かつて水銀は薬だった。19世紀、その毒性を暴いた海難事故

2016.01.03 15:00
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昔々、水銀はいろいろな病気に効く薬だと考えられていました。俗説というわけではなく、専門家である医師たちも、それが体に良いと信じていたのです。でも、ある海難事故とそれを分析した医師によって、水銀の捉え方が大きく変わりました。

1810年、スペインの船がアンダルシア地方カディスの近くで嵐にあい、動けなくなっていました。幸い近くにはイギリス海軍船トライアンフがいて、救助のためのボートを差し向けました。

イギリス海軍には船の貨物を横取りしようという下心もあったようですが、乗組員にとって不運だったのは、その貨物が大量の水銀だったことです。助けられた方の船は南アフリカに向かっていて、金鉱から金を取り出すために水銀を使う予定でした。ちなみに古い金鉱には今でも水銀が大量に残っていて、ハイキングや探検に行くときは要注意なんです。

トライアンフに移動された水銀は皮袋に入っていて、スペインの船ではきっちり隔離した場所に保管されていましたが、トライアンフでは乗組員の寝起きする部屋に入れられてしまいました。そのため間もなくすると、乗員が体調不良を訴えるようになったのです。彼らはつねに大量のよだれをたらし、歯ぐきは赤くはれ、集中力を失いました。まさに水銀中毒の症状です。人間は具合が悪くなる程度でしたが、船に乗っていた動物は、カナリアも、ゴキブリまでも死んでしまいました。結局トライアンフでは、人間から隔離できない分の水銀を捨てざるをえなくなりました。その海の周辺はどんなことになったのか気になりますが…。

当時の人にとってこれは予想外の展開でした。医師たちは、過剰な水銀は他の薬と同様有害になりうるとは知っていましたが、水銀の近くにいるだけで危険だとは誰も思いもしなかったのです。この話を聞いた専門家たちは、当初は水銀と皮の間の特殊な反応だろうとも考えました。

でもその後13年も経ってようやく、ウィリアム・バーネット博士が水銀の強い毒性に気づきました。彼はマイケル・ファラデーによる水銀の蒸発率の研究文書を読んでいて、その蒸気は体に良くないのではないかと思い至ったのです。

その後少なくとも50年ほど経ってようやく、科学界は水銀は蒸気だろうが液状だろうが体に悪いものなのだと考えるようになりました。長年信じてきたことを変えるのって、どんなに被害が出ていても、なかなか難しいんですね…。


Image: Parent Gery

Esther Inglis-Arkell-Gizmodo US[原文
(miho)

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