iOS 9に広告ブロックとニュースアプリが同時搭載された理由

2015.09.24 20:00
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Web広告市場を封じ、ニュースアプリで呑み込む。

これは偶然でしょうか? アップルがiOS 9にニュースアプリを抱き合わせてリリースしたその日、広告ブロック機能も投入さました。


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Paddle Analysticsによれば、iOS 9リリースの翌日、iOSユーザーの10%以上はすでにiOS 9をダウンロードしていました。それだけ多くの人のホームスクリーンに、削除できないニュースアプリが埋め込まれたんです。

一方ついに搭載された広告ブロック機能は、おおむね歓迎されています。広告ブロッカーはサードパーティのものもいろいろあり、iOSのデファクトスタンダードアプリになろうと競い合っています。一見それぞれ別の事象ですが、その間にどんな関係があるんでしょうか?

話はここ2年ほどの広告ブロッカーの急成長から始まります。邪魔なポップアップ広告をブロックするアプリはもう10年ほど前からありましたが、その利用率が今急に高まっています。その背景のひとつに、広告が前にも増してうっとうしくなっている事実があります。ブラウザ全体にかぶさってきたりして無視するのも難しいし、さらには我々のオンライン行動をトラッキングしてもいます。たとえば靴のオンラインストアをのぞいたら、その後24時間あらゆるニュースサイトで自分が見た靴の広告が表示され続けます。つまり広告主である靴ストアからバーチャルに追いかけられているわけで、気持ちの良いものではありません。より多くの人がそんな認識を持ちつつあります。

そこでネットユーザーが反撃に出て、広告ブロッカーとか、プライバシー泥棒を防ぐという触れ込みのGhosteryのようなアプリを使い始めました。でもそれは単にユーザーにとってWebサイトが見やすくなるというだけではなく、多くのニュースサイトに変革を迫る事態につながっています。

というのは、ニュースサイトはライターとか編集者にお金を払う必要があり、それは広告収入からまかなわれています。その広告をiOS 9ではブロックできるようになったんです。だから広告がブロックされるとなると、ニュースサイトは何かしらコンテンツ提供の仕方を変える必要が出てきます。

Instapaperのクリエイター・Marco Arment氏は、この広告とジャーナリズムの関係における倫理について問題提起しました。


現在のニュース発行事業者にとって、事業の継続は簡単ではない。だがだからといって、今彼らがその読者に押し付けている不適切な広告やプライバシー侵害、低俗さ、気味悪さが正当化されるわけではない。ニュース発行者が行き詰まっていようがいまいが、そういう問題ではない。

現代のWeb広告やトラッカーは、多くの人にとっての一線をとっくに超えていたし、ついに私から見ても行き過ぎになってしまった。そして15年前にポップアップ広告が一線を超えたときのように、それに対応するテクノロジーがもうできている。

今どきのブラウザはデフォルトで多くのトラッカーやコードを許容してしまっているが、Webのニュース発行者や広告主はそこまで信頼できない。ユーザーには、サイトから与えられる全リソースをブラウザで読み込み、全コードを実行する義務はない。


Arment氏が「ニュース発行者と広告主」をひとくくりにしている点は注目です。つまり、彼はその批判の矛先を両方に直接向けているんです。ニュースサイト側では彼の考えに不快感を示すところもあれば、共感を表明する人もいます。

テクノロジーコメンテーターのJohn Gruber氏はニュースサイトDaring Fireballで、広告ブロック機能を賞賛しました。彼のニュースサイト運営手法は、広告ブロックの影響を受けないからです。


Daring Fireballの収入源は、Safariのコンテンツブロックに影響されないはずだ。これについて僕は、ひとりよがりかもしれないが、この10年間の私の判断が正しかったという裏付けだと考えている。つまり僕は読者の興味を第一として、僕自身が見たいと思うような広告やスポンサーシップだけを伝えていくべきなのだ。たとえそれによって、(かなりの)収入の機会を逸してしまうとしても。ただ、The Awlのような素晴らしいサイトにとっては厳しくなるだろう。それは良いとは思わないが、彼らは賢いから適応していくだろう。


Gruber氏は、広告ブロッカーがメディアの自然淘汰を促すと考えているようです。つまり良質なニュース発行者なら「適応」していける、もし彼らが死んでしまったなら、それは彼らが新たなビジネス環境に合わなかったんだ、ということです。

一方ニューヨーク・タイムズのFarhad Manjoo氏は、広告ブロッカーが生み出すモデルを容認し、さらにはそれが広告業界の体質改善につながるのではないかと言っています。


長期的には、広告主にもニュース発行者にも、広告をブロックすることの隠れたメリットがありうる。広告ブロッカーがあることで、広告業界は最大の悪をなさずに済むことになるかもしれない。ブロックが普及すれば、広告業界はよりシンプルで邪魔にならず、データの取り扱いももっと透明な広告を作らざるを得なくなるだろう。それができなければ、彼らは永遠にブロックされてしまうリスクを負うのだから。


Manjoo氏はまた、広告ブロッカーやスパイウェアトラッカーを作って売ろうとする企業の数にも言及しています。そう、広告の変革は「倫理的に正しい」ことかもしれませんが、それ自体がビジネスでもあるのです。


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前出のArment氏がiOS用広告ブロッカー「Peace」をリリースしたのは、上のような背景を考慮すれば驚きではありません(訳注:その後「良い気がしない」としてすぐに公開取り下げ)。Arment氏はそのリリースにあたり、小規模なニュース発行者が広告ブロックにより直面するであろう問題を認めつつ、こう言っています。


我々は広告ブロックに罪悪感を持つべきではない。「広告を見せるのと引き換えに無料のコンテンツを与える」という暗黙の了解は無効なのだ。なぜなら、利用規約が最初に見られるわけではないからだ。リンクを踏むやいなや、ブラウザはそれを読み込み、実行し、転送し、ニュースサイトが埋め込んだすべてをトラッキングしてしまう。我々のデータやバッテリーライフ、時間、そしてプライバシーは、勝手に持ち去られてしまう。それはレストランで値段の書かれていないメニューから注文して、食事が終わったら好き放題請求されてしまうようなものだ。

ニュースサイトが広告を原資に無料コンテンツを提供したいなら、彼ら自身が、読者が許容し反応するような広告内容や手法を選ぶ義務を負うべきだ。


というわけで、また自然淘汰の話に戻ってきます。新たなモデルに適応するか絶滅するかはニュース発行者次第ということです。

ただし問題はそんなに単純ではありません。だってアップルのような企業は、単にニュースサイトに新種の広告手法を売り込んでくるだけではありません。彼らは自ら新しいニュースプラットフォームを作り、そこにニュースサイトを移植しようとしているんです。それがつまり、アップルのニュースアプリなんです。

Casey Johnston氏はThe Awlでまさにこの問題を論じています。広告ブロックは、小さなニュース発行者がグーグルやフェイスブックといった巨大プラットフォームに飲み込まれる、「プラットフォーム時代」の先駆けだと言うのです。


これら「より良い」広告とはどんなものだろうか。答えのひとつは、ニュースサイトの立ち位置の変化だ。彼らは今フェイスブックやTwitter、Snapchat、グーグル、もしかしたらアップルのニュースアプリ(とかMediumも?)といったソーシャルネットワークやプラットフォームから読者を借りている。でも今後は、それらのプラットフォームに直接コンテンツを納入するようになっていくだろう。広告の多くは今まで通り、コンテンツの前や横や間に置かれるだろうが、その販売や提供は個々のニュース発行者ではなく大手プラットフォームが処理するようになるだろう。広告ブロックによって広告収入が減少するとともに、大手プラットフォームへの大規模移行が加速していくだろう。

一方フェイスブックやグーグル、Twitterが彼らのアプリ内でユーザーに見せる広告をブロックする方法は、特にモバイルにおいては、ありえない。だから広告ブロックがあればトラッカーから逃れられ、プライバシーが守られるという言い方は不適切だ。


そう考えると、アップルが広告ブロック機能搭載と同時にニュースアプリを削除不可能にした理由もわかります。彼らはWeb広告のブロック、そしてスマートフォンアプリという両面から、メディアの収入モデルを破壊しようとしているんです。

だから今回のアップルの動きは、ユーザー保護が目的だとは言えません。彼らは単にニュース提供プラットフォームというビジネスに参入しただけで、そこでは広告とかスポンサードコンテンツとか「ネイティブ広告」とかといった、欲しくもない高価なものを欲しがらせるためのあれこれが提示され、ユーザーはそれをブロックできないんです。小規模なニュースサイトが広告ブロックに「適応」できないからといってビジネスから撤退していくとき、アップルのニュースアプリがそこにあります。さらにPeaceとかBlockrなどといった広告ブロッカーがApp Storeを埋め尽くし、これまたアップルのビジネスに貢献することでしょう。

アップルのニュースアプリは、たとえPeaceがインストールされた端末でも、我々の興味をトラッキングし、広告を表示するはずです。これらの広告はArment氏がいう「許容し、反応する」に値する良質なものになるかもしれません。でもそんな未来においては、ニュース提供の場はアップルやフェイスブックやグーグルといった大手プラットフォームに集約され、小規模ニュースサイトもそれに擦り寄らなければやっていけなくなります。

つまり我々は、あるワナから別のワナへ、はめ替えられるだけなんです。そしてどちらのワナにもびっしりと、広告が貼り付いています。


Annalee Newitz-Gizmodo US[原文
(miho)

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