次世代の戦争はデジタル空間で行われる

次世代の戦争はデジタル空間で行われる 1

直接的な暴力でなくとも、見えないからこそ怖い

サイバー戦争は、決して遠い未来のものではありません。イラクの原発をターゲットにしたStuxnetの例をあげるまでもなく、ネットを使った戦争行動はすでにいくらでも行われていますし、あらゆる国がサイバー部隊を結成し、日々情報戦に明け暮れています。以下の記事は、シティ大学ロンドンの電子工学教授であり電子戦争研究の理事を務める、David Stupples氏がThe Conversationに寄稿したもので、現在の電子戦争、サイバー戦争、心理戦争とは何か、そして先進国がどう対応していくべきかを説明しています。

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21世紀に入って、敵軍や敵国のインフラに対して物理的な損害を与えるのは、あくまで数多い攻撃手段の一つとなりました。代わりに、国々は相手の情報システムに対して非致死性の攻撃を行うようになりました。これが情報戦争の台頭です。

米国防大学のDan Kuehl氏は情報戦争を「二つかそれ以上の集団の間に起こる、情報環境での衝突または戦闘」と定義しています。ハッキングを物々しく言い換えただけにも聞こえますが、実際にはより物騒で危険なものなのです。

欧米の各国は、電子通信ネットワークに対する攻撃、防衛、脆弱性を利用する能力を中国やロシア並みに引き上げようと、何十億もの投資を行っています。情報戦争とは、電子戦争サイバー戦争心理戦争の3つを一つにまとめたもので、これからの未来の戦争の鍵を握る戦闘手段となります。

情報戦争の仕組み

国内、国家間の自由な情報の行き来は、ビジネス、国交、それに社会的な結束のために必要不可欠なだけでなく、軍の攻撃能力にも重要です。今日のコミュニケーションにはインターネットや、地上または衛星ネットワークを通して利用する電磁スペクトル(ラジオ波やマイクロ波)に大きく依存しています。私たちはあらゆるものがネットワークで繋がった世界に生きていますが、その世界の安定性を崩し、混乱を招く事はあまりにも簡単なのです。

電子戦争は電磁通信を妨害、または無効化する為に使われます。例えば、軍事通信や兵器の誘導システムに対する電子対抗策やジャミングなどです。しかし、電磁通信は民間でも使われています。空中衝突を防ぐために飛行機が使うADS-B管制システムや、線路際の信号機の代わりとなり、列車を完全にコントロールできるヨーロッパ鉄道交通管理システム(ERTMS)等は、妨害されれば大混乱を招きます。

デジタルネットワークに対して行われるサイバーアタックは、もう我々にはお馴染みとなっています。ソニーピクチャーズTalkTalkへのアタックを見てもわかるように、これはビジネスに大きな障害をきたし、結果として損失や悪評という形で被害を与える事ができます。株式取引所の機能を停止させればとてつもない資金の損失となりますし、あるいは工場や発電所、水道やガスなどの制御システムに影響が及べば人命に関わる問題になります。

心理戦争は、相手国民の士気を下げたり、精神的に脅かす目的で行います。手段としては、ウソの情報や噂、恐怖をソーシャルメディアやニュースを通じて広める等があります。多くの人が深く繋がりあっているのは強みではありますが、即座に繋がり合えるという事は恐怖も素早く広まってしまうという事であり、国中がパニックに陥りやすいという事です。

つまり情報戦争とは、電子戦争、サイバー戦争、心理戦争の3つを攻撃と防御の為に取り込んだ戦略なのです。

情報戦争はすでに始まっている。

ロシアは、エストニアグルジアウクライナなど近隣の国に対して、高度な非致死性の攻撃を仕掛けている疑惑がもたれています。どの国も、連携のとれた電子、サイバー、そして心理的な猛攻撃に遭いました。

グルジアのバクー・トビリシ・ジェイハン・パイプラインは、洗練されたコンピューターウィルスによって圧力が制御不能になり爆発したと思われる有力な状況証拠が存在します。イスラム国ですら、ソーシャルメディアを巧みに操り、心理戦争を行う知識があるというのは明白です。それだけでなく、彼らは情報戦が鍵を握ると理解しており、より強力なサイバー戦争、電子戦争の技術を備えようとしていると言われています。

今までにない戦略への対応

情報戦争の台頭に対し、イギリス軍は新たに二つの部隊を編制しました。心理戦争に対応する第77旅団、そして第1情報偵察旅団は電子戦争と諜報を統合しています。何百人ものコンピューターのエキスパートが予備兵として採用され、政府通信本部の合同サイバー部隊の協力の元に訓練を受けます。

これ自体は正しい判断ですが、アプローチが断片的すぎますランド研究所の報告書は情報戦について、効果的な防衛の為、全ての側面に対してより統合的なアプローチの必要性を説いていました。米国では、マイケル・S・ロジャース海軍大将がサイバーコマンド構想を発表し、アメリカ国防総省のネットワークやシステム、情報をサイバーアタックからいかに防衛し、軍や緊急時の活動に寄与するかを説明しました。米国のアプローチはより統合的ですが、それはあくまで軍部での話です。国全体を見るとどちらの国も、軍だけでなく民間のインフラへの脅威にも対応しうる統合的な指揮系統が欠落しています。

つまり、情報戦争のコンセプト自体の理解は進んでいるように見える半面、全ての側面に総合的に対応していないという事です。そういった視野の狭い考え方は、私たちのセキュリティに穴を生んでしまいます。欧米の政府は電子コミュニケーションの脆弱性と、それが重要なインフラや交通、国民の安全にどれだけ脅威を与えるかを理解しきれていませんでした。

米国の情報長官は米国が面しているサイバーテロの脅威を強調し、イギリス軍大将のニコラス・ホートン氏はチャタムハウスでの演説にて、現在の物理的な戦争行動の殆どにはオンラインの側面があり、ソーシャルネットワークを通じて大衆の意見や認識を歪めようとする動きがあると述べました。同時に、ロシアの戦略は情報戦、対敵情報活動、諜報、経済戦、そして代理組織への投資などの側面を持っている事も認めました。

私たちは、情報戦争の進化に合わせてその全貌をより深く理解し、私たちのどこに脆弱性があるのかを見極め、全てに対応できる一つの組織を確立して防衛手段を構築する必要があります。敵は欧米の外交方針や倫理、法律に縛られる事がなく、間違いなくこちらの弱点を突いてくるのですから。

image: Aaron Ansarov under Creative Commons License

David Stupples - Gizmodo US [原文]

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