映画「クリーピー 偽りの隣人」黒沢清監督にインタビュー

クリーピー 偽りの隣人

監督は◯◯◯◯なシーンが苦手!?

隣人が不穏すぎて「さっさと引っ越し!」と叫びたくなる近隣トラブル・サスペンス・スリラー映画「クリーピー 偽りの隣人」。

今回は本作を手がけた、国内外で熱狂的なファンを持つ黒沢清監督に、撮影中に思いついた画期的なシーンとその撮影裏話ゲームやテクノロジーへの興味などについて語っていただきました。

黒沢清監督

黒沢清監督

――原作にある謎解き、ミステリー要素はやや薄れ、「不気味さ」が強調されていましたが、そこに焦点を当てた理由はなんでしょうか?

黒沢清(以下、黒沢):尺の問題が一番大きいですね。原作では過去にいろいろとあったということが明かされていて面白いんですけど、全部やっていると本当に長くなってしまうので、どこかを省略する必要があるということで試行錯誤した結果、思い切って原作の前半部分、探し求めていた男が実はすぐそばにいるかもしれないというものすごくシンプルですけど、秀逸なアイデアをメインにして物語をコンパクトにしようと考えました

――印象的な道具がちょっとサイバーパンクな見た目だったり、ある部屋が人体実験をするような場所にしか見えなかったりなど、犯人はマッド・サイエンティストではないのか?と思わせるような描写が本作にはありますが、どういった意図であのようなデザインにしたのでしょうか?

黒沢:とことんリアルにやるという表現もありますし、実は似たような事件はあるので、それに似せて作るやり方ももちろんありました。そういうリアルな映画も面白いかもしれないんですけど、非現実的にはしないまでも「えっ、これあの事件?」と思い出すというよりも、「これはエンターテインメントでありフィクションなので楽しんでください」というダーク・ファンタジーの方向こそが、この作品が最終的に目指すものだという結論に達したんです。それで、今おっしゃったように「マッド・サイエンティストかもしれないですよ」といったニュアンスの飾りを「突飛すぎてもダメだけどあまりリアルじゃないほうがいい」と美術部にお願いしました。

それで彼らが「わかりました!」と気合を入れて作ったのが、あの道具と部屋です。生々しくやればもっともっと嫌な感じの作品になったでしょう。でも何とかしてそこからは距離を取りたかったんです。まあ、それにしてもちょっとやりすぎかなあ……と思いつつも、美術部が思い切ったデザインを提示してくれて、僕は大満足でした。

隣人の秘密とは?

犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)と隣人の西野(香川照之)

――笑ってしまうと同時にすごく怖い、斬新な死体処理の方法が登場しますが、あれはどのように思いついたのでしょうか? 撮影している際の役者さんの様子はいかがでしたか?

黒沢あれは僕が思いついたんです。これは単純な理由があって、まず原作も含めてこういう物語なので、後半のどこかで死体の処理をしていなければいけない、死んだ人、殺した相手をどうするのかという問題は当然出てくるわけですね。

もちろん一切見せない、省略するという手もあるんですけど、見せるとしたら何か方法はないか?と考えました。それこそ現実にはバラバラにしたりするわけで、そういうシーンも撮れるんですけど、自分はこう見えても血みどろなシーンって苦手で、映画の中で血が出てくるのが本当に嫌なんです。あと、この映画を意地でもR指定にしたくないと思ったんですね。

死体を処理しているのがああいう人物なので、ほんの少しでもバラバラにしているのを見せたらR指定になってしまうし、僕もバラバラはあんまり見たくない。でも省略するのは嫌だなと思って、血は一滴も出ないけど、ちゃんと処理しているように見える表現はないものか?と考えた結果が、あの方法です。

おかげでこんなにひどいことをしているにも関わらず、何の指定も受けていません。おっしゃったような、一見笑ってしまう状況だけどものすごく怖いというのは狙い通りです。

この手の映画は大体そうですけど、ひどいことをしているシーンこそ、撮っている時は楽しいんですよね。お芝居している俳優の方々は楽しいだけとも言っていられないんでしょうけど、楽しい撮影でした。このシーンに限らず、こういった作品を撮っている時って俳優の方々は自然と休み時間も楽しそうですね。演じている時の暗い雰囲気をずっと続けるのはやっぱり嫌じゃないですか? だからカットがかかったらみんな爆笑したり、ことさらに楽しそうにしています。

すぐ近くにいる人だからこそ怖い……

高倉の妻・康子(竹内結子)と西野

――映画の製作者がゲームに参加する機会が増えていたり、映画的なゲームが増えていたりと、ゲームと映画は表現が近づいてきているといったことが言われていますが、監督はどのように感じていますか?

黒沢:もちろんゲーム作りの細かい作業についてはよく知りませんが、「スカイリム」、「ドラクエX」など、それなりに新作はプレイしていて、最新ゲームのなんとなくのクオリティーは把握しています。やっぱり映画とはだいぶ違いますよね

昔の話で恐縮ですけど、これは映画に応用できる、これは映画でもやっていない、こういう映画の撮り方があると感激したのは一作目の「バイオハザード」でした。すべてが作り手の狙い通りに生まれた表現というわけではないと思いますが、監視カメラの位置に視点があるというのは新しかったです。

初期のゲームって基本的にはすべてそうなんですけど、場所に対して視点が固定してあるんです。「バイオハザード」だと廊下だったら、廊下の様子が一番わかりやすい場所に視点が置かれているので、監視カメラに近い位置になります。そこで主人公が動いていて、角を曲がると次にカメラに切り替わり、戻るとまた廊下にカメラが切り替わるというのが怖かったですね。場所と視点が決まっている分、どこかへ行って、戻ってくると、いきなりそこにゾンビが立っている。あの「さっきいなかったのに今いる!」という感覚が、視点が変わらない分ものすごく強調されているんですね。角を曲がって視点が変わるたびに「お願いだからいないでくれよ……」と思っていたら目の前にいたりするというのが本当に怖かったです。

1つ自慢をすると、自分の映画のゲーム版の「スウィートホーム」が制作されたとき、僕からお願いしてゲーム作りに少し参加させてもらって、カプコンさんとしては「これは怖い」という自信作ができたんですね。でも全く売れませんでした。「こんなに頑張って作ったのに売れないのか……」と、その時はそれだけだったのですが、同じ制作チームが後に「スウィートホーム」を改良して作ったのが「バイオハザード」なんです。「バイオハザード」のほうが100倍よくできているんですけど、彼らはものすごく映画を意識して、映画っぽい画面を作ろうとしていましたね。

ただ、実際に映画を作っている自分としては、映画でもこれはやっていなかった、映画でも見たことがない、全く新しい表現というよりは非常にユニークな映画的手法だと思いました。映画関係者もこれには気づいていないというくらい、「バイオハザード」は斬新だったと思います。

ドアの向こうに……

オコンニチハ……?

――3Dや4DX、VRなど、映画の見方が変わるようなテクノロジーが次々に生まれていますが、監督が今後ご自身の作品で使用してみたい最先端のテクノロジーはあるでしょうか?

黒沢:興味はなくはないんですけど、映画と切り離して考えちゃっているところがあります。映画で少しだけ興味があるのは3Dなんですけど、自分がこれまで経験した3Dの表現の中で一番強烈だったのは、昔アメリカのユニバーサル・スタジオで体験した「ターミネーター2」のアトラクションなんですね。その中で、ゆーっくりとスクリーンからT-1000の液体金属の体が伸びてきて、本当に自分の顔の目の前まで飛び出てくるところがあるんですけど、あれは本当に強烈な体験でした。

なぜなのかはわかりませんが、3Dの映画だと物が飛んで来るなどの瞬間的に飛び出てくる表現はよくありますが、「ターミネーター2」のアトラクションのような表現をやろうとしているものは1つも見たことがありません。あと、奥に引っ込む3Dははっきり言って全くナンセンスですよね。いや、映画は元々引っ込まなくても奥に見えるからっていう(笑)。平らなスクリーンを平だと思って映画を見る人はいなくて、2Dでも十分奥は奥に見えます。

逆に、観客に向かってゆっくりとじわじわ向かってくるというのは、2Dでは絶対に表現できません。実際に「ターミネーター2」のアトラクションを体験していると、「どこまでくるの?」とイスに座っている体が避ける体制になっていくんですよ。だから3D映画を作ることになったら、ゆっくりゆっくりこっちにだんだんはみ出てくる、最終的には鼻先まで近づいてくるという表現は絶対にやりたいです。

VRは体験したことがないんですけど、偽物と現実の上手い両立ができて、だからこそ現実では起こり得ないことが起こって、それをフィクションとして楽しめるというのが実現できれば、映画の発展版になるんじゃないかと思います。

映画「クリーピー 偽りの隣人」は2016年6月18日(土) 全国ロードショー。

©2016「クリーピー」製作委員会

source: 映画『クリーピー 偽りの隣人』公式サイト, YouTube

スタナー松井