ピアノが黒い理由とは。高級腕時計に息づく「職人の手仕事」の真髄を見た

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日本が生んだ、世界を変えたイノベーション。

「スティーブ・ジョブズが生前に取得した特許は317件に及び、さらには死後も141件を取っていた」なんて話題も記憶にあたらしいところですが、日本で取得された最初の特許を知っていますか?

それは、1885年8月14日に、彫刻家 堀田瑞松が取得した「堀田錆止塗料及ビ其塗法」と名付けられた発明。簡単に言えば、漆を主原料とした錆止め塗料とその塗り方で、船底に漆を塗ることで錆止めができ長期的な航海が可能になるという、画期的なものでした。

そんな耐水・耐熱・耐薬品性に優れた塗料「漆」を使った日本の伝統工芸が、ご存知「漆塗り」。その「漆塗り」と時計の聖地スイス「ラ・ジュー・ペレ社」の機械式ムーブメントが融合した時計が、ここ日本から生まれました。

職人の技が息づく、世界にひとつの工芸品

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シチズンが「ステータスを遊ぶ」そして「時を愉しむ、日常を愉しむ、個性を愉しむ」をテーマに掲げ、2000年にスタートさせた「カンパノラ」ブランド。そのブランド誕生15周年を記念した最高峰モデルが、この「琉雅(りゅうが)」です。お値段なんと80万円(税抜)という、まさしく超高級モデル。

漆塗りの文字板は、漆を塗っては乾燥を繰り返すという作業を5回以上繰り返し、下地の完成までに1カ月はかかるという非常に手の込んだもの。また「螺鈿(らでん)」と呼ばれる、細かく加工された貝を1枚1枚文字板に貼り付けて加工する技法により、漆黒の宇宙に輝く星々のような輝きを実現。

これらの仕事はすべて手作業で行われ、1枚の文字板が完成するまでに3カ月以上の時間を要するという、まさに匠の技による工芸品です。もちろんひとつとして同じ文字板はありません。

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0.03mm単位の塗りや、極小の貝殻を組み合わせて模様を描くという脅威の仕事を担うのは、たった1人の職人。会津漆の伝統工芸士、儀同哲夫(ぎどう てつお)氏です。

儀同哲夫:昭和23年福島県会津若松市に生まれる。板物塗師として父 藤四郎の後を継ぐ。 平成元年、(有)儀同漆器工房を設立。伝統工芸士、一級技能士、職業訓練指導員、県の名工

今回ギズでは、日本初の特許の礎ともなった「漆塗り」の歴史や、職人の手仕事へ込めたもの、そして腕時計とのコラボレーションについて、福島県会津若松市で儀同氏にインタビューを行いました。

職人 儀同哲夫氏インタビュー

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■そもそも漆塗りとはどういった歴史を持つ文化・技術なのでしょうか?

漆の木それ自体は1万2000年前のものが福井県から出土し、土器に漆を塗っていたものは函館からは9,000年前のものが見つかっています。ですので、少なくとも9,000年前からは使われていた技術だと思われています。金継ぎのように接着剤として使ったりもしていたようですが、基本的にはやはり塗料として使われていたのではないかと思います。

■海外では漆塗りの器が「japan」と呼ばれていたそうですね

鉄砲伝来の時代、ポルトガル人が日本に来るようになった頃、漆器を見た彼らは感動し、漆器それ自体を「japan」と呼んでいたそうです。

■その頃からコラボレーションがあったんですね。漆塗りのどこが海外の人にとって魅力的だったのでしょうか?

特に「黒」が彼らの目には素敵に映ったようです。なんでも漆塗り独特の深い黒色に海外の王侯貴族が魅せられ、ピアノが黒く塗られるようになったとか。それまでのピアノは木目が出たニス塗りだったそうです。漆のような黒にすることをジャパニングといい、ヨーロッパの人が憧れたようです。

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■漆塗りの黒は、漆の樹液に黒い塗料を混ぜて作るのでしょうか?

漆それだけでも茶褐色にはなるのですが、それ以外の色を出したいときには色の粉を混ぜるんです。黒をつくるのに奈良時代は墨の材料である松煙を使っていたそうですが、今は酸化鉄という鉄の粉を入れて化学反応を起こして黒くしています。

■奈良時代! そんな昔の話なのですね。松煙ではもうやらないのですか?

長い歴史の中で、それぞれの素材に一長一短があり、より良いものが出てきて松煙が使われなくなったんだと思います。私の推測ですが、松煙を混ぜたものは塗料として使うには粘度が高すぎたり、50〜100年経つと退色してしまうなど、何かしらの問題があったんだと思います。漆塗りは伝統工芸ではありますが、常に進歩しているものなんですよ。

天然の素材を使うということの重みと責任

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漆の木(写真提供:儀同哲夫氏)

■漆の木は非常に貴重だと聞きました

漆の木は10~15年ほどかけて育てるのですが、樹液を一度取ってしまうとそれで終わりなんです。会津は山なので木がたくさんあるのですが、それでも追いつかないので、藩政時代には山どころか田んぼのあぜなど色んな場所に植えてきました。けれども漆は植えっぱなしではダメ。管理しないと育たない木なので非常に時間と手間がかかります。

■15年育てても、一度しか樹液が採取できないんですね!

それだけの時間をかけても、樹液は200ml程度しか取れません。取れる量は牛乳瓶一本分です。

■木が育つまでの15年を考えると、ひとつひとつの漆器に時の重みが感じられますね。

まさしくそうです。天然の素材を使うということは、そういうことなんです。

腕時計「カンパノラ」と漆塗りの出会い

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製作中の文字板

■今回のカンパノラ15周年記念モデルについて伺いたいのですが、時計の文字板を塗るというのは、いつものように器を塗るときと気持ちに違いはありますか?

全然違います。腕時計というのは男にとっては武士が身に着ける印籠みたいなもので、ただひとつ身に付けるアクセサリーでもあります。そしてそれは日本だけでなく世界中の人に共通する。そんなみんなが憧れるような腕時計に漆が入るということは、最高に嬉しいことです。9,000年前から続いている漆塗りという文化・工芸が途絶えず、こうして新しいかたちで商品として生きているという証ですからね。

漆塗りは伝統産業ではありますが、つねに現代産業。だから、そのときそのときでみんなに喜んでもらえるものを作りたいと思っています。漆塗りの歴史は9,000年と今日ですから。

■シチズンのデザイナーさんとのやりとりはいかがでしたか?

デザイナーさんが作ったデザインをもとに作業するのですが、その指示通りにやっても決まらないんです。そこがこの仕事のおもしろいところですね。「こうやった方がいいんじゃないか」というやり取りを重ねて、商品がもっと魅力的になっていく。その過程を経て、できあがったものを見ると、本当にやってよかったなと思います。

たとえばこの「琉雅(りゅうが)」では、螺鈿の際に、使う貝の大きさ別に3つくらいパターンを作って、デザイナーさんのご意見を聞くというかたちをとり、それを繰り返していきました。何度も根気よくやっていく。それが重要です。

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■螺鈿の貝はどういった貝を使っているのでしょうか?

昔からアワビ貝や夜光貝を使うものなのですが、今回はアワビです。貝はほとんど白っぽいのですが、ところどころ青っぽいのや赤っぽいのがあり、そこを使います。それを砕いて破片を大中小の大きさに分けて、下地に漆を塗って並べていくんです。

■ものすごく根気のいる作業ですね。

そうです。今度ぜひ一緒にやりましょう(笑)どの貝でもいいわけでもなく、形が合わないといけないので、その隣にあったものじゃないといけないんです。正倉院に入っているような国宝にも螺鈿が見られますが、昔の人も貝の色合いに美しさを感じてやっていたんでしょうね。

■この螺鈿は、漆塗りの職人さんがみんな持っている技術なのですか?

うん。難しくないですからね。

■えっ!?

時間をかければできる作業というのは、ある意味では難しくないんですよ。一発で短時間でやらないと行けない作業ほど、トレーニングを積まないとできないんです。

目の前の仕事に向き合い続けた、50年

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儀同さんの仕事場。漆が固まり閉じなくなった引き出しなど、積み重ねた仕事の重みが感じられる

■儀同さんが漆塗り職人になろうとしたきっかけを教えてください

親が漆塗りをしていて、子供の頃から「家業をやれ」と言われていたんです。50年前はスーパーマーケットなんてなかったので、八百屋でも魚屋でも家が何かしらの家業をやっていれば、長男が後継者だったんです。職業の選択の自由なんてありませんでした。でも、今のみなさんはそういうのイヤでしょう。自分にも息子が3人いますが「みんな出て行け、俺の出来なかったことをやってほしい」と言いました。もちろん「漆塗りをやりたい」と言われたら手伝いますが、まずは「自分の好きなことを一生懸命やってほしい」と。…そしたらみんな本当に出て行っちゃった(笑)

■えっ…(笑)

やっぱり、寂しさはありますよ。だから、よその方が「漆塗りをやりたい」と言ってきたらお手伝いをします。漆塗りの仕事をするという意味では、自分の子供もよその人も同じですからね。繋いでいってくれる人がいるということはうれしいし、励みになりますから。

気持ちが入った「仕事」がつなぐ未来

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■最後に「手仕事」への思いを教えていただけますでしょうか

「手」というのは、気持ちが入って「手」になります。私は仕事をはじめて50年近くになりますけど、漆や貝という材料を使って、心を込めて材料の本質をきちんと表現するお手伝い、それが「技」だと思っています。簡単に言うと「良くなるまでやる」ということです。途中で「この辺でいいか」という思いも出てきますが、それでももう1回やってみるということが大事です。

そうやって今回のカンパノラの仕事はやらせてもらいました。時間をかけないと良くならないものというのはあるんです。そういう伝統工芸の本質をシチズンさんは理解してくれて、こちらはベストを尽くせるだけの時間をいただいて仕事をすることができました。

世の中、コストというものが必ずついてまわるなか「時間はかかってもいいから良い物をつくる」というチャンスをいただけたんです。なかなかそういう機会をいただけることはありません。

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■時間や予算が潤沢にある仕事というのは滅多にありませんよね。

良いものを作るときに「時間もお金もない」というのではできないんです。もちろん、どんな仕事でも、そういった制約があるのは確かです。しかし、今回のような仕事ができると、また次の機会や人も育つと思うんです。この腕時計には文化や時間の価値が込められているんです。ぜひ実物を目にして、触って、それを理解してもらえると嬉しいです。

カンパノラ15周年を記念する、瑞玉の3モデル

そんな儀同哲夫さんが手がけた15周年記念モデルは「琉雅(りゅうが)」を含めて全3種。

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「紅明(べにあけ)」

1日の始まりである朝焼けを表現したモデル。5層に塗り重ねられた漆の上に銀粉を蒔き、その上に赤玉虫色の漆を薄く塗ったあと、中央部を炭で磨き、全体を砥の粉で研磨。さらにもう1度赤玉虫色の漆を銀の上に塗って、漆を研いで中央部が明るい紅色のコントラストを生み出している。価格は75万円(税抜)。

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「聚楽(じゅらく)」

時の経過を感じさせる、金の風合いが印象的なモデル。黒漆の上に粒子の丸い純金を蒔き、その上にさらに漆を塗り重ね、研ぎ出しと洗い出しという加工を組み合わせることで表情豊かな風合いを表現。艶やかで渋みのある金の輝きによって独特の美しさを創出している。価格は80万円(税抜)。

※「聚楽」は50本限定となっており、シチズンコンセプトショップ(全国13店舗)のみでの取り扱いとなっています。

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ここで紹介したカンパノラ15周年記念モデル「琉雅(りゅうが)」「紅明(べにあけ)」「聚楽(じゅらく)」は、いずれも非常に高価な腕時計ではありますが、インタビューの最後に儀同さんが教えてくれた通り、価値を持った工芸品です。

時間と技術を惜しみなくつぎ込んだ漆塗りの手仕事、デザイン、上質な材料、スイス「ラ・ジュー・ペレ社」の機械式ムーブメント…。そうした一流の仕事の結晶は、ぜひ実物を目にして欲しい逸品。きっと「仕事」や「価値」とは何なのかを今一度考える、きっかけやヒントを与えてくれるはずです。

source: カンパノラ

(照沼健太)