SF作家ブルース・スターリングの思考術を使って未来を作るイベントに行ってきた

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SF小説、久々に読みたくなります。

少し前なら、新生活を始めた時に「PC」デスク用のスペースを確保したり、電源ケーブルが伸ばせるかを心配したり、自宅を「PC」中心な生活環境にそろえていました。

でもいつの間にか、iPhoneを使ってTwitter見たり、iPadを使ってNetflixやプライム・ビデオを見る生活が当たり前になっています。PCは仕事のためのアイテムと化していました。

使う時間もスペースもない。何日も触ってない。そんな人たちは少なくないはずでしょう。昔はあんなに色々出来てたのになあ。今は業務用に使うだけなんて、時代の流れには逆らえないかな。

サイバーパンクSF作家が提唱するデザイン・フィクション

突然ですが、「デザイン・フィクション」という言葉をご存知でしょうか? 僕は初めて聞きました。

この言葉は、「スキズマトリックス」や「ミラーシェード」などの作品で、ウィリアム・ギブソンらとサイバーパンク運動を推進してきた世界的なSF作家ブルース・スターリングが考えた言葉だそうです。

デザイン・フィクションはフィクションの一種じゃない。デザインの一種だ。それは、ストーリーというより、世界を伝えるものなんだよ

未来の予想が難しくなった今、どんな製品やサービスを作っていけばいいのか、何が人に支持されるのか、考えれば考える程辛くなりますよね。

そんな現代で新製品を生み出すために、現状や社会のトレンドの志向を優先するよりも、SFや未来など未知の世界でのリアリティを想像力でひたすら追求しようというデザインの考え方がデザイン・フィクション。未来の世界では当たり前になるかもしれない製品やサービスを想像力で考えていくこと。

デザイン・フィクションでより「現実」につながるために必要なのが、「物語的プロトタイピング」のプロセスで、それが新しい製品体験や価値観の創造へとつながっていくのです。よく引き合いに出る例が、映画「2001年宇宙の旅」に出てくるタブレット端末。誰も見たことない未来世界に違和感なく存在しています。

最近ではAppleやMicrosoft、Googleなどの企業が社内にSF作家を招いて研修を行い、物語的な製品開発の研究や取り組みを行っているそうですよ。

今回ギズモードで取材したのは、日本のPCメーカーがデザイン・フィクションを使って行ったワークショップです。

日本PCメーカーとデザイン・フィクションとPC業界の未来

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6月10日にレノボ・ジャパン、NEC、VAIOの3社が中心となって、「Design Fiction Workshop vol.1 ー「物語の世界」で捉える、人間とコンピュータの10年後の未来」が、6月10日に渋谷のロフトワークにあるクリエイティブラウンジスペース「loftwork COOOP」で行われました。

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このワークショップでは、PC業界の再生やデバイスの開発といった、ありきたりのハッカソンやアイデアソンのゴールは設けらません。人とコンピュータの関わり方を近未来の社会環境やテクノロジーから想像しながら、「10年後のワクワクする理想の未来を創作」しようということがゴールになりました。

参加した人もUIデザイナーやプロダクトデザイナー、エンジニア、ライター、脚本家、マーケッター、ゲームプランナー、イラストレーターや心理学の専門家まで多種多様。

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ワークショップの冒頭で、レノボ・ジャパンの代表取締役社長の留目真伸さんから、今回の趣旨と未来についてトークがありました。

留目さんは、事業停止や売却が相次ぎPC業界の置かれた厳しい現状を振り返りつつ、「PCの使い方はPCが出来たころからほとんど変化がない」問題点を指摘しました。

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また今のテクノロジーの世界に対して「テクノロジーは急成長しているのに、人の生活や働き方は進化できているモノと進化できていないモノの格差がどんどん開いている」と独自の見解を示していました。

例えば自動車。自動運転が当たり前になりつつあるほど進化している業界で面白いことがどんどん起きてテクノロジーも急速に進化している。

現在、人がコンピューティングパワーを発展させた形で生活や仕事をしているか?というと今までと全くスタイルが変わっていない

そして最後に留目さんは、この現状を変えるためには産業構造やワークスタイルも変わる必要があって、今回のワークショップが未来の働き方のモデルになってほしいと述べました。

デザイン・フィクションのワークショップ

まず参加者は5人組のチームに分けられます。そこから、チームで「理想の未来についてアイデアを創作」しまくり、その上で未来の「世界観」と「理想のキャラクター」を作り、キャラクターが生活する未来の「ストーリー」を作っていきます。こんな風にワークショップは進んでいきました。

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PCやスマホ、VRといったデバイスは必要ありません。想像力と意見交換だけで未来の世界を想像する作業です。初めて会う人に自分の想像を打ち明けるには勇気がいりますが、参加した皆さんを仕事や専門性で分けていい感じの雰囲気が生まれていました。

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イラストを描いている人もいたり、自由な雰囲気が出てましたよ。

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カウンター席に座ると、さらに自由な雰囲気。

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ワークショップ中に一番気になったのがこれ。当日の運営を担当されたロフトワークさんが作成して全員に配布した資料の表紙。「読みすぎると思考が狭まります!」なんて、何が書いてあるか分からない楽しさから、子供の頃に戻ったような感覚で楽しめましたよ。数々のワークショップやイベントで実績あるロフトワークだけに気になるツボの押し方が絶妙です。

結果発表

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ワークショップの最後は各グループからの発表です。

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場所にしばられないドローンハウス」の生活を提案してくれたグループ。未来の世界では、Amazonが移動型コンテナを開発して販売するという設定から、好きな時に気球が開いて好きな場所に飛んで行く住宅を作ったそうです。また未来ではよりネットワーク化が進むので、場所に縛られずに仕事や学校が成立できるそうです。地震が来たときに家ごと飛んで非難ができるとか、アウトドア好きな医者がチョモランマの頂上に病院を移動させてしまう「超アウトドアな開業医」が生まれることも考えたそうですよ。

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会場が爆笑したのは、「New Air: 無重力特区」を提案したグループの発表。「重力からさえ自由になればあらゆることができる」未来がこのグループが想像した設定だそうで、地上のさまざまなプレッシャーから開放してくれる世界を滋賀県の上空に作ることについて、説明してくれました。重力がなくなれば、交通や不動産価値や人の交流が変わっていき、マジックテープで貼り付けて安心の「接着ファッション」が流行ったりで、身体的精神的プレッシャーから開放される生活が生まれる未来を想像してくれました。滋賀県の上空に無重力空間を作るのは、琵琶湖が浮いてフォトジェニックになるからだそうです。

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未来にワクワクするドヤ顔。

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何かのプロトタイプ...らしいです。

Design Fiction Workshop vol.1 ー「物語の世界」で捉える、人間とコンピュータの10年後の未来 from loftwork on Vimeo.

イベントの様子はこちらのハイライト動画でご覧いただけます。

今回のワークショップには審査員として、レノボ・ジャパン社長の留目さん、AR三兄弟川田十夢さん、株式会社Cerevo代表取締役の岩佐琢磨さん、株式会社ABBALab代表取締役 さくらインターネット株式会社フェローの小笠原治さん、VAIO株式会社商品企画部 部長/商品プロデューサーの伊藤好文さん、脚本家の長谷川徹さんの6人が参加していました。

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そして結果は...

「ドローンハウス」のグループでした!

最優秀賞として賞金が審査員から渡されました。

ワークショップを通じて見られたのは、どのグループも「ウェアラブル」や「IoT」製品を作る現実の延長のような未来ではなく、ぶっ飛んだ世界を想像しつつも、そこに何かしらのテクノロジーを媒介とした新しい暮らしや理想的な人の交流をリアルに描いていたことでした。「わけが分からないけど、地に足がついている」世界、まさにそんな印象を受けました。

そういえば、Cerevoさんの「ドミネーター」もSF世界の具現化という観点では、かっこ良く言えば「未来的」、砕けた言い方だと「ぶっ飛んだ」アイテムですけれど、未来の世界に実在しても不思議じゃない感じが湧いてきます。

関連記事:エンジニアが本気を出すと玩具も変わる。全自動可変型PSYCHO-PASS「ドミネーター」

多分、進化の速度が急変する真っ只中の世界において、未来のテクノロジーの予測はできないかもしれません。でも未来の生活を想像力を駆使して考えてみることは、きっと読者のみなさんであれば楽しみながらできると思います。

SF作家ブルース・スターリングが発案したデザイン・フィクション、みなさんはどんな未来を想像してみますか?

source: レノボ・ジャパン株式会社NECパーソナルコンピュータ株式会社VAIO株式会社株式会社ロフトワーク

(執筆/撮影:Yohei Kogami)