マニュアルは捨てろ! 宇宙で初の花を咲かせたのは判断力

160119projectveggie.jpg

目の前の状況をよく見るんだ!

国際宇宙ステーション(ISS)で咲いた初めての花。オレンジ色の花を咲かせた百日草が大きなニュースになりましたが、なんとあわや栽培失敗の危機があったことがわかりました。花を助けたのは、マニュアルやルールではなく、ISS乗組員の判断力でした。

ISSでは、食べられる植物を宇宙で栽培する実験プロジェクトVeggieが行なわれています。今のところ、百日草とレタスの栽培に成功しました。が、レタスは水のやりすぎで1度失敗していました。成功したのは2度目のチャレンジ。実は、先日花を咲かせた百日草も、もう少しで失敗してしまうところだったのです。

160119projectveggie01.jpg

image: NASA

百日草を植えて2週間後、チェル・リンドグレン宇宙飛行士が、栽培キットから水がにじみ出ているのを発見。確認してみると、3つの植物が水分過多で弱っていることがわかりました。10日後、写真を通して科学者がチェックすると、葉っぱの縁に水滴が見られるとともに、葉っぱが丸まってきていることがわかりました。これは大きな問題です。水滴は湿度が高く、葉から余分な水分が排出されているというサイン。そして、丸まる葉は根腐れのサイン。2つのサインから、水分過多である上に、空気の循環が上手く行なわれていないことが明らかになりました。

なんとかしなければなりませんが、ISSの宇宙飛行士は忙しいもの。緊急発生した宇宙遊泳ミッションがあり、植物の世話をする時間なし。応急処置的な対策として、ファンを強にセットして状況が改善することを祈るばかりでした。

主人である宇宙飛行士が忙しいからと言っても、食物は自分でどうすることもできません。植物組織は死に始めました。さらにカビまで…。カビは植物だけの問題ではありません。空気循環が限られたスペースステーション、乗組員の健康に害を与える可能性もゼロではありません。もう一刻の余裕もない、NASAは早朝4時という時間もかまわず、Veggieプロジェクトの担当科学者に今すぐなんとかして!と電話で連絡しました。

160119projectveggie02.jpg

image: NASA

Veggieプロジェクト担当長である科学者のTret Smith氏は、2015年12月22日、早朝の電話で叩き起こされました。手早くチームを集結させると、4時間ほどで対応策の案をまとめました。これを実行するのは、ISSで植物の世話をしているスコット・ケリー宇宙飛行士。念のためマスクをつけて、カビた組織をカットし、手が届くところはすべてシートで拭き消毒しました。ちなみに、カットした部分は、その後の研究のためバッグにいれて冷凍保存されました。

そしてクリスマスイブ、ケリー飛行士から新たな問題の報告が。カビ防止のため強で回っているファンのせいで植物が乾燥してきたのです。しかし、科学者チームが作成したプロジェクトのスケジュールでは、次の水やりの日は27日。さぁ、どうする?!

ケリー飛行士は、地球のスタッフと連絡をとり「遅すぎる」と辛口にコメントしました。それもそうでしょう、宇宙で最初の花が咲くかどうかは彼にかかっているのですから。花を目の前で見ているのは彼なのですから。彼は地球のスタッフにこう言いました。「もし、僕らが火星に行くとして、そこで何かを育てるならば、いつ水をやるべきかを決める責任は僕らにあるだろう。自分の家の庭で植物を見て「あ、今日水やらないと」って思うのと同じだ。今のこの状況はそれと同じように対応すべきだ」

ケリー飛行士からこう言われた科学者のSmith氏。自分の案に反対されたからといって怒ることはありませんでした。むしろ、自分の研究プロジェクトであるVeggieを、言われたことをやるだけでなく、ここまで真剣に考え取り組んでくれる人がいるなんて幸せなことなのでしょう。

160119projectveggie03.jpg

image: NASA/Scott Kelly

Veggieチームは、彼らの案をすぐさま取り下げました。宇宙には宇宙のやり方がある。細かくスケジュールや対応方法を記した本をすて、基本手順のみにしました。後はその場の判断にまかせるという決断をくだしました。

結果、ケリー飛行士の宇宙での奮闘は実を結びました。2つの植物はダメになってしまったものの、残り2つは生き残りました。生き延びただけでなく、側枝、つぼみもつけました。ちなみに、ダメになった植物2つは、その後の研究のためバッグにいれて冷凍保存されました。

1月12日、つぼみのふくらみが増してきました。そしてついに、1月16日、人類待望、宇宙で初めての花が咲いたのです。

160119projectveggie04.jpg

image: NASA

危うく失敗するところだった百日草の栽培は、多くのことを学ぶ機会になります。植物は、ファンや水やりの状態でどのように変化するのか。宇宙飛行士は、手順をがっちり決められた場合よりも自主性があった方がよりよい働きができるのか。そして咲いた花は、地球の花とはどう違うのか…。

実験開始当初から、Smith氏はたとえ熟練の宇宙飛行士であっても、百日章の栽培は大きなチャレンジになると考えていました。NASAのプレスリリースでも「百日草はレタスとはまるで違う」とコメントしており、百日草がいかに繊細な植物であるかに触れていました。育てるのが難しいだけでなく、時間もかかります。種から花が咲くまで60から80日。しかし、この難しい植物は科学的にとても有益で、宇宙空間での栽培プロジェクトで大きなステップとなるのです。

Veggieプロジェクトの機材がISSにセットされたのは2014年5月のこと。今現在、ISSで栽培される植物は、どんなものでもこの栽培キットを利用することができ、宇宙飛行士は植物ごとに準備される簡単な対応本を見つつ育てます。こうすることでコストをカットし、知識を共有し、宇宙で植物を育てる実験を続けることができるのです。

160119projectveggie05.jpg

image: NASA/Scott Kelly

宇宙でレタスができた、花が咲いた、実験はまだまだ始まったばかり。プロジェクトVeggieのために、次のスペースXのカーゴでさらに植物(白菜2セット、またまたレタス)が届けられます。そして、今から2年後、2018年には宇宙でトマトを育てる予定になっています。

みずみずしくて真っ赤なトマト、それはまるで宇宙の宝石のようでしょうね。

top image: NASA/Scott Kelly

source: NASA

Mika McKinnon - Gizmodo US[原文

(そうこ)