錠前と鍵の歴史、そしてその行く末は?

2016.03.02 22:00
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果たしてこれは望まぬ発展か、それとも…?

自宅や貴重品を守るため、私たちの日常生活に欠かせない錠前と鍵。それらは今、大きな過渡期を迎えています。

約6,000年前のメソポタミアで木製のかんぬき錠が発明されてからというもの、錠前と鍵は所有物を守るために使われてきました。それが大きな技術革新を経て、電子的なメカニズムを持ち、相互接続するというようにその在り方は変わりつつあります。新たな錠前では鍵が不要になり、人の出入りの追跡をもできるようになったのです。

しかし、この変化が従来の錠前と鍵の在り方と比べて良いといえるのかどうかは議論の余地がありそうです。


そもそも錠前と鍵はいつ頃から作られるようになったのか?


考古学者たちは19世紀中頃のコルサバードの宮殿(現在のイラク)で、世界最古の錠前を発見しています。発見された錠前と鍵は、その地方がメソポタミアと呼ばれアッシリア時代が始まる前、紀元前4,000年に作られており、原始的な仕組みで木製でした。この錠前の土台になっている原理は現代の錠前にも使われているそうですよ。

この錠前はかんぬき錠として知られるもので、錠の中に異なる長さのピンがあり、純正キーが挿入されない限りドアが開かないような仕組みになっています。鍵を挿入すると、内部のピンが押し上げられ、ドアを塞いでいた木製のかんぬきを外せるようになるのです。

その時代、戸締りをする方法はこの錠前を使うか門番を配置するかのどちらかだったとか。錠前がいかに便利だったかが分かりますね。


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このメソポタミアの錠前の構造を改良し、さらには建築にも使うことを広めたのは古代エジプト人たちでした。錠前の装置はまだ木製だったものの、彼らはピンを真鍮製にすることもあったのです。そんな、少しだけ進化した錠前の形状はコチラ

鍵とピンを使った単純な仕組みは一世紀以上もの間、変わらないままでした。それがエジプトからギリシャ、そしてローマ帝国へと徐々に伝わり、箪笥や引き出しを守る小さな錠へと改造されていったのです。やがて、ローマ人の中でも裕福な者は、鍵を指輪のように身につけるようになりました。これは、保護を必要とするモノを所有するほど己が金持ちだと見せびらかすためでした。


ウォード錠の誕生


木製かんぬき錠の基本的なデザインから変化がみられるようになったのは中世に入り、英国の職人が初めて金属製のウォード(突起)がついた錠を作るようになってからでした。これらの錠前の鍵穴は奥が円筒形となっています。鍵穴の中には、ウォードと呼ばれるいくつもの同心円状のプレートがあり、鍵についている切り込みがウォードのパターンと合わない場合、鍵を回すことが出来ません。もし何の抵抗もなく鍵を回せたなら、回転時に施錠できた、あるいは解錠できたということです。

史跡なんかには今でもウォード錠が残っています。きっと何世紀にも渡って、偽物の鍵を使って侵入しようとする輩から建物を守ってきたのでしょう。中世の城や秘密結社に憧れを抱いたことのある人なら、ウォード錠の美しいデザインを見たことがあるかもしれませんね。


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スケルトン鍵と錠前破りの時代


しかしそんな美しい装置にも弱点がありました。ウォードと切り込みのパターン次第では、1つの鍵で他の錠前も開けられてしまうのです。もし、基本的な鍵の形を知っていれば、ウォードを避けるために鍵の切り込みを削ってスケルトン錠を作れるということ。そうすれば、その鍵自体が1つの大きな切り込みとなり、何にも遮られることなくどんな配列のウォードにもぶつからず、回転できてしまいます。この特徴をありがたく思ったのは、1つの鍵で城内すべての扉を開けられるようにしたい領主よりも泥棒かもしれませんね。

安全性の観点からすれば完璧とは言えないウォード錠ですが、その存在によって金属細工の技巧は新時代を迎えることになりました。熟練の職人たちが錠前屋として雇われ、領内の建築に合うような凝った錠前や鍵をデザインし、作るようになったのです。彼らは鍵穴の形を変えウォードに複雑性を加えることで、安全性を高めました。しかし後を追うように、スケルトン錠の出来栄えも共に進歩したのです。ルネッサンス期の終わりには数多の異なるデザインが作られ、錠前破りそのものも1つのスキルになりました。当然ながら、破られない錠前を作ることが優先されるようになったのです。


近代における錠前製造の始まり


産業革命の時代になると洗練された錠前が作られるようになり、英国はセキュリティーの権威としての立場を確立します。1778年、ロバート・バロンはダブルアクション式のレバータンブラー錠の特許を取得しました。従来のタンブラー錠を解錠するにはすべてのピンを持ち上げる必要があったのに対し、この新たなデザインでは2から4つの独立したレバーをそれぞれ特定の高さまで持ち上げるのです。バロン氏は自身の発明を「これまで作られたどの錠前よりも安全」だと自画自賛していました。

しかしその錠前でもまだ完璧に安全とは言えなかったのです。多くのレバーが備わった錠前では難しくなったものの、適切な道具とスキルがあれば錠前破りは可能でした。より多くのバリエーションを加えれば安全性が増すことから、他の英国人がバロン氏を出し抜くまでそう長くはかかりませんでした。

1784年、ジョゼフ・ブラマ氏が安全性の高い錠前の特許を取得します。そのデザインはさほど変わらないまま、今でもロンドンで製造・販売されています。鍵は円筒状で、錠の内部にはバロン氏が導入したレバーと同じような目的を果たす障害があります。入れた鍵が純正キーであれば、その障害に邪魔されることなく錠の内筒を回転でき、その結果ボルトを引っ込ませられるというものです。

この錠前の安全性に対して、ブラフ氏は絶対的な自信を持っていました。そのため1790年には、賞金200ギニー(現在の価格で20万ドルほど)を賭けて「チャレンジ・ロック」と称し、自分の店のショーウィンドウに展示したのです。1851年の大英博覧会が開催されるまでは破られることはありませんでした。そう、アメリカ人錠前師アルフレッド・C・ホッブスが51時間かけて解錠に成功するまでは…。

そんなブラマ氏に負けじと、他の錠前師たちも錠の改良に勤しみます。1817年に起きたポーツマス海軍基地での住居侵入を受け、英政府は純正キー以外では開けることのできない錠前を作るコンテストを開催します。そこで£100の賞金を手にしたのは、ジェレミア・チャブ氏でした。彼はバロン氏の錠前のデザインに独自のレバータンブラーと、偽物の鍵が挿入されると詰まる仕組みのディテクターと呼ばれる探知装置を加えたのです。その錠前を開けられるのは純正キーのみというわけです。チャブ氏の錠前も、大英博覧会が開催されるまで破られることはありませんした。またしても、アルフレッド・C・ホッブスに破られるまでは…。


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博覧会でのホッブスの伝説的な鍵破りによって、錠前作りの巨匠としての英国の治世は終わりを迎えます。当時のThe Times紙は「博覧会が開催されるまで、世界最高峰の錠前を有しているのは我々だと思っていた」と報じました。「我々の中でもブラフ氏とチャブ氏は、ジブラルタルと同じくらい難攻不落だと認識されていた」と。しかしアメリカ人の発明がそんな伝説を打ち砕いたのです。


英国の衰退、そして米国の台頭


1851年の大英博覧会でホッブスが衝撃を与えていたころ、米国では既にもっと進んだ錠前が発明されていました。1843年、現在ではエール錠と呼ばれるピンタンブラー錠の特許をライナス・エール・シニアが出願します。そのデザインは、かつてエジプト人が作っていたシンプルな木製の錠前を改良したものでした。続いてライナス・エール・ジュニアが1861年にシニアのデザインを改良し、ギザギザして凹凸がついた平べったい鍵を考案します。みなさんの自宅の玄関にも、もしかしたらこのタイプの錠前が使われているかもしれませんね。 

エール錠のすばらしいところは、シンプルさと防犯性が結びついたことです。レバーをもっと増やしたり鍵を複雑にしたりする代わりに、エール錠は古代のピンタンブラー錠のデザインを完成形へと導いたのです。特に見違えたのは、錠を開ける小さな鍵でした。鍵の凹凸だけでなくギザギザ切り込みも特定の錠に合うためカットされており、鍵穴にさしこむと押しバネで繋がれたピンを動かします。この錠の内部構造は内筒(プラグ)を回転させないと、かんぬきが外れないようになっています。プラグを回転させるためには、鍵でそれらのピンを動かす必要があるのです。


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各ピンは、ドライバー・ピンとキー・ピンの2つに分かれるようになっています。押しバネで繋がったピンは、鍵のギザギザ部分によって特定の高さまで押し上げられます。もしそれが正しい鍵であれば、ドライバー・ピンは錠前のプラグと外筒との間に残り、キー・ピンがギザギザ部分に落ちます。ひとたびすべてのピンがきちんと並べば、プラグは回転できるようになりかんぬきを引っ込めることができるというわけです。錠の内部はこのようになっています。 



錠前の新たな役割?


それから1世紀半の間、錠前師たちはエール錠の改良版や新たなデザインを生み出し続けました。そして20世紀になって間もなく、ドアの施錠という役割以外に錠前を活用できる可能性が初めて示されたのです。1909年、ウォルター・シュラーゲ氏照明を点滅できるドアロックの特許を取ったのでした。

シュラーゲ氏はのちに、エール錠の使い勝手をもう少しよくしたプッシュ式ボタン付きのシリンドリカル・ロックを発明しています。自宅や職場で使った覚えのある人もいるかもしれませんね。同氏が設立した会社は現在も、錠前製造業の最大手であり続けています。しかし、錠前に施錠+αの役割を与えられるという彼のアイデアが日の目を見るのは、デジタル時代に入ってからのことでした。 


錠前と鍵を直感的に操作する未来へ


錠前と鍵の仕組みの歴史に比べると、物理的な錠前の在り方はもっと複雑に発展していきます。古代ローマ人は南京錠の原型を作ることで、鍵を物体から概念へと変えました。この概念をジェームズ・サージェントが発展させ、1857年に世界初の番号を変えられるダイヤル錠を発明します。同氏はその後、1873年にはセットされた時間にのみ開錠する世界で初の時限錠、そして1880年には特定のインターバルの後にのみ開錠するタイム・ディレイ・ロックと、より巧妙な錠を発明したのでした。

特定の人が特定の期間にのみが解錠できる直感的な錠前というアイデアは20世紀末期に誕生しました。1975年にTor Sørnesが初の電子カードキーの特許を取得したことで、プログラムで制御できる錠前という新たな市場を開拓したのです。この数十年の間、パスワードから指紋のような生体認証まであらゆる種類の認証方法が電気鎖錠に利用されてきました。セキュリティートークンやRFIDタグといったデジタルな鍵によって、赤外線や1と0との配列でドアが開く世の中になったのです。いまや顔認証でドアを開けることだって出来ますよ。


鍵は不要になる…?


つい最近まで、最新のアクセス制御の技術は政府やビジネスのために確保されていました。顔認証のセキュリティーシステムを導入するのは安くはありませんが、IoT(モノのインターネット)の普及に伴い、錠前を製造する企業は最新テクノロジーを人々の住宅に取り入れる方法を模索中です。どうやら最終的な目標は、紛失する可能性や合鍵を作られる可能性のある物理的な鍵を廃止することなんだとか。

多くの急成長中スタートアップ企業だけでなく、エールシュラーゲといった老舗企業も鍵のいらない未来へと導こうとしています。昨年、両社はスマートフォンの操作あるいは音声で開けることのできる、新たなロックを発表しました。シュラーゲのSenseロックアップルのHomeKitと連係しているので、Siriを使ってデッドボルトを開けることだってできます。もちろん、従来の鍵も使えますよ。  


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その一方でエールの新製品Linusロックはさらに進化しており、物理的な鍵はありません。ドアの外側に設置されているタッチセンサー式のパネルには250種類の暗証番号を設定できるようになっています。それによって、子どもや友人、そして隣人に特定の暗証番号を割り振り、人の出入りを記録できるというわけです。

このLinusロックはNestが新たに発表したWeave protocolとも連係するので、ロックと自宅にあるデバイスとをいくつでも接続できるのです。想像してみてください。帰宅してドアを開けるという行動で、他のいくつものデバイスを起動する。テレビは好きなチャンネルに合わせられ、ブラインドは上がっている。もしくはサーモスタットがエアコンをつけ、照明もついているかもしれません。

錠前がインターネットに接続されると、ハッキングされる心配があります。多くのスマートロックは何重ものセキュリティーを実装していますが、その一方であなたの出入りに関するデータの収集をもしています。この機能を呼び物と考える人もいれば、必要のない監視と考える人もいるでしょう。インターネット接続型ロックの登場で、これまで単純だったテクノロジーは複雑になりました。Bluetoothやジオフェンシングといった次世代のメソッドがこういったガジェットに使われることで、従来のエール錠よりできることが増えたのです。  

進化し学習できる暗号化ネットワークのおかげで、物理的な錠前の在り方が今後どうなり得るかは、これまでにないほど想像しやすくなっています。玄関先で鍵に手を伸ばす前、歩いている段階であなたのことを検出してドアを開けてくれるテクノロジーは既に存在しています。私たちの生活をより安全で便利にするために、このような進化したセキュリティーソリューションを本当に欲しているのかどうかが問われています。

何千年にも渡って、人類は昔ながらの鍵を使って単純なタンブラー錠を開けてきました。もしかしたら、これより進歩したものなんていらないのかもしれません。でも、ちょっとだけ安全性が高くて輝かしい最新鋭ロックがあれば、お金を払う人はいるでしょうね。


Illustration by Jim Cooke
Images by D. M. Potts / Wikipedia / Yale

Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文
(たもり)

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