男性ホルモンは攻撃的なセリフを言うだけで上昇する

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演技だけでも、テストステロンが湧いてくる。

男性ホルモンのひとつテストステロンは、攻撃的な行動に関係していることが知られてきました。新たな研究で、テストステロンと攻撃的な行動の関係は双方向だということがわかりました。つまり、テストステロンの分泌によって攻撃的になるだけではなく、攻撃的な行動をとることによってテストステロンが分泌される、ということです。しかもそれは、男性でも女性でも同じように起こるんです。

テストステロンが分泌されることで、男性にはひげが生えたり、思春期に声が低くなったりしています。かつて数十年間、科学者たちはテストステロンとは男性のホルモンであることを疑っていませんでした。テストステロンは、成人男性において高い値を示すものだからです。

でも最近の研究では、もっと複雑な事情がわかりました。テストステロンは成人女性の体にも存在していて、それは女性の健康や性生活にとって非常に重要らしいのです。ではどうして、男性の方に多く存在するのでしょうか?

それは素朴な疑問ですが、今まできちんと問いかけた人はいませんでした。が、ミシガン大学アナーバー校の心理学者、Sari van Anders氏の率いるチームが興味深い実験を行いました。van Anders氏は、社会的要因がホルモンに与える影響を研究してきた人物です。彼女たちは、「男性らしさ」とか「女性らしさ」といった社会の圧力がホルモンに影響を与えうるかどうかを解明しようとしたのです。

つまり、男性らしい、または女性らしい行動が、テストステロンの分泌量に差を生み出すかどうかということです。そこで彼女たちは、攻撃的にふるまうだけで脳内物質の分泌状況を変えられるかどうかを実験しました。

van Anders氏は演出家のJeffrey Steiger氏の協力を求め、俳優たちを集めて実験の被験者としました。van Anders氏らが「Proceedings of the National Academy of Science」に発表した内容によると、俳優たちは、闘争的な態度、他人に対し力をふりかざすような態度で演技するよう求められました。どちらもテストステロンと関連付けられる行動です。

研究チームはSteiger氏とともに、非常に攻撃的な人物のモノローグの脚本を作りだしました。アンフェアな上司が部下に説教を垂れるようでいて、最終的にはクビにしてしまうストーリーです。ちょっと長いし、被パワハラ経験のある人は見ないほうがよさそうですが、こんなものです。

で、1カ月ばかり前だったっけ? お前の仕事ぶりのことで話したよな。オレはお前の改善点、細かくフィードバックしてやったよな? あのミーティング、忘れてないか?

(間)

…やらなきゃいけない仕事はもっとちゃんと押さえておけって言ったはずだよな。オレは…

おい待て、最後まで言わせろ。

オレはもっと積極的になれって言ったんだ。オレがお前に言う前に、やるべきことを自分で考えろって。オレは…

だから全部言わせろって、いいか? こっちが言いたいことも言わせてくれないんじゃ、オレの話を聞いてるように見えないぜ?

オレはな、どうしてほしいのかをもっとコミュニケーションしろって言ったんだ…。

(間)

オレだって困ってるんだよ。オレは今どうしたらいいか、困ってるんだ…。

どういう態度がいいんだ? お前のことをどうすりゃいいんだ? オレが今どうすりゃいいか、意見を言いたいか? だって今、オレは聞きたいんだよ。本当に今、できるのはそれしかない。聞くだけ。

(間)

じゃ、言いたいことはもうないみたいだな。もう終わったみたいだ。この話は終わり、オレも終わり、お前も終わり。お前はクビだ。オレはお前をクビにしなきゃいけない。お前のせいだ。私物をまとめて出てけ。では、さようなら。

…職場でパワハラを受けたことのある人なら、これを読むだけで動悸がしてしまうかもしれません。では実際、これを演じた俳優たちの体にはどんな変化があったのでしょうか?

俳優たちがこのモノローグを読む前と読んだ後、研究チームがその唾液をとって、テストステロン濃度を分析しました。すると、俳優たちは男性でも女性でもみんな、かわいそうな部下をクビにしたあと、テストステロン濃度が高くなっていたんです。

この実験では、「男性らしく」振る舞うことが影響するかどうかを調べるため、俳優たちはステレオタイプな男性や女性として振る舞うよう指示されました。でも男性らしさ・女性らしさの差は無視できる程度でした。つまり、テストステロンに大きく影響したのは、力を振りかざすような態度だったのです。

つまり、攻撃的に振る舞うとテストステロンレベルが高くなり、そのときだけでなく全体的に攻撃的になるかもしれないということです。行動を攻撃的にすることで、感覚も攻撃的になるんです。もうひとつ、演技だけでも脳内物質が変わるっていう発見もすごいです。

この発見で、男性のテストステロン値が女性より高いことに関して何がわかるんでしょうか? van Anders氏らは、「成人男性は、闘争的で他人に力を振りかざすことを男性に奨励する文化の中にいることで、テストステロンが高くなっているのではないか」と示唆しています。つまり男の子が「男らしくしろ」と言われて攻撃的・闘争的な態度をとっていたら、彼の行動が徐々に脳内のテストステロン値を高めていくのです。逆に女の子が衝突を避けて優しくしなさいと言われて育てば、テストステロンのレベルが低くなるかもしれません。

この研究の意義は、ジェンダーの役割を問いかけることだけではありません。van Anders氏らがテストステロンを取り上げたのは、それが研究の進んだ物質であるからでもあり、唾液検査で簡単に測定できるからでもありました。でもこの研究の設計は、我々の行動がホルモン全般や気分にどう影響するかを探るための新たな道を開いたかもしれないのです。

van Anders氏はメールでこう説明しています。

この論文では、我々はジェンダー・性を特に取り上げました。でも他の人たちは、このパラダイムを使って他のホルモンや神経伝達物質について調査することもできます。…なので私のこの論文と手法の主な目的は、ジェンダーがホルモンにどう影響し、体に入っていくかについての他の調査に対しコンセプトとして貢献し、ゲートウェイとなることなのです。

ただ、他の神経伝達物質に関する研究にはもっと時間がかかるかもしれません。van Anders氏は、たとえば我々の幸福感や自尊心を作り出すドーパミンは、血液とか唾液のテストでは測れないと指摘しています。

でも少なくともvan Anders氏らは、我々が特定の感覚や衝動を持つよう最初から決められているわけではないという証拠を示しました。むしろ振る舞いを変えることで、長期的には感覚を変えることも可能かもしれないのです。

これがみんなに知られていけば、今ある「男のくせに」とか「女なんだから」みたいな社会的圧力も変えられるかもしれません。上で書いたように、前時代の科学者たちはテストステロンを男女の間の先天的な違いによる結果だと考えていました。この「事実」が、男性はもともと女性より闘争的であり、よって社会の中でより力を持つ役割に就きやすいのだという考えを正当化するのに使われてきました。

でも今、そんな認識とは違う絵が示されつつあります。パワフルな地位に就けば、そのことによってテストステロンが放出されるかもしれないんです。男性だけでなく、人間全体がそうなんです。良くも悪くも、ですが。

Illustration by Jim Cooke

source: PNAS

Annalee Newitz-Gizmodo US[原文

(miho)