中国の一人っ子政策廃止が効かない理由

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今は「あえて一人」が多い、とか。

中国が一人っ子政策を廃止したことが話題になっています。高齢化社会への対応が目的ですが、実際これで子どもが増えるのかどうか、オックスフォード大学で社会政策を研究するStuart Gietel-Basten准教授は懐疑的です。

以下は、同氏がThe Conversationに寄稿した記事が米Gizmodoに掲載されたものの翻訳です。

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中国が一人っ子政策を廃止し、一組の夫婦が子ども二人まで持てるようになりました。これを大転換だと捉える人もいるかもしれませんが、実際はそれほど劇的な変化ではありません。現実には、1984年以来国家レベルでも地域レベルでもこま切れに実施されてきた変更のひとつに過ぎないのです。

今回の変更は、もうほとんど意味をなさなくなっていた政策に対する非常に現実的な対応でした。これが施行された1979年と同じように、中国の人口レベルに対する影響はほとんどないことでしょう。

「一人っ子政策廃止は出生率上昇につながり、高齢化と労働力減少の対策となり、人口構成の時限爆弾に対応する」…今はそう喧伝されています。中国国営の新華社通信によれば、「この政策変更は、人口配分のバランスをとり、高齢化という課題に対処することを目的として」います。

中国政府は、一人っ子政策が中国の人口コントロールにおいて必要不可欠な役割を担っており、ひとりあたりのGDPの上昇を促したという見解を取っています。そしてこの政策は「数百万人が貧困の中に生まれること」を防いだけれども、今はもう必要ない、というのです。

当然、多くの研究者がこの公式見解を批判しています。一人っ子政策が始まったとき、全体の人口成長率は非常に高かったにもかかわらず、出生率はすでに劇的に下がっていたからです。

現実的な対応

一人っ子政策は不要なだけでなく、不人気でもありました。というのは、地域で家族計画を推進する政治家の高圧的な行動や汚職のせいで悪い評判が集まってしまったのです。実際一人っ子政策への違反に対する罰金は、地域の予算不足の穴埋めのためにせっせと取り立てられてきました。この意味で、今回の政策変更は習近平国家主席による汚職撲滅キャンペーンの間接的な結果とも考えられます。

多くの研究でも、これまでの一人っ子政策緩和後の実態からも、いかに改革しようと長期的には影響が出る可能性が低いことが示唆されています。すでに二人の子どもを持つ権利が許されていた都市部の夫婦や、農村でもより多くの人々が、あえて一人しか生まないことを選択しつつあります。つまり、全体的な出生率に対する影響はおそらく小さくなるということです。政策を変えても影響は非常に小さいであろうことがわかっているわけで、今回の判断は現実的かつ実際的な対応だと見られます。

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中国の出生率データ。「Later,Longer,Fewer」とは「晩婚・出産間隔長期化・少産」、「OCP introduced」は一人っ子政策開始の意。:国連経済社会局

でもだからといって、この政策変更が重要でないということではありません。まったく違います。数十万もの夫婦にとって、この変更が第2子を持つという夢の実現を許容するものだということは忘れてはなりません。

短期的には、ほぼ確実にミニベビーブームが起こるでしょう。四川のように比較的規制の厳しかった貧しい省では、よりわかりやすいベビーブームになるかもしれません(ただし全体的な出生率は、ある世代が出産を先延ばしにすることで人為的に出生率が下がる「テンポ・エフェクト」によって、どちらにしても上昇していた可能性が高いです)。中国のあらゆるものと同様、その規模は衝撃的な数字になるでしょう。これはほぼ確実に、将来的に公共サービスに対する負担につながるでしょう。

中国の政治を反映

一人っ子から二人っ子へと政策が徐々に移行してきた過程は、中国における政策全般の作られ方、変更のされ方を如実に反映しています。ある政策を完全に廃止するという選択肢はありません。そうすると、政策がある意味で「間違っていた」ことになってしまうからです。

さらに、家族計画に関わる組織の大きさも軽視できません。2005年時点で、町レベル以上で50万人以上のスタッフが家族計画政策に関わっていたと推計されています。村レベルでは120万人、「グループリーダー」では600万人にものぼります。これを一気に解体すれば、混乱が生じてしまいます。

それでも変更がなされたという事実は、さらなる大きな変更が起こりうることを意味します。直感に反する主張かもしれませんが、私の同僚Quanbao Jiangと私は最近、より多くの子どもを奨励する政策変更は想定外ではないことを論じました。35年以上も厳しい出産抑圧政策を強いてきた中国は、韓国や台湾、シンガポールといった低出生率の近隣国の後を追っています。一部の省ではすでに、条件を満たす夫婦には二人目の子どもを持つことを促す例があるのです。この状況においては、家族計画当局が思想的に切り替えられれば、重要な役割を果たし得ます。

最終的に、一人っ子政策の遺産については間違いなく問われることでしょう。それは出生率低下の効果は過大評価されていましたが、男子の出生率を女子より高くすることに果たした役割は非常に大きかったと考えられています。2005年の中国では、20歳以下の男性は同年代の女性より3200万人も多かったのです。

私は、今後10~20年後にならないと中国の出生率がどうなるかわからないと考えています。そのときも出生率はかたくなに低いままで、これまでの政策が効きすぎていた、ということになるかもしれません。35年間も恒常的に一人っ子家族のメリットが賞揚されてきて、その心理的影響はどんなものでしょうか? それはどのように内面化されるのでしょうか? 今後わかってくることでしょう。

でもアジアの他の国に目を転じると、子どもを減らすよう呼びかけることの方が、増やすように言うよりずっと簡単であることに中国政府は気づくかもしれません。

Image by alek_siev under Creative Commons license.

source: Wiley Online Library , University of Oxford , 国連経済社会局 , Taylor & Francis Online , Nikkei Asian Review

Stuart Gietel-Basten-Gizmodo US[原文

(miho)