グーグルのサブスク型音楽配信「Google Play Music」担当者サミ・ヴァルコネンさんが語る、音楽サービスの作り方

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日本で広がり始めたサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービスに、また一つ大物プレーヤーが登場します。あのグーグルから聴き放題の音楽サービス「Google Play Music」が本日9月3日に日本で始まったのです。

海外ではいち早く始まっていたこのサービス、初日からAndroidだけでなくiOS、PCブラウザでも使えるというデバイスフリーな魅力と、ストリーミングに加えてクラウドロッカーストアが全て1つのアプリに詰まって複数の音楽の聴き方に対応できる機能を兼ね備えているという、他のサービスとは一線を画した楽しみ方が期待できるサービスと言えそうです。

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でも日本に現れたサブスク型音楽配信の中で、グーグルさんの音楽サービスって一体何が違うの?何にこだわって作っているの?どんな人向けのサービスなのでしょうか?やっぱり気になっちゃいますよね。

ということから今回、日本ローンチのタイミングで来日した、Google Play Musicの音楽パートナーシップ担当ディレクター、サミ・ヴァルコネン(Sami Valkonen)さんにお話を伺ってきました。

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グーグルには5年在籍しているサミさん。Google Play Musicチーム3番目のメンバーで、初期からプロジェクトを支えてきたコアメンバーの1人なんです。

現在Google Play Musicのチームは200人以上にまで成長しているそうですが、サミさんが加わったころ当初はレコード会社とライセンス契約もプロダクトの形もなく、ただのプレゼン資料だけの状態だったそうで、現在のサービスの規模にまで成長する過程は素晴らしい体験だと言います。

母国フィンランドでヒット曲を持っているという元ミュージシャンのサミさんのユニークな経歴を簡単に説明しますと、グーグル以前はノキアでサブスクリプション型音楽サービス「Nokia Comes With Music」のビジネス担当ディレクターを務め、その前は音楽ビジネス専門の弁護士として、レコード会社や映画スタジオの著作権問題に取り組んできました。また90年代は大手レコード会社BMGで事業開発およびニューメディア担当上級副社長として初期のダウンロードサービスに関わってくるなど、これ以上に詳しい話を聞ける人はいないのでは?と思ってしまうほどの経歴の持ち主でした。

YouTubeとは異なる「ハイブリッド」型サービス

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まずサミさんは、Google Play Musicはただのサブスクリプション型サービスと違い、「ハイブリッド」な音楽サービスであることを強調し、無料のYouTubeは異なる考え方だと説明します。

「Google Play Musicはサブスクリプションの聴き放題に加えて、グーグル独自のユニークなオンラインストアを提供しています。こちらでは音楽を購入することが好きな日本の利用者に楽しんで頂けると思っています。私達のストアがユニークな点は、デバイスにダウンロードするのではなく、グーグルのクラウドストレージに購入した曲が自動保存される点です。つまり音楽ファイルをデバイス間で同期する必要がありません。グーグルのアカウントにログインすれば、すぐに再生が楽しめます」

「もう一つ重要な機能は、無料で提供する『デジタルロッカー』サービスです。デスクトップに置いているデータやCDなどから5万曲までクラウドに保存して、スマホでストリーミング再生することは勿論、タブレットやChromecastで再生することもできるんです。これらの機能は別々の機能ではなく、全てが連携して一つのサービスとして皆さんに音楽を届けることができるのです」

次に、Google Play Musicがどんなユーザーをターゲットにしているかについて、サミさんはモバイルユーザーの重要性を説明してくれました。どうやらそこがYouTubeユーザーとの大きな違いのようです。

「Google Play Musicはモバイルユーザー中心で開発してきました。YouTubeは音楽を見つける場所として素晴らしいプラットフォームですが、今もデスクトップユーザーに人気のサービスなのです。私達はAndroidチームの一部です。つまり、当初からモバイルを前提に開発を進めてきていることがYouTubeとの大きな違いとなっています。そのためYouTubeと私達は全く異なる利用者に向けて音楽サービスを届けてきました」

「YouTubeとはお互いに協力し合っていますし、コラボレーションする機会も探っています。今は新しいサービスの日本ローンチを成功させることが重要課題です。今後はYouTubeとも何が一緒にできるのか、考えていきたいですね」

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音楽の楽しみ方がGoogle Play MusicとYouTubeでさらに広がりそうな予感がします。特にただの音楽プレーヤーとしての機能だけでなく、音楽を保存したり購入までできるワンストップな機能には、グーグルらしさが垣間見れます。この製品を開発するために、グーグル内ではどんな準備が進められていたのでしょうか?

「5年前Google Play Musicに加わった時、私のゴールはこのサービスをいち早く世界に拡げることでした。私は2011年に初めて日本に来てどうしたらサービスを始められるか、日本の企業と話し合いを始めました。できればもっと早く日本に来れれば最高でしたね。ですが私達にとっては、『良い製品(Right Product)』を作る方が最も重要な課題なのです。そして利用者が使いたくなるコンテンツを準備することが、タイムラインを決めるよりも重要だと考えたのです。2011年には私達のサービスを受け入れる体制が日本の業界にはありませんでした。ですが対話を重ねて関係を作ってきた結果、業界もサービスを始める準備が出来たのです」

音楽体験を拡張するコンテクスト・プレイリスト

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Google Play Musicを使って、体験して欲しい音楽の楽しみ方について聞いてみました。データ企業の代表格とも言えるグーグルのアルゴリズムが生み出すレコメンデーションにはサミさんも自信を持っているようです。

「Google Play Musicを利用して生まれる音楽体験は2つあると考えています。まず初めに利用者には、新しい音楽との出会いを体験してほしいですね。新しい音楽が好きな人には、最高のレコメンデーションで音楽をお届けしますよ。利用者それぞれが1人のアーティストからレコメンドされた関連するアーティストを知る。このプロセス自体が楽しい体験へと変わるのです」

「同じく重要な音楽体験は、どんな人でも気兼ねなく音楽を楽しめるようにできることです。そのために、私達はアルゴリズムを使って、皆さんの好みに合わせたプレイリストをお届けしていきます。一方で音楽の専門家が組み立てる「コンテクスト・プレイリスト」(文脈プレイリスト)も同時に用意しています。例えば月曜日の嬉しい朝、金曜夜の食事時といったように、ユーザーが選ぶシチュエーションごとにプレイリストを揃えているので、これほど簡単に音楽を再生できる方法はありません」

Google Play Musicの楽しみ方がマシーンによるレコメンデーションだけじゃないことが分かってきました。グーグルが2014年に買収したプレイリスト型音楽サービスSongzaをベースにして、人の生活や瞬間に関連性の高い音楽を見つけてくれる「コンテクスト・プレイリスト」は、その人が今感じている気分や行っている活動に合わせてくれる驚きや意外性に出会えそうですね。

「私達が考えるコンテクストには、そのユーザーがおかれている状況や行動と、そしてエモーショナルなコンテクストの二通りがあります。前者でしたら、食事の時に聴きたい音楽とジムに向かう時の音楽は異なるはずですよね。後者でしたら嬉しい時や、失恋した時に聴きたい音楽も違ってきます」

「私達はアーティストやアルバムがベースのプレイリストも数多く用意しています。そこに加えてコンテクスト・プレイリストがあることで、普段と違う音楽も聴くことができます。コンテクスト・プレイリストは新しい音楽を見つける方法の一つなのです」

「全てのプレイリストはカスタマイズができます。もし嫌いな曲が入っていれば、プレイリストから消すこともスキップすることもできますし、自分の好きな曲を代わりに追加することもできるようになっています。例えば夕食時にBGMで流したいプレイリストを考えるなら、一から自分で作るよりも、専門家が作ってくれたプレイリストをカスタマイズすれば、とても簡単に自分オリジナルのプレイリストが作れるんです」

消費者はパーソナルレベルでのサービスに期待している

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アルゴリズムとキュレーションによる二通りのレコメンデーションで音楽を見つける。そしてそこには、グーグルが持つデータ解析技術のノウハウも注入されているようです。データの価値を理解しているグーグルのことだけに、音楽配信サービスでもそのメリットに期待したくなってきます。

「グーグルはデータ中心の企業です。Google Play Musicでは、ユーザーの行動から集まってくるフィードバックを使って常にプレイリストを最適化しているんです。つまりフィードバックが増えれば増えるほど、より最適なレコメンデーションを提供できるようになります。『いいね』ボタン以外にも曲のスキップや削除までを把握して、常にプレイリストをカスタマイズしています」

「私達はアルゴリズムによるレコメンデーションと、人によるキュレーションの両方が必要だと考えています。そして双方に補完しあう存在だと思います。日本にも音楽専門家によるキュレーション・チームを作りました。Google Play Musicではローンチした国に専門チームを作り、ローカルの専門家がその国の人に関連性の強いプレイリストを作っているんです。各国で最も最適なプレイリストを作るには、ローカルの音楽専門家にキュレーションを任せることが大事だと考えています。キュレーションで補えないスケーラビリティをアルゴリズムが補完してくれます」

「私の考えでは、現代のデジタル・エンターテインメント企業では、データを活用することが、市場での競争力を高めるための手段として、すでに常識になっていると感じます。消費者はパーソナルレベルでのサービスに期待をするようになりました。それがパーソナライゼーションとカスタマイゼーションの形になりました。各サービスがテクノロジーを駆使してどれだけユーザーと関連性の高いコンテンツを届けられることが、サービスの成功を図る一つの指標になると思います」

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最後に、日本で始まったばかりのGoogle Play Musicですが、今後はどんな展開を想定して、何を計画しているのか、聞いてみました。

「私達が支援したいと思っていることは、フィジカルの音楽購入をデジタルに移行することです。規模は違うので簡単に比較はできませんが、市場の規模ではアメリカは71%の音楽がデジタルで購入されているのが現状です。日本の音楽市場もデジタルを受け入れることが今後は重要になると感じています。なぜなら、デジタルが音楽の未来だからです。音楽の市場が回復するには、魅力的なデジタル音楽の市場を作る必要があります。私達は日本の音楽市場も変わっていってほしいと思い、デジタルでのコンテンツ配信のサポートができればと考えています。楽観的かもしれませんが、2年後には日本のデジタル音楽市場も60%ほどに成長してくれれば最高ですね」

「私個人の目標は、まだリーチできていない国に行くことですね。韓国、インド、インドネシア、南アフリカではまだ始まっていません。Google Play Musicの大きなゴールでは、製品を引き続き改良して最高の状態でユーザーに届けることです。私はチームが達成した功績を誇りに思います。今の製品も素晴らしいですよ。ですが、私達は常により良い製品を作っていきたい。そしてもっと多くの国の人に使ってもらいたい。サービス改善は常にしていきますし、やらなければいけないことはまだ多くありますよ」

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どんなコンテンツを配信するのかではなく、どんな音楽を人が望んでいるのか、を考えるために、データと人間の相乗効果で生まれたGoogle Music Play。人に寄り添ったユビキタスな音楽体験は、僕たちの音楽に対する見方や接し方も変えていくのかもしれません。普段はほとんど語られることのないグーグルの音楽戦略を分かりやすく説明してくれたサミさん。特に「日本の音楽も変わって欲しい」と思いを語る姿が印象的でした。サブスクリプション型音楽配信サービスが音楽を聴かせる第一歩だとしたら、Google Play Musicはその次、そのもう一歩先までユーザーの行動心理を考えてくれているようなサービスかもしれません。

source: Google Play MusicAndroidiOS

(取材:Yohei Kogami、撮影:鈴木康太)