンチェアに座っている感覚でもあるのでしょう。

「いくつもの電球を使って広い範囲を照らそうとすると、明るさにムラができてしまうんですね。Arielは知的なレンズデザインで、強力なLEDの光を広範囲に広げています」

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まるで和菓子のような、水信玄餅のようなレンズです。美味しそうですが、このぷっくりとしたデザインに光を広げるヒミツがあるのですね。

ジェームズ・ダイソンはどんなお父さん?

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「愛のある父です。私が何をやってもサポートしてくれる」

偉大なるジェームズ・ダイソンに比類する発想力とエンジニアリングを持つジェイク・ダイソン。どんなお父さんに何を学んだのか聞いてみました。

「これをやれ、あれをやれとはいわず、私たちが自由に、やりたいことをやれといってくれたんです」

そしてジェームズ・ダイソン自らの旅路で得た哲学も伝えられたそうです。

「私たちにいろいろ教えてくれる父です。私は彼から一生懸命働くことの大切さと、自分を信じることを教わりました。私たちはすごくラッキーです。それを理解することができたのですから。私の姉も弟も、みな同じような人生観をもっています」

いまはサーの称号を持つジェームズ・ダイソンですが、ジェイク・ダイソンが子供の頃は「あまりお金がなかった家庭だった」とのこと。

「普通の家庭だったんです。そして彼は20年一生懸命働いた結果、成功しました」

スポーツ選手などで一夜にして成功した結果、人間性が変わるという人もいますが、ジェームズ・ダイソンは違います。

「私たちはものすごく関係が近い家族なんです。普通の家族の価値観を同様に持っているんです」

ジェイク・ダイソンが目指す世界

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Ariel(アリエル)の価格はまだ決まっていません。CSYS(シーシス)が6万9120円~10万9080円(税込)のプライスであることを考えると、安い商品ではないでしょう。

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コストパフォーマンスという言葉が重要視される現代ですが、ジェイク・ダイソンは力強く前を見ながら「優秀なエンジニアリングやイノベーションは決して安くはない」と語ります。

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そしてArielやCSYSが18万時間も使える照明だからこそ、デザインクラシックとして後の世にも認められるものになるかもしれないと考えています。フランク・ロイド・ライトのタリアセン、フロスのアルコライト、ルイスポールセンのPH5といった、1940~1960年代に作られたミッド・センチュリー・モダンの偉大なるセンパイたちと同じように、ジェイク・ダイソンの照明も世代を超えて愛される存在になってほしいと願っています。

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デザイニングとエンジニアリングの融合。機能からくるエクステリア。これこそがダイソンのDNA。ゼロ年代&10's、新たなファーストセンチュリー時代を代表する近代照明の傑作となるか。その答えは数十年先にならなければわかりませんが、後のデザイン好きな方々がカフェでCSYSやArielについて熱く議論する姿が目に見えるようです。

source: ダイソン

(武者良太)