3Dプリントのバレリーナが踊る、ケミカルブラザーズの新MV

シュールで、ずっと浸っていたくなるような世界観

過去にも名曲と共に名作MVを世に送りだしてきたケミカル・ブラザーズですが、今回、BECKとのコラボレーションで生まれた「Wide Open」のMVには、イギリスで活躍する女優でありバレリーナのソノヤ・ミズノさんを迎え、不思議な世界観のMVに仕上げてきました。監督はVFXの使用を得意とし、数々のユニークなCMやMVを手掛けてきたディレクターコンビ、DOM&NIC。VFXを担当したのは、CM業界では右に出るものがいないポストプロダクション、The Millです。

内容はソノヤさんが踊るだけのシンプルなものですが、彼女の体は少しずつ、細胞組織からインスピレーションを受けた3Dプリントのようなメッシュ体へと変わっていきます。ソノヤさんの体をCGのモデルと入れ替えるため、まず撮影した映像からソノヤさんの体を消したクリーンプレートを作成しました。

撮影セットそのものを自動運転車などにも使われるLIDARを利用してスキャンし、そこから得た3Dデータを使って可能な限り精密なカメラトラッキングを行ないます。次にソノヤさんを映像から消すわけですが、約7000フレーム全てを手作業で行なうわけにはいかないので、作業を効率化するために独自のソフトウェアを開発しました。これは映像をスキャンし、LIDARから作成したセットの3Dモデルをフレームに当てはめ、ソノヤさんの陰になっている部分を自動的に保管できるのだそうです。

メッシュ版のソノヤさんは、彼女の全身スキャンを行なって作成した3Dモデルを元に作られました。スキャンの際には皮膚も撮影し、通常の彼女のモデルにテクスチャとして使用することで、通常とメッシュ、2つのバージョンのモデルを用意しました。通常モデルに関しては、メッシュが通常の体の前を(カメラから見て)通る瞬間、メッシュ越しに見える部分を補完するために使われています。同時に、メッシュが体に投影する影を再現するため、メッシュ状の影が通常の体に投影されているシャドーパスを作るためにも使われています。

3Dモデルはもちろん、モーションキャプチャーによってソノヤさん自身の動きとマッチングされています。ですが、どれだけ素晴らしいダンサーであっても完璧に同じ動きを再現することはできません。なので、キャプチャーされた動きはあくまでベースであり、それを破たんがないように実際の映像と合わせるのは膨大な量の手付けのアニメーションです(指先まではキャプチャーできていませんしね)。それに、本人をスキャンしてできた3Dモデルとは言え、人間の肉付きは日々変わるし、3Dが完璧に筋肉や皮膚、脂肪の動きを再現できるわけではないので、その帳尻を合わせるには3Dアニメーションと本人の映像を歪めたりする加工、2つの面からのアプローチが必要であったのは想像に難くありません。The Millによれば、もっとも苦労したのは実際のダンスとのマッチムーブだったそうです。

こうした多大なプロセスを経た結果、今の映像があるわけです。緩やかなサウンドにマッチしたシュールで、どこか儚く美しい映像。短いMVだからこそ、あらゆる挑戦が裏にあるのですね。

source: YouTubeVimeo

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