「クリスティーナの世界」の謎がついに解ける。病名はポリオではなかった

「クリスティーナの世界」の謎がついに解ける。病名はポリオではなかった 1

ドクター・ハウスのような鮮やかな謎解き。

一度見たら忘れない絵というと、アンドリュー・ワイエスの代表作「クリスティーナの世界」(1948)もそのひとつ。この絵に描かれた女性が下半身不随になった原因については医師の間でも長年謎とされてきましたが、メイヨー・クリニックの小児神経科医Marc Patterson氏がついにその解らしきものに辿り着いたことを明らかにしました。

絵の中の女性は、ワイエス夫妻の別荘の近所に住んでいたアンナ・クリスティーナ・オルソンさん。弟と一緒によくワイエスの作品のモデルになっていた方です。この絵に描かれた当時は55歳で、すでに下肢まひになっていました。ある日ワイエスは草原を這って渡っていく彼女を見て心を打たれ、その姿を永久にカンバスに残したい衝動に駆られます。クリスティーナさんは19年後の74歳でこの世を去りました。

果てしない絶望と希望が交互に迫りくる絵ですが、クリスティーナさんはどうして立てないのか?

その謎を解くためにPatterson神経科医は生前の病歴と彼女を描いたワイエスの絵に片っ端から当たってみました。その結果、辿り着いた病名は通説のポリオではなく…早発型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)、脳と脊髄のすぐ外にある末梢神経がやられてしまう遺伝性の進行性神経疾患です。成果はメリーランド大学医学部で5月6日(米時間)に開かれた第23回年次歴史臨床病理カンファレンス(過去にはリンカーン、ダーウィン、レーニンなど歴史上の人物の病名を診断してきた学会)に報告しました。

通説のポリオでは説明できない

これまでは「ポリオで下肢まひになった」というのが通説でしたが、調査ではポリオでは説明のつかない点がいろいろ出てきたんですね。

まず、ポリオはウイルスで広まる病気で、ウイルスが中枢神経系に侵入すると(ごく稀にある)、神経障害が起こって四肢の一部や胸部がまひします。まひの進行は速く月単位で起こりますが、その後は悪化しません。ところがクリスティーナさんは生涯かけて病気が徐々に進行していたのです。3歳で外反足で歩くようになり(ポリオの症状ではない)、20代までは自力で歩けたんだけど、それから両手の筋肉が弱くなりだして、50代では一度ストーブの近くでうたた寝をしてやけどを負っています。やけどを負っても気づかずに眠っていたということは痛覚まひも疑われ、「どれもこれもポリオとは一致しない」とPatterson医師はLive Scienceに語ってます。

シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)とは?

ちなみにCMTは主に思春期から青年期に発症する病気で、アメリカの罹患率は大体2,500人に1人、原因は遺伝子異常です。以下は、米国立神経疾患・脳卒中研究所の解説です。

神経細胞は、長く薄い「軸索(axon)」と呼ばれる部位を通して、情報を電気シグナルとして遠くまで送っている。電子シグナル伝達速度を上げるため、軸索の絶縁体として機能しているのがミエリン鞘(髄鞘)。[...]ミエリン鞘が軸索をロールケーキのように取り巻いて、電気シグナルが外に漏れるのを防いでいる。軸索とミエリン鞘がないと、いくら信号を送ってもターゲットの筋肉は動かせない。また、手足の感覚情報を脳に伝達して戻すこともできない。

CMTは、神経軸索かミエリン鞘の構造と機能に関わるタンパク質を生む働きをする遺伝子の異常で起こる病気だ。CMT病のタイプによって異常タンパク質も異なるが、いずれの異常でも末梢神経の正常な機能が損なわれ、結果として徐々に末梢神経が退縮し、遠くのターゲットと信号できなくなってしまうのだ。

症状の出方と進行には個人差がありますが、四肢の感覚と運動は両方とも徐々に損なわれていきます。下肢の筋力が弱くなって、つまづき転びやすくなるのが特徴で、足が極度に曲がってハンマートゥ(槌指)に変形したり、脚部が逆シャンペンボトル型になることも。病気が進むと指、手、手首、舌の細かい動きの連携がとりづらくなります。

「この絵は僕もずっとお気にいりなんですけど、クリスティーナの病名は医学界の長年のミステリーでした。症例を見る限り、この病気が一番しっくりきますね」と、Patterson医師は語ってますよ。まさかそんな難病だったとは…。

image by MoMA

source: Historical Clinicopathological Conference, Live Science

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文

(satomi)