670万円のヘッドフォンの音って? ゼンハイザーの新Orpheus

笑えるくらいクリア。

ゼンハイザーが5万5000ドル(約670万円)のヘッドフォン、アップデートしたOrpheusを発表しました。高級車みたいな値段のヘッドフォンってどんな音がするんでしょうか? 2016年の発売に先がけ、米GizmodoのMario Aguilar記者がいち早くハンズオンしていますので、どうぞ!

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僕はゼンハイザー最新のヘッドフォン、5万5000ドルのOrpheusを世界で初めて聞ける数少ない中のひとりとなりました。この最新Orpheusは、20年以上の時を超えて開発されたものです。本気です。僕は音楽に集中しようと、このヘッドフォンにふさわしい集中力を向けようと必死になっています。でもつい、笑わずにはいられません。

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今回新Orpheusを聞かせてくれたのはゼンハイザーのトップエンジニア、Axel Grellさんで、彼こそがこのOrpheusを作り出した人物です。24年前、彼がゼンハイザーに入社したとき、同社は初代Orpheusを発売しようとしているところでしたが、彼自身はそのデザイナーではありませんでした。1990年代初頭に数年間販売された静電型ヘッドフォンの初代Orpheusは、史上最高のヘッドフォンシステムだと考えられています。

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静電型ヘッドフォンは、「ダイナミック型」とよばれる一般的なヘッドフォンとは違います。ダイナミック型ヘッドフォンは、コイルと磁石、振動板のセットで機能します。コイルに電流を流すと磁界が発生し、それが磁石と反応して動くことで振動板が動いて音が出るという仕組みです。

静電型ヘッドフォンはもっと洗練されていて、その音を作り出すのは、大きな金属板2枚の間にある非常に薄いフィルムです。新Orpheusではこのフィルムの厚さがわずか2.4ミクロンで、空気よりも軽いんです。電流が金属板に伝わると、フィルムは直接触れられることなく振動します。またこのフィルムは非常に軽いので、共鳴もほとんどしません。これによって、少なくとも理論上は、ダイナミック型では得られないクリアな音が聞けるというわけです。

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ゼンハイザーは、新Orpheusの開発にコストを惜しみませんでした。それはただ単体のヘッドフォンではなく、巨大なアンプがもれなく付いてきます。アンプには8本の真空管を使っていますが、それはトランジスタに比べてインパルス処理が優れているためです。ただ問題は、真空管はトランジスタと違って空気伝播音の影響を受けやすいことです。そこでOrpheusのアンプの真空管は、イタリア・カララ産大理石の箱の上に浮かぶようにセットすることでノイズを極限まで減らしています。

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でもゼンハイザーはただ素材にお金をかけただけではなく、静電型の設計のより細かい部分についても新たな手法を開発しています。たとえば静電型ヘッドフォンの問題のひとつは、ものすごく高い電圧が必要だということです。初代Orpheusの場合、この電圧はメインのパワーアンプから来ていますが、その3分の2はフィルムに届くまでに消えてしまいます。新Orpheusではアンプステージをヘッドフォン内部に直接入れることでこの問題を解消しています。

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Grellさんが最初にクラシックなOrpheusのリブートを考えたのは、10年ほど前のことだったそうです。初代を良くするために何ができるか、彼は考えました。そして2009年、彼は「コンセプト機」とするものをゼンハイザー家の人たちにデモしました(この会社は今でも家族経営なんです)。そこからさらに6年かけて、新Orpheusは市場に出て行くのです。といってもここでいう「市場」はゆるい意味で、家電量販店に並ぶわけではありません。というのは、新Orpheusは1台作るのに400時間くらいかかり、作れるのは1年で250台程度、価格は5万5000ドル(約670万円)もします。

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そんな新Orpheusを使ってみると、もう最初からラグジュアリーです。電源を押すと、全体がポータブルな原子炉みたいに立ち上がります。ボタンがにゅうっと飛び出てきます。

真空管も立ち上がります。

Grellさんによれば、真空管は20秒くらいすれば使えるようになりますが、パフォーマンスが最良になるのはだいたい30分後以降だそうです。

もうひとつの箱のフタが開き、ヘッドフォンが出てきます。

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こんな風に全部が一体化しているのは興味深いんですが、防塵の箱と特殊なアンプが必要になるシステムなので、必然的なのかもしれません。

こんなヘッドフォンを前にしていると、歴史の力とデザインの強さを感じずには要られません。すごすぎる、と思いつつ、ヘッドフォンを装着してみます。

するとつい、最初に書いたように、笑ってしまうんです。笑えるのは、こだわりがエクストリームすぎるからとかじゃなくて、音が本当にすごいからなんです。

オーディオ製品のデザイナーとかオーディオマニアが音の美しさのあまり涙するという話をよく聞きます。でも僕は感動はするけど、泣きはしません。笑う方がいいです。

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もうちょっとちゃんと言うと、このヘッドフォンは音の再現性という意味で驚愕するほどクリアです。僕はゼンハイザーの人から事前に聞きたい曲をいくつか質問されていたので、デビッド・ボウイの「スペース・オディティ」とニュー・オーダーの「エイジ・オブ・コンセント」と伝えてありました。この曲は僕はいろんなヘッドフォンで聞きすぎて、もう新しさは感じられないものです。

「スペース・オディティ」は、バイノーラル方式(ダミーヘッドなどを使って、人間の耳で聞く状態を再現する方式)で録音されたことで有名です。デビッド・ボウイのメインメロディとハーモニーは左右に振れ、他のパートも、きちんと再現すれば本当にリアルな空間のイメージを作り出すように録音されています。新Orpheusは、僕がこの曲を聞いてきた中で多分一番はっきりしたイメージを再現しました。バンドのすべてのパートがそれぞれの位置にはっきりと感じられ、ベースを弾く音がくっきり聞こえるのはため息が出るほどでした。

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「エイジ・オブ・コンセント」はそういう凝った録り方はしてませんが、僕としては多分一番気に入っている曲です。この曲の聞きどころは、ドラマーのステファン・モリスが超速で叩くハイハットシンバルでしょう。再現性の低いヘッドフォンで聞くと音が混ざってしまいますが、新Orpheusではシンバルの鳴る音ひとつひとつがくっきり分かれて聞こえました

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「エイジ・オブ・コンセント」のハイハットの音を聞いているとき、自分が空間を見つめて、瞬きも、呼吸もほとんどしていないことに気づきました。少しでも動いたら完ぺきな音を邪魔するような気がして、無意識に体の動きを止めていたんです。5分ほど聞いただけでも音の世界に入り込んで、他のものが消えてしまったみたいでした。

Photos by Michael Hession

source: Sennheiser

Mario Aguilar-Gizmodo US[原文

(miho)