ツール・ド・フランスにみるテレビの未来

これからのテレビのヒントはツール・ド・フランスにあるかもしれません。

今年度のツール・ド・フランスでは前代未聞の集団落車が発生し、脊椎を骨折したファビアン・カンチェラーラ含め6人の選手がリタイアせざるを得ない事態となりました。米NBCの報道によると、40万人以上の人たちがその日のレースをオフィシャルアプリでストリーミング視聴していたとのこと。さらに、GoProの捉えた事故映像は瞬く間に世間に広まりました。

…これって10年前には考えられなかったことですよね。

インターネットはTVの宿敵だと考えられていた時期もありました。しかし、今ではNBCなどの放送網にとって、インターネットはスポーツの新しい視聴の形を模索する場所となっています。

GoProの映像

アプリで変わる視聴方法

今年のツアーも、さまざまな物語にあふれていました。先述の落車事故をはじめ、フランスメディアが報じ続けたチーム・スカイのドーピング疑惑、クリス・フルーム選手のトレーニングデータがハッキングされる事件など…あげだしたらキリがありません。そんなドラマチックなツール・ド・フランスは、見れば見るほどその面白さにやみつきになってしまいます。

というわけで、どのレースも見逃せないのですが、問題は観賞方法ですよね。NBCスポーツを配信しているケーブルテレビなどに加入していない場合は、オンラインでストリーミング配信している海外のサービスを探すか、ネット上にあるトラッキングアプリの中からどれか選んでダウンロードしてみましょう。

もしお金を払うことに抵抗がないのなら、いつでもどこでもレースのライブ配信を楽しめるアプリがNBCより提供されています。20ドル(約2,500円)のiOSやAndroid向けのアプリと、30ドル(約3,700円)のデスクトップ向けアプリが用意されており、ツアーが進むにつれ価格は下がっていきます。

しかし、3週間のストリーミングチャネルのために30ドル(約3,700円)も払うなんて!と思う方もいるかもしれません。ただ、このアプリ、かなり優れものです。すでに配信されたシーンを後からリプレイできたり、GPS機能を使って選手をトラッキングできたり…さまざまな機能が用意されています。しかも、すべてのデバイスで操作できるんです。宣伝がないのも魅力的です。

こういった技術の開発はほかのスポーツでも進められています。例えば最近では選手の動きをトラッキングして数値化するMLBのStatcastなんかが話題になりました。

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スマホでのアプリの使用画面

このアプリの一番のポイントは、きわめて信頼性が高く、高解像度なストリーミング配信を行なっているところです。NBCスポーツグループのプロダクトディベロップメント担当バイスプレジデントであるジャック・ジャクソンさんは、この一貫して安定したアプリを開発するまでに1年の大半を費やしたと語っています。

NBCはこのアプリの開発にあたって、グランツールをライブストリーム配信するプラットフォームのTour Trackerと組んでいます。ストリーミングサービスを考えるとなると、古い放送網が飛躍を遂げるためには熟練のディベロッパーやデザイナーが必要になってくるのです。ジャクソンさんはこう言います。

Tour Trackerと組んだことは、インターフェースを正しく再定義し、ユーザー体験をよりスムーズで包括的にするのに役立ちました。

毎年、NBCはアプリをフォームファクタの変化(例えば今年だとiPhone 6やiPhone 6 Plusへの変化)に合わせて改良しています。

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デスクトップアプリの使用画面

もちろん、NBCのアプリにも欠点がないわけではありません。途中で視聴を中断すると、どこで中断されたのかわからなくなってしまうという欠点があります。あと、もしかしたらフィル・リゲットやポール・シャーウィンなどNBC専属のコメンテーターが気に入らないという人もいるかも…?

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モバイル版アプリ内のトラッキングオプション

動画自体は主にツール・ド・フランス独自の卓越した技術インフラから入手しています。例えば、メイン集団と逃げ集団の間を走るモーターバイクに搭載されたワイヤレスビデオカメラなど。このワイヤレスビデオカメラはルート上を飛行するヘリコプターにも搭載されており、近くの飛行機に撮影した映像を送信しています。それからNBCはその映像を編集してNBCスポーツで放送します。

ケーブルテレビサービスへの契約なしで放送を流すこと(Over-The-Topなど)は多くの放送網がためらってきたことでした。ただ、これから本格的に取り組む価値はありそうです。というのも、NBCによるとアプリで視聴可能にした今年の視聴者数は去年より32%多かったというのです。

今回のアプリはほかのより大きなイベントをストリーミングする際のモデルとなるかもしれません。NBCスポーツのシニア・バイス・プレジデントであるリック・コルデラさんに、今回のアプリがこれから他のスポーツ向けのアプリを作成していく上での試金石になりうるかどうかを尋ねたところ、「もちろんだよ!」という答えが返ってきました。現在、さまざまなスポーツでのアプリ使用を検討中とのこと。

GoProが広げてくれる視聴の楽しさ

昨年からGoProがツール・ド・フランスのオフィシャルカメラパートナーになり、ライダーたちのロードバイクに装備されることとなりました! これにより、私たち視聴者はメイン集団の中がどのようになっているのかを臨場感をもって楽しめるようになったのです。チームスポーツであるロードバイクの汗と涙の物語がよりいっそう伝わるようになりました。

全力疾走中に敵をひじ打ちしている様子

今年はすべてのレースで最低8人のライダー(日替わり)がGoProを使用。その映像はGoProチームに送られ、毎晩その日の厳選されたシーンがアップロードされていました。

冗談を言い合ったり、自撮りしたり…GoProは放送局が捉えきれないようなライダーたちの細かな言動を届けてくれました。

雨の日のクラッシュシーン

というわけで、ファンにとってはもちろん大興奮なわけですが、スポンサーにとってもロゴが長く映るわけですから嬉しいことですよね。

GoProは他のスポーツへの進出にも意欲をみせており、今年のはじめにはエックスゲームズ(エクストリームスポーツを集めた競技大会)やナショナルホッケーリーグなんかでも使用されました。

また、Caley Fretz of Velo Newsによると、2年以内にはツール・ド・フランスのすべてのロードバイクにGoProが装備されることを目指しているんだそう。実際に第2ステージが始まる前に少し試してみたらしいのですが、なかなかいい感じだったらしいですよ。

GoProが捉えたシーンのハイライト

というわけで、GoProもNBCも新たなビジネスを模索するためにツール・ド・フランスを実験台のようにつかっているんですね。確かに、ツール・ド・フランスはいろいろ試すのには十分な長さがあるし、アメリカでは規模の小さい方なのでリソースも大して使わないというメリットがあります。

ツール・ド・フランスに注目しているとテレビの未来が見えてくるかもしれませんよ。

Kelsey Campbell-Dollaghan - Gizmodo US[原文

(阿部慶次郎)