シュレーディンガーの猫が2つの箱に

シュレーディンガーの猫が2つの箱に 1

生きながらも死んでいるという2つの状態が存在するパラドクス「シュレーディンガーの猫」が2つの箱でも成り立つことが、イエール大学の研究で判明しました。

「シュレーディンガーの猫」とは、量子物理学の量子重ね合わせ状態を猫で説明するものです。猫は毒の瓶と放射性物質と一緒に箱に閉じ込められていて、ミクロ粒子が放射性崩壊すると毒の瓶が開いて猫は死にます。ミクロ粒子は崩壊しているかもしれないししてないかもしれない、毒は出ているかもしれないし出ていないかもしれない、猫は生きているかもしれないし死んでいるかもしれない…それは箱を開けてみるまでわかりません。量子物理学では、箱を開けて観察者が「生」あるいは「死」と状態を確認するまで、猫は「生きながらも死んでいる」重ね合わせの状態と考えます。

そんなのヘンだろ!とオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが1935年に持ちだしたのが、この猫の喩えです。

ずっと奇妙な思考実験と思われてきましたが、2005年に米国国立標準技術研究所(NIST)がラボでこの猫の状態を再現することに成功しました。6つの原子がすべて「スピンアップ」しながらも「スピンダウン」する重ね合わせ状態(時計回りと反時計回りが同時に存在する状態みたいなもの)を再現したのです。以来、ほかの物理学者も光子を使って目に見えるマクロなかたちで猫状態を再現してきました。

今回イエール大学研究班はこの量子猫に、もうひとつの量子物理学の理論「量子もつれ」を投入しました。量子もつれ理論とは、強く結びついた2つのミクロ粒子が遠く離れた場合、片方の物理量を観測するともう片方の物理量がわかる、片方を変えるともう片方も変わるというもので、そんなのヘンだろ!と、アインシュタインが「幽霊のように気味が悪い相関」とディスったやつです。

この状態再現のため研究班ではひとつの部屋の中に、2つの離れたアルミニウム製の空洞(中ではマイクロ波光子が弾け回っている)を作り、サファイア製の超電導の人工原子でつなぐことに成功しました。つまり、マイクロ波の光の生死猫が2匹同時に2つの箱に存在する状態を再現したのです。

「この猫は大きくて賢い。量子の状態は2つの空洞で共有されているので、猫はひとつの箱に存在するのではなく、別々に切り離しては語れない」、「別の見方もできる。小さくて単純な2匹の猫が別々の箱に1匹ずついて、それがもつれ合っている、という考え方だ」と、論文主筆者のChen Wangさんは声明で語ってますよ。

この研究は、量子コンピューティングにも影響が大きいものです。0と1のビットが基本の従来型コンピュータと違い、量子コンピュータでは情報を量子ビット(qubit)で保存します。この量子ビットは、0でありながら1であるという、2つの状態の重ね合わせ状態で存在できます。計測や観測がされるまで、生きながらも死んでいるシュレーディンガーの猫とまったく同じなんです。でもこれはとてもデリケートな状態で、量子情報は外部環境のノイズから完璧に遮断されなければダメ。ちょっとでも干渉が入ると(情報のコード化や保存で使った原子に光子が1個ぶつかる、など)、それだけで全システムが「デコヒーレンス」となり、重ねあわせ状態が損なわれてしまうのですね。

猫の状態がここまで重視される一因は、量子情報の保存にとても役立つから。2つの箱で猫の状態を再現できるということは、「2つの量子ビット間の論理演算(エラー補正などに使われる)の実現に向けた第一歩だ」と、論文共著者のRobert Schoelkopfさんは話していますよ。

image by Michael S. Helfenbein/Yale University

video by Yvonne Gao/Yale University

source: Science via EurekAlert!

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文

(satomi)