スカリア米最高裁判事の死が瀕死の地球を救う?

2016.02.20 18:00
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世紀のどんでん返しなる?

米最高裁が9日、オバマ大統領のCO2排出規制法案を凍結し、パリ協定の削減目標達成が絶望視される中、これまで強硬に反対していた最高裁判事が狩猟旅行先で13日ぽっくり他界、不謹慎な話ですが現実問題として「プラン復活に急に光が見えてきた」と言われています。

亡くなったのはアントニン・スカリア判事(79)。テクノロジーには進歩的姿勢を示しながらも、銃所持賛成、中絶反対、同性婚反対、政治献金は上限撤廃、クリーン政策はもちろん反対という、コテコテの保守派でした。

2007年に最高裁が「CO2を汚染物質として規制する責任は環境保護庁(EPA)にある」と歴史的判決を下すと、「大気保護庁(Atmospheric Protection Agency:APA)じゃないだろ」と毒づき、CO2で打撃を受ける大気層の名前を失念した時には、やんわり教えてくれたマサチューセッツ州法務局長にこう言い放ったこともあります。

「対流圏だかなんだか知らんが。前にも言ったろう、わしは科学者ではないのじゃよ。だから地球温暖化のことはやりたくないんだ、正直言うとね」

この「わしは科学者ではないのじゃよ」というのは、スカリア判事が流行らせた決め台詞ですね。トンデモ科学を並べても最後にこう言えばそれで無罪放免、地球を救う責任も帳消しと言わんばかりの態度。9日にオバマの気候変動法案「クリーン・パワー・プラン」に待ったをかけたのも、スカリア判事率いる共和党大統領指名判事5人衆でした。そのスカリア判事が逝ってしまったのです。ヒバリ狩りに明け暮れた翌朝。自然死でした。

パリ協定では195カ国が地球温暖化を摂氏2度に抑えるのを目標にすることで合意しましたが、削減目標達成プランは各国の取り組みに任されています(法的に義務化する合意は、どうせ共和党支配の上院に潰されるので見送られた)。アメリカ(中国に越されるまでずっと世界最大排出国だった)が約束したのは2025年までに26~28%の排出量削減。それを達成する唯一の道が、クリーン・パワー・プラン(各州に発電で出るCO2を2030年までに3分の1減らすよう義務付ける法案)です。

全ての国に気候対策への参加に合意してもらうための国際交渉には数年を要しました。途上国の中には温暖化で国土消失の危機に瀕する国あり、「なぜ自分たちばかりが割を食わなければならないのだ」(正論)という主張が根強くあります。2009年のコペンハーゲン会議(COP15)が合意見送りになった背景には、こういう金持ちの国と貧しい国が譲歩できなかったという側面もありました。

それがやっと脱・石油燃料ですべての国が1つにまとまったのがパリ協定です。科学者が警鐘を鳴らして50余年、石油会社が察知して40年、国連気候変動枠組み条約の第1回会議から20年。その矢先にアメリカが抜けでもしたら、それこそ「パリ協定は空中分解だ」と、ニューデリーの政策研究センター上級フェローのNavroz K. Dubash氏はNYタイムズに言ってますよ。実際、9日の時点では空中分解まっしぐらの様相でした。

昨年8月提出のクリーン・パワー・プランに反対する20以上の州が国を訴えた件で、そっちの訴訟が進むまでプランは棚上げだ、と最高裁が前例のない判決を下したんですね。ところがその直後にスカリア判事が亡くなってしまったことで、雲行きが変わりました。

米最高裁判事は大統領が任命し、上院の承認を経て就任します。任期は終身。これまでは民主党大統領任命の判事4人、共和党判事5人だったので、民主党オバマの法案は通りにくかったのですが、共和党判事スカリア氏の後任にオバマの肝入りの民主党判事が入ると力関係が一挙に逆転、プランが最高裁判決にかけられる頃にはするする通ってパリ協定のゴール復活!というわけです。

まあ、反対勢力もじっとしてはいません。訃報が流れるや否や、ミッチ・マコーネル院内総務(上院多数党のボス)は「次の大統領まで指名は見合わせるべきだ」と声明を出し、早くも上院で指名拒否する気満々だし、共和党次期大統領候補も1年待ての大合唱です。仮に次期大統領が共和党で、それまで判事指名が先送りになった場合、オバマのクリーン政策はすべておじゃん、パリ協定は京都議定書の二の舞いに。

地球絶滅の危機はひとまず白紙に戻った格好ですけど、まだ戦いは緒についたばかりです。


Maddie Stone - Gizmodo US[原文
(satomi)

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