Netflixのマジックはデータではなく、コンテンツ(クリエイター)へのリスペクトにある #ネトフリ

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ハウス・オブ・カード 野望の階段 」のようなオリジナルシリーズが、どのようなマジックから生み出されたのか。

Netflix(ネットフリックス)は、オンラインのDVDレンタルサービスから、映像のストリーミングサービスを開始するようになり、さらにはドラマ・番組・ドキュメンタリーなど、オリジナル・コンテンツの制作・配信をワンストップで行なう巨大サービスへと成長を遂げました。その会員数は全世界で6500万人以上。ピーク時には全米のネットワーク回線の37%を超えるという快挙を成し遂げています。

そのNetflixが、ついに9月2日(水)の日本上陸をアナウンス。ツイッターアカウントもスタートしました。

いわば、プラットフォームビジネスからスタートし、現在はコンテンツ制作・配信も兼ねるようになったモンスター級の「プラティッシャー(プラットフォーム+パブリッシャー)」。しかし、その凄さの本質は物量的な問題でなく、映画という古き良きフォーマットへの愛情に満ちた運営方針であることがわかってきました。同時にそれはエンタメ産業がパーソナライズされ、断片化していく中で、もう一度家族で楽しめる良質なコンテンツ(つまり日本でいうところのテレビを中心に据えた「お茶の間」というコンセプト)を復権させる可能性を秘めたルネッサンスとも言えるでしょう。

私にとってカリフォルニア州ロスガトスにあるNetflix本社取材はメディアの価値観を変えるぐらい鮮烈なものでした。3回のシリーズで、第1回はCEOに「FREE AND RESPONSIBILITY(自由と責任)」という企業理念、つまりカルチャーについて聞き、今誰もが知りたがっている日本進出の戦略について「最初のターゲットは君みたいなApple Watchをした若者さ」というお言葉を頂戴したました。

第2回は、“待ち時間を実質的に0にする”ストリーミングのテクノロジー、革新的なレコメンド機能(アルゴリズム)の秘密が明らかにされました。社内でアルゴリズム・コンテストを行ない、優勝賞金は1億円。しかもその優劣すらもアルゴリズムで決めるという徹底したエンジニアリング/開発重視の姿勢。Netflixの日本法人社長(エンジニア出身)から聞いた、ストリーミングの読み込み時間が短いのはアルゴリズムを使って先読みしているからという目から鱗のアイディアなどなど。

第3回はウォシャウスキー姉弟「センス 8」制作陣にオリジナルドラマ制作についてインタビューしました。世界同時配信の4Kネットドラマというフォーマットを最大限活用しつつ、哲学的な領域まで、ストーリーを練りこんでいく制作スタッフのあくなき探究心とクリエイティブに対するこだわりに敬服したのです。

そして今回は番外編です。チーフ・コンテンツ・オフィサーであるテッド・サランドス(Ted Sarandos)さんに、ネトフリをネトフリたらしてめているオリジナルコンテンツがどのように企画され、ディレクションされるかについてインタビューしました。

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視聴率は意味がない

ギズモード・ジャパン(以下ギズ) これまでの取材で、Netflixがどれだけデータを重視しているかがわかってきたのですが、とどのつまりそのデータとは何なのでしょうか? 企業秘密にならない範囲で教えてください!

Ted Sarandos(以下Ted) いやいや。いたって普通に視聴者数と視聴時間ですよ。視聴率を公開したりはしませんが、常に1秒前のデータまで把握しています。どのようにコンテンツが視聴されたのか、どのくらいの長さで、または、繰り返し再生されたのか? こういったことに関するデータを大量に持っています。他にも、第1話を観たユーザーがすべてのエピソードを観たかどうか、1シーズン観終わるのにどれくらいかかったのかなどもわかっています。これらのデータを秒単位で分析しています。

ギズ そのデータは、監督をはじめとした制作陣に共有されているんですか?

Ted いや、共有していないです(笑)。私たちがデータを使うのは、ユーザーが観たいコンテンツに投資できているかをたしかめるためです。基本的には1つの番組を他の番組と比べます。コストに対する視聴数などが指標です。人気のある番組には多くの額を支払いますし、人気のない番組には少なくなるということです。

Netflixは巨大なディストリビューションベースを所有しています。6500万のユーザーが世界中にいます。だからこそ、大きなスケールで仕事をすることができるんです、マーベルの「デアデビル」(Netflix企画のテレビシリーズ)のようにね。マーベル作品は5つのシリーズの制作を予定しています。パイロット版なしで、です。これは大きなコミットメントですよね。マーベルの物語を作る能力、ブランドをコントロールする能力を信じているからです。4キャラクターそれぞれに1シリーズを作り、5シリーズ目で全員が揃います。アベンジャーズと同じようなやり方です。「デアデビル」についてはさらにシーズン2の制作を発表しました。全部のシリーズでシーズン2を制作するかはわからないけど、クロスオーバーするシーズンがそれぞれ制作されます。

「デアデビル」トレイラー

Ted (マーベルは)世界的に注目されるブランドで制作のスケールも非常に大きいですし、多額の制作費もかけています。けれどさきほど言ったとおり、今までのマーベル作品の視聴データの分析から、十分な視聴者を得ることができると明らかになっているんです。

ギズ 確かにパイロット版なし、シリーズごとに全作品を納品となると、途中で結果をみてあーだこーだとは言えないですね。

Ted 視聴率で争うことは、番組のクオリティーを下げる原因となってきたと考えています。上手くいったかどうかをもとに、クリエイティブに物事を決めなければならない人にとっては特に。

例えば、わたしが短期間のデータをみて「これは上手くいかない」と言ったとします。でも、短期間で上手くいってないからといって、長期間でも上手くいかないとは限りません。テレビは番組表に基づいて回っていて、特定の時間に観てもらえるようにしなければいけません。その意味で、従来のテレビでは即時的なパフォーマンスに対するプレッシャーが非常に高い一方で、オンデマンドサービスの場合、このようなプレッシャーはより長い期間に分散されます。

それに興味深いことに、Netflixではこういったコミットメント方法のおかげでよりよい番組を制作しています。Netflixで番組を制作する場合、第1話目の制作は、13話目までの全話を想定して行なわれますよね。これに対して一般的なテレビ番組では打ち切られないように毎週必死で制作する必要があります(笑)。クリエイターには物語を作ることに情熱を捧げてほしいんです。本当にクリエイターが思い描いたとおりに制作してもらいたいので、大幅な自由を提供するようにしています。

ギズ なるほど。つまり一斉配信というのは映画がフルエピソードで公開されるのに近い考え方ですね。

Ted まさにそのとおりです。私たちの仕事は、制作すべき人に制作すべき物語をつくってもらうことです。それから、彼らの人生において一番の作品を制作してもらえるように自由と責任を与えること。そのために必要な環境を作るのが私たちの役割です。作品を制作するのはあくまでクリエイターです。私たちのチームには才能溢れる人がたくさんいますが、彼らは脚本家でもディレクターでもありません。

このやり方は今のところ上手くいっていると思います。私たちの番組はすべてシーズン3までの制作が決まっています。これはつまり、みんながその番組を観ているということです。アワードやレビューからも、みんなが気に入っていることは明らかです。

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ギズ 旧来のテレビネットワークのやり方とかなり違うんですね。

Ted 家でテレビが特定のチャンネルに合わせられていた、これだけでは気に入ったのかどうかはわかりませんよね。視聴率が意味するのは、ある特定の時間に特定の家庭でテレビがついていたことだけです。

私たちにとって、いつユーザーが観たのかは重要ではありません。ある一定の期間をおいてから数カ月後にユーザーが番組を観ることもあるからです。私たちは、ユーザーが一気に観たエピソード数から、ユーザーがどのくらい番組を気に入ったのかを知ることができます。5分だけ観てやめたとすれば、高い確率で気に入らなかったのだと予測できますよね。気に入らなかったのか、もしくは後で戻ってきて観たのか、こういった情報を細かいレベルまでトラッキングしています。

ギズ Netflixならではの強力なレコメンド機能も、従来のテレビネットワークにはなかったものですね。

Ted 自分でなんとなく予測できるものだけではなく、自分でも予測できないかもしれないギリギリのところ。それを予測できるというのは素晴らしいといつも思います。例えば音楽なら、あなたの好きなバンドを3つか4つ教えてもらえれば、たぶん気に入るであろう音楽を選ぶこともできます。でも、テレビや映画などのコンテンツを選ぶとしたら、どんな気分かも教えてもらう必要があります。笑えるものが観たいのか、悲しいものが観たいのかです。ひょっとしたらどんなときも広くいろんなコンテンツが好きかもしれません。コンテンツを選ぶアルゴリズムは、気分や年齢など必要な基準が違ってくるんです。正しい予測をするのは難しいことなのです。それに俳優や女優もさまざまな映画に出演していたりするから、予測するのはさらに難しくなりますよね。

Netflixで変わっていく映画とテレビ

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ギズ Netflixオリジナルシリーズの「ハウス・オブ・カード」以降、ハリウッドで中年のヒーローが多くなったような気がします。

Ted 女性や男性、人種についても同じことが言えます。例えばアメリカにおいて「マルコ・ポーロ」はアジア人のキャラクターがメインで登場する珍しいテレビ番組です。「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」に出てくる女性たちは、人種も体型もさまざまです。ハリウッド映画に出てくる典型的な人々…つまり若くて美人のステレオタイプみたいな人たちではないわけです。そこにはリアルな人々がいます。だからこそ身近に感じたり、共感したりできるんです。

これから「ナルコス」というシリーズが配信されます。ブラジル人監督、Jose Padillaの作品です。この番組はスペイン語と英語が半分ずつ使われています。キャストは全員ラテンアメリカ人です。ブラジル人監督の作品にブラジル人俳優が主演し、キャストはラテンアメリカ人、撮影はコロンビアで。この作品は世界中で大成功するだろうと考えています。

「ナルコス」トレイラー

加えて、グローバルなテレビ番組になるのではと考えているのが、「センス 8」です。作品にはウォシャウスキー姉弟が参加しています。しかもこの作品は9つの都市で同時に撮影され、韓国やメキシコシティ、ムンバイからキャストが参加しました。8人がお互いの意識の中にいるという不思議なストーリーです。彼らはお互いの考えていることや話していること、見ていることなどがわかります。最終的に彼らはパワーを分けあう方法も学びます。7人が互いの強さを理解することで、スーパーヒーロー的存在になっていくんです。

「センス 8」トレイラー

グローバルテレビジョンがどんなものになっていけるのか、この番組を観るとよくわかるはずです。この番組は8カ国すべてにおいてローカルなのです。大規模でインターナショナルなアクションです。こういったことをこれから何度もやっていきたいです。それによって、こういった映画がグローバルではなく、ローカルに感じられるようになると思います。

「ある意味で、映画のレベルは下がりつつある」

ギズ つぎつぎといろんな才能がNetflixに参加していきますね。

Ted なにしろデヴィット・フィンチャー(「ハウス・オブ・カード」シリーズ監督)と一緒にやりましたからね(笑)。これがまさに門戸を開いた感じです。もう誰も「私は結構です」とは言えなくなりましたよ。彼は番組を制作するためのネットワークを探していました。そこで私たちが彼に声をかけたんです。Yesと言ってもらうために、私たちは彼らに大規模なプロジェクトを持ちかけました。パイロット版なしで、26エピソードです。その時点では、私たちは一度もオリジナルシリーズを作ったことはありませんでした。デヴィット・フィンチャーは私たちの世代でもっとも優れた監督で、当時の私たちと組むことは非常に高いリスクを伴いました。だからこそ、彼らのリスクを取り除き、私たちがそのリスクを請け負うことにしました。「デヴィット・フィンチャー監督が素晴らしい作品を作るに違いないと信じている」と伝えたうえでね。新境地を開こうとするときは、開拓者を見つける必要があります。

「ハウス・オブ・カード シーズン1」トレイラー

テレビシリーズのクオリティーは映画と同じくらいに追いつきつつあると思っています。そしてある意味で、映画のレベルは下がりつつあると思います。それは、映画をよりグローバルに楽しんでもらうため、というのが理由でしょう。映画を面白くチャレンジングにする代わりに、理解しやすくしているんです。映画を輸出するためにセリフを少なくして、アクションを多くするのです。これによって面白くて複雑なストーリーを制作したい人は映画界で立場を失ってしまいます。そうやって彼らはテレビ番組を制作するようになったのです。視聴者にとって、「ハウス・オブ・カード」のシーズン1は13時間にわたる映画のようなものです。映画とテレビの境界線をあいまいにするのは、視聴者なんです。別々に分けて考えているのは業界です。私が思うに、視聴者はそんな区別をもう気にしていません。

ギズ 将来的な映画監督でもテレビドラマ監督でもなく、「Netflix出身の監督」が出てくると思いますか?

Ted 間違いなくね。もちろんです。例えば「ハウス・オブ・カード」ではロビン・ライト(フランクの妻を演じる女優)が監督したエピソードがあります。彼女が監督にも挑戦しているんです。新しい才能や新しい考えを生み出す環境を作るのに必要なのは、大きなプラットフォームを用意することです。現在、私たちはすでに有名な人とも、まだ知られていない人とも仕事をしています。私たちは面白い作品をつくっているたくさんの人と繋がりがあります。彼らに番組の監督、ひいてはNetflix用の番組を制作してほしいと思っています。

ギズ ありがとうございました!

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「ネトフリはテック企業だ」という先入観を持って訪れたカリフォルニア本社。オリジナルコンテンツも、貪欲にユーザーのデータを収集、分析して"ヒットの法則"みたいなものを編み出して計算尽くしの制作をしているんだろうなーと勝手に思い込んでいました。

しかしコンテンツ責任者のTedさんは、データを制作に使うどころか、クリエイターサイドには共有すらしていないと言います。その理由は「クリエイターには物語を作ることに情熱を捧げてほしい」から。「作品を制作するのはあくまでクリエイター」なので、自分たちの仕事は「制作すべき人に制作すべき物語をつくってもらうこと」で、その「制作すべき人」を見極める(=投資する)ためだけにデータは使う…。

ネトフリがいかにコンテンツを大切にしているか、そしてクリエイターに敬意を払っているか、よくわかります。逆にこんなに自信たっぷりに「制作すべき人」への投資を決断できるのは、データを扱うテックサイドへの信頼でしょう。お互いに尊敬しあっているがゆえにきっちり線引きをして専門外のことは語らない、ネトフリの"プラティッシャー"としての核心を支えている秘密かもしれません。

photos by Kaori Suzuki

source: Netflix

(尾田和実、斎藤真琴)