IBMの先端技術Watsonが使える「Bluemix」の正体を、名探偵が解き明かす

2015.09.25 17:00
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私の名はワトソン。

日本時間の9月2日、ホームズと私はとある招待を受けて、イギリスを離れ日本にやってきた。東京にある渋谷という街で、何やらイベントがあるらしい。

このイベントはIBMの「Bluemix」に関連したものらしいが、なぜ私たち2人が招待されたのか。それについて詳しくは知らされていなかった。ただ、渋谷で行われるイベントを見学するだけのようだ。

ホームズは何か知っているのかもしれないが、私には特に内容を明かさない。不機嫌そうな顔をしながら(日本ではパイプを吸えるところが少ないのが気に入らないらしい)、目的地であるベルサール渋谷ファーストへ向かうタクシーの中、押し黙っていた。

「ホームズ。はるばる日本まで来て、いったい何を見せるつもりなんだろうね」

私は、短いスカートを履いた若い女性が多いことに少々の驚きを感じながら、ホームズに尋ねた。ホームズは、窓の外に流れる景色を見たまま、特に口を開かなかった。


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受け付けで記帳。ホームズは何を見ているのだろうか……。


ホテルからタクシーに乗っておよそ15分、目的地であるベルサール渋谷ファーストへ到着した。イベントはすでに始まっているようだ。

「ホームズさん、ワトソンさん! こちらです。遠路はるばるお越しくださいまして、ありがとうございます」

男性は、日本IBMの社員だった。ホームズへ招待状を送付したのも彼ということだ。

「実は本日、こちらでとある授賞式があるのです。その式をぜひ見ていただきたいと思いまして」


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彼は、我々を大きな会場へ招き入れた。そこには「Bluemix」の大きな文字が。最近、アプリ開発者の間で話題になっている、新しい開発環境の名前だ。イベントの名前は「SoftLayer Bluemix Summit 2015」。Bluemixのユーザーコミュニティが主催するカンファレンスということだ。Bluemixとは、IBMが提供するクラウド上の開発環境だ。


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開発者や技術者による数々の講演が行われるほか、Bluemixを使ったプログラミングコンテスト「IBM Bluemix Challenge 2015」の授賞式が行われる。600組近くの応募があり、そこから選ばれた優秀作品が表彰されるのだ。コンテストは一般部門と学生部門に分かれている。一般部門の最優秀賞1組、および学生部門のファイナリスト3組には豪華な副賞が用意されているようだ。


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残念ながら、ホームズはその方面には明るくないし、私も少しだけ見聞きしたことがあるだけだ。しかし、アプリ開発者にとって、このBluemixはかなり革新的な環境であることは知っている。

「Bluemix。最近よく耳にするけれど、僕は詳しくは知らない。ワトソン、君は知っているかい?」

私は、Bluemixについて知っていることをホームズに話した。


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「Bluemixとは、クラウド上のアプリ開発環境のことだよ。通常、アプリ開発をするには自分でサーバーを用意し、OSや必要なデータベースなどをインストールして開発環境を構築する必要がある。これは早くても数時間、平均してほぼ数日かかるとも言われている。そして、組み込みたい機能があればプログラミングしていく必要があるんだ」

ここまで話したが、ホームズは聞いているのかいないのか、壇上で繰り広げられる授賞式を眺めている。私は説明を続けた。ホームズは、聞いていないようで聞いている。

「しかし、Bluemixはクラウド上で開発環境を構築できるんだ。自分であれこれ用意しなくても、Bluemixにログインして、使いたいOSやプログラミング言語を選択すれば、すぐに開発環境が整う。普通なら一晩かかることがものの数分で終わってしまう。そして、100種類を超えるサービスやAPIがあらかじめ用意されているのも特徴だ。自分がアプリに実装したい機能を持つAPIをBluemix上で探して、それらをBluemix上で連携させていけば使えるようになる。つまり、手間を掛けずにアプリ開発ができるというわけだ」

ホームズは、こちらを見て次をうながすような表情をした。しかし残念ながら、私が知っているBluemixはここまで。専門家ではないので、あまり詳しいことは知らない。


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私が肩をすくめて見せると、ホームズは口元だけで笑い、また壇上で行われている授賞式を見ていた。学生部門の表彰式が終わると、ホームズは大きな拍手をした。

「彼らがこのコンテストの受賞者なのか。いったいどんなものを開発したんだろうね、ワトソン」

ホームズは、今にでも彼らに話を聞きたいとでもいうように言った。

「ホームズ、午後からは今回の受賞者のライトニングトークが行われるらしい。それを見てみようじゃないか」

私は、入り口で渡されたプログラムを見ながらホームズにそう提案した。


出展ブースで新しい技術に触れる


ライトニングトークが始まるまで、我々はさまざまな講演を聞いた。また、会場のロビーには協賛企業や出展社のブースがあったので、2人で見て回った。実際にBluemixを利用して開発されている筋電義手など、とても興味深いものがあった。


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「ワトソン、見てくれよ。この義手、まるで本物の手のような動きをするよ!」

ホームズは子どものようにはしゃいでいる。そんなホームズを見ているのも楽しいものだ。


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軽食も用意されていた。


白熱のライトニングトーク


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そうこうしているうちに、午後のライトニングトークの時間になった。ライトニングトークとは、3分や5分という短い持ち時間で登壇者がトークを展開する。今回は午前中に受賞した人たちが壇上に立ち、自らの開発したアプリについて発表をしていた。


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チャット形式で旅行プランを提案してくれるWebアプリ、点いているけれど見ていないテレビの時間を可視化するアプリ、道路の凸凹を検知して可視化するサービスなど、興味深いものが多く、ホームズも私も思わず聞き入っていしまった。

そこに日本IBMの彼がやってきた。どうやら、今回の受賞者のうち一般部門の最優秀賞受賞者と、学生部門の受賞者に話を聞けることになったらしい。

ホームズの目が鋭くなった。数々の事件に立ち向かうときの、あの目だ。厳しさの中に、好奇心が満ち溢れている。よほど興味を持っているのだろう。

ホームズは、Bluemixというものがどんなに革新的な開発環境なのかを知りたがっている。長年の付き合いから、私にはわかるのだ。

「ワトソン、僕はBluemixというものをまだあまり理解していない。しかしとても興味がある。そして、なぜ僕らが呼ばれたのかその答えも知りたいだろう?」


受賞者へのインタビュー


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我々は、用意された別室へ案内された。そこには、先ほど壇上でライトニングトークをしていた若者たちがいた。まずは、一般部門の最優秀賞受賞者であるCTC Cloud Clubだ。

ホームズ:君が開発したのは、「またたび - 対話型旅行プラン提案bot -」というアプリということだが、いったいどんなアプリなのかな?

CTC Cloud Club:旅行提案botというサービスです。チャットを使った対話形式で旅行提案をするWebアプリとなります。

ホームズ:開発期間はどのくらいかな?

CTC Cloud Club:1ヶ月半くらいです。まあ、ほかの業務もやりながらなんですが。

ホームズ:それは早いほうなのかな。

CTC Cloud Club:そうですね。Bluemixを使わなかった場合、3〜4ヶ月ほどかかるのではと思います。


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「またたび - 対話型旅行プラン提案bot -」を開発したCTC Cloud Clubの原田一樹さん。


ホームズ:あなたがBluemixを使う上で得たメリットとは。

CTC Cloud Club:やはり、100種類以上あるAPIですかね。やりたいことを思いついて、BluemixからAPIを探すと、使えるものが結構見つかるので便利です。

ホームズ:じゃあ、逆にまだもの足りない部分は?

CTC Cloud Club:Bluemix自体がサービスを開始して1年くらいということもあり、技術情報が不足しているところでしょうか。独自要件をやりたいときに、必要な情報がドキュメントとしてまとまっていないことがあります。都度、自分で作るなどして情報発信をして、ほかのユーザーさんに役立つようにしています。

ホームズ:これまでの開発環境と大きく違うところはなんだろう。

CTC Cloud ClubBluemixで完結しているところではないでしょうか。他の開発環境では、外部アプリと連携をして機能を構築していくのが常套手段ですが、Bluemixの場合は開発のバージョン管理の機能もデプロイの機能も持っているので、外部で用意するものが少ないのがいいですね。

ホームズ:デプロイ?

ワトソン:開発したアプリを実際の運用環境に展開することだね。デプロイをすることで、初めてアプリとして使えるようになるんだ。

CTC Cloud Club:一番の目玉は、IBMが開発しているコグニティブ(学習する)コンピュータである「Watson」の機能が使えることでしょうか。

ホームズ:Watson? 君と同じ名前だね。

ワトソン:ああそうだね。ちなみにWatsonとはどんなものなのですか?

CTC Cloud Club:さまざまなことができるんですが、一番のメインは質問応答機能「Watson Q&A」ですね。質問をするとWatsonが自動で答えを返してくれるという機能なんです。現在Bluemixでは、トラベルヘルスケアの分野のみ、Watson Q&Aが使えるんです。

ホームズ:Watsonはそう気軽に使えるものではないのかな?

CTC Cloud Club:そうですね。一般の人は使えるものではありません。しかし、Bluemixならば一部とはいえWatson Q&Aの機能を使えますし、質問応答以外では画像認識やテキストを音声化する機能などが使えるので、そこは大きなアドバンテージだと感じています。

ホームズ:なるほど。よくわかった。ありがとう。

ホームズは、CTC Cloud Clubの方が席を立ってからも、しばらく思案にふけっていた。Bluemixの概要と特徴はおぼろげながらわかってきたようだ。ただ、我々がここに呼ばれている意味はまだわかりかねているといった顔だ。

次は、学生部門で受賞した4組に話を伺うことになった。

簡単なプロファイルは以下の通りだ。

【ファイナリスト】

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●チーム名:ドブネズミ
●アプリ名:俺の一日 〜濡れない、焼けない、遅刻しない〜
●概要:日照りや雨を避ける移動ルートを カレンダーから自動的にナビゲート
●開発期間:12時間

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●チーム名:Millet Way
●アプリ名:Bump Hunter
●概要:モバイルデバイスで道路の凹凸などを検知し可視化するサービス
●開発期間:5日間

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●開発者:Senrigan
●アプリ名:Senrigan
●概要:車載カメラの情報をライブ配信とともに記録。見たい場所の映像を共有
●開発期間:6日間


【特別賞】

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●受賞チーム:Blue Creators
●アプリ名:Blue-mixer
●概要:コグニティブコンピューティングシステム Watson が人の気分を分析し最適な音楽を提供するアプリ
●開発期間:2ヶ月

ホームズは、さっそく彼らに話しかけた。

ホームズ:まずは開発期間について。ドブネズミは12時間という非常に短期間なのだが、この理由は?

ドブネズミ:構想を含めて一晩ですね。イベントで集まったメンバーでアイディアを出し合って、やりたいことを決めて、翌日にはもうできあがっていました。

ホームズ:そんなスピードでできるものなのかな……。

ドブネズミ:BluemixはAPIを追加するだけで動かすことができるので、プログラミングの知識がない人でもできるという点が大きかったですね。チームのメンバーにはプログラミングができない人もいたのですが、それでも使えましたので、全員がそれぞれのポテンシャルを出すことができました。

ホームズ:なるほど。逆にBlue Creatorsは開発期間に2ヶ月かかっているということだが、この理由は?

Blue Creators:私たちは、これが初めてのアプリ開発でした。インターンシップのプログラムの一環として取り組みました。Javaの研修を受けてすぐ開発みたいな感じで。プログラム初心者が集まってもこれだけのものができるのですから、可能性がある環境ですよね。


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ホームズ:まったくの初心者がアプリを開発できるなんて! Bluemixはそんなにすごいものなのか。

Senrigan:BluemixにはいろいろなAPIがあるので、作っているうちに楽しくなってきていろいろ作りこみました。

Millet Way:使いたいAPIがあれば、それをBluemixのダッシュボードでポチポチやれば、環境変数とかすぐに生成されて、そこに自分のコードを入れればすぐに使えるようになるので、作業は早かったですね。

ドブネズミ:環境構築がすぐにできるのは素晴らしいですよ。自分でサーバーを立てるとなると、OSをインストールして環境を構築するのに一晩はかかる。でも、Bluemixを使えば1分もかからずに環境構築が終わってしまいます

Senrigan:環境構築は面倒ですからね。僕は初めてクラウドのサービスを使ったんですが、画面上をクリックすればメモリを増やせたりして、すごく便利でした。これまで自分で作ったサービスを全部クラウドにデプロイしようかなと思っています。

ホームズ:クラウドサービスというものはそんなにすごいものなのか。

ワトソン:たとえば自分でパソコンを組み立てるとすると、慣れていても数時間はかかるだろう? しかしクラウドサービスならば、インターネットからスペックを指定すれば、仮想サーバーが一瞬にして構築されるんだ。自分でパソコンを用意する必要がないし、構築にも時間がかからない。これから主流になっていくサービスだね。

ホームズ:なるほど。よくわかったよ。みなさん、貴重な時間をありがとう。


こうして、我々のコンテスト受賞者へのインタビューは終了した。このインタビューにより、Bluemixの特徴を捉えることができた。

1. クラウドを利用して短時間で開発環境を構築できる
2. 100種類を超える豊富なサービスやAPIを使うことで、プログラミングの時間を大幅に短縮できる
3. IBMが提供するコグニティブコンピューティングシステム「Watson」の一部機能がサービスとして提供されている


以上のようなことから、Bluemixがアプリ開発をよりスピーディに、よりクリエイティブに行えるようにするものであることがわかった(30日間のフリートライアルも用意されているようだ)。

なお、一般部門の最優秀賞、および学生部門のファイナリスト3組は、副賞として米国にあるWatson研究所を見学できるという。該当者は皆楽しみにしているようだ。


我々が東京に来た理由とは……?


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しかし、もうひとつの謎が残されている。なぜ、我々がこの場に呼ばれたのだろうか……。まさか、コグニティブコンピューティングシステム「Watson」と、私の名前を引っ掛けたダジャレなのではないだろうか。ホームズは知っているのだろうか?

「ワトソン。それ以外にどんな理由があるというのだね?」

「え? Watson研究所と私の名前、ワトソンのダジャレのためにわざわざ日本まで来たというのかい?」

もしかしたら、ホームズは日本に来たかっただけなのかもしれない。しかし1人では心もとないため、私にも付いてきて欲しかったのだろう。だが、素直に誘っては私が断るかもしれない。そう考えて、こんなダジャレに引っ掛けて連れ出したのかもしれない。ホームズらしいやり方だ。

「ワトソン、東京はとても過ごしやすくておもしろいところだね。夜中でも店はやっているし、自動販売機で手軽に飲み物が買える。危険な人物も見たところ少ないようだ。少々人が多いのが気になるけれど、活気があっていいじゃないか。どうだい、明日は日本一高いタワーにでも登ってみようか」

ホームズは煙のむせ返る喫煙所で、楽しそうにパイプをくゆらせながら東京での残りの日程をどうするか話し始めた。

私はガイドブックを見て日本一高いタワーを確認した。

「ホームズ、日本一高いタワーは夜は青く光っているそうだよ」

ホームズは大きな声で叫んだ。

「青いタワーと東京の夜空が混ざり合うのか。まさにBluemixだな!」

サプライズで始まった東京の旅は、これからも楽しいことが続きそうだ。


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source: Bluemix

(三浦一紀)

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