行方不明になっていたX線天文衛星「ひとみ」に何が起きたのか

行方不明になっていたX線天文衛星「ひとみ」に何が起きたのか 1

310億円が宇宙の塵と消える…。

制御不能な高速回転が始まって1カ月。ブラックホールなど宇宙の謎解明の鍵を握るX線天文衛星「ひとみ」の復旧をJAXAが正式に断念しました。

事故原因を調べた結果、当初噂されたデブリ衝突でもスラスタの故障でもなく、一連のシステムエラー(ソフトウェアと人為ミスをふくむ)によって異常回転が起こっていたことが判明したのです(英語解説日本語解説)。

異常回転で両翼から太陽電池パドルが分離し(異常発生直後に観測されたデブリの一部の可能性あり)、主電源喪失という致命的なダメージに至ってしまいました。

ひとみは2月17日に打ち上げられたのですが、3月26日の運用開始後も交信が途絶えた状態が続きました。交信不能なことをJAXAが27日に発表して約40分後、米空軍が衛星周辺でデブリ5点を確認し、そうこうするうち異常回転がJAXAによって確認されます。

その様子は世界中で目撃されました。たとえば以下はアリゾナの天文学者Paul Maleyさんが撮影した映像なのですが、高速回転しながら上空を通過するひとみの様子がわかります。

Maleyさんが高速回転に気づいたのは3月28日(米国時間)でした

その28日には「非常に短い」電波がJAXAに届き、「被害は意外と小さかったのかも…」と希望が一瞬復活したのですが、よくよく調べてみたら届いたメッセージは全部、周波数が微妙に違っていることがわかり、ひとみから発せられたものではなく、単なる電波障害か何かの可能性が高まってきました。

これまでに本体からは少なくとも10点のパーツが分解しています。JAXAは復旧をあきらめ、事故をもたらした構造的な原因究明に調査の重点を移し再発防止に努める方針とのことです。

高速回転はなぜ起こった?

以下はNatureからの翻訳です。

ひとみに異常が始まったのは打ち上げの数週間後、「スタートラッカー」システムからでした。これは宇宙で衛星の向きを制御するシステム。これが南米東海岸にある「南大西洋異常帯(South Atlantic Anomaly:SAA)」(ヴァン・アレン帯が低空まで落ち込む、放射線被ばく量が異常に高い地域で、機器の故障が起きやすい魔のエリア)上空を通るたびに不具合にやられたのです。

日本時間3月26日3:01AMには、あらかじめプログラムしたとおり「かに星雲」から「マルカリアン(Markarian)205」に向きを変更したのですが、その途中でスタートラッカーで不具合が発生したため、衛星は代わりにジャイロスコープで向きを計算します。ところがこのジャイロスコープから「衛星が1時間に21.7度回転している」という誤ったデータが入ってきたもんだから、さあ大変。機体は回ってないのに回ってることになり、リアクションホイールという小さなモーターがその回転を補正するため逆向きに回転を始めてしまったのです。

リアクションホイールが最高速度に達したところで、通常であれば磁性ロッドが起動し、回転が制御不能になるのを抑えてくれます。ところがこの磁性ロッドが正常に動作するには、3Dの軸できちんと機体の向きが確認できなければならないんですね。それができてないもんだから、ひとみの回転はどんどん速くなるばかりに…。

やがて機体は4:10AM頃、自動的にセーフモードに切り替わり、最後の頼みの綱のスラスタで回転を止める試みがはじまります。ところがここでアップロードされたコマンドが間違っていたため、回転を止めるどころか、逆に速めてしまったのでした(この誤ったコマンドは、適正なテスト抜きに数週間前に衛星にアップロードされたものでした。JAXAで原因調査中)。

一連の不具合が起こっているとき、ひとみは日本の裏側を通過中で、管制センターとリアルタイムで交信できない状態でした。地上からは5.2秒に1回転するひとみの姿が観測されています。

ひとみから得られたデータは結局、ペルセウス座銀河団から発せられる気体のスピード(ダークエネルギー研究の資料になる)どまりに…。世界中のX線天文学者が泣いています―。

Ria Misra - Gizmodo US[原文

(satomi)