映画における「優れた編集」とその効果とは?

優れた編集とは?

いい映画とはどんな映画でしょうか? 素晴らしい脚本やカメラワーク、深みのある俳優の演技……それだけではありません。

優れた編集も、いい映画作りには欠かせないものです。しかし、キャラクターのエモーショナル・アークや葛藤のリズムを作り出す編集はあまり注目されません。それは編集技術が優れていれば優れているほど、観客は気づかないからです。

そこで今回は、どのようにして「優れた編集」はできるのか?を、プロの編集歴10年というEvery Frame a PaintingのTonyさんの動画で学んでいきましょう。

プロは実際にどのように編集しているのでしょう? どうやって編集のタイミングを見極めているのでしょう? その質問を投げかけると同業者の多くが「直感」と答えるそうです。

偉大なる編集者マイケル・カーン(「ジュラシック・パーク」など)いわく、「人の考えの流れで編集している。知識をベースにしているんじゃない。人の考えを感じなくちゃいけないんだ」とのこと。では、編集者はどのように考え、感じているのでしょうか? 動画で語られていることをざっとまとめてみます。

目は口ほどに物を言う

編集の鍵は「」であることを理解する必要があると、Tonyさんは言っています。それは、目は他の何よりもシーンの感情を伝えるからです。

いい俳優は目が口ほどに、いやそれ以上にものをいうことを熟知しています(例:「ハンナとその姉妹」スーザン・E.モース編集、1986年)。

エリオット役のマイケル・ケインはセリフについて色々と考えた結果、「セリフを言わない」ことを選んだと言います。彼は目を使って感情の流れを伝えたのです。

編集者にとって大切なのは、俳優の目を追って彼らの目が何かを決断する瞬間を見極めることと言えるのかもしれません。視線を写し、次のショットでその視線の先を写せば、観客に俳優が何を考えているのかを理解させることができるのです。

感情に与える時間

観客は映画の登場人物に親近感を抱きますが、それは彼らがしゃべり始める前と後に表情を見る時間が与えられるからと、Tonyさんは言っています(例:「花様年華」ウィリアム・チャン編集、2000年)

編集者は「この感情にどれくらいの時間を与えるべきか」を決断する必要があります。編集はこういった決断の繰り返しに他ならず、数秒が大きな違いを生むのです。しかし、そこに正解は存在しません。ある感情はシングルショットで見せたほうが効果的、また別の感情は複数のカットで表現したほうが観客に強いインパクトを与える場合があると言えます。

Tonyさんは、そのいい例として「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」(ポール・ハーシュ、ジョージ・ルーカス、マルシア・ルーカス編集、1980年)を挙げ、ルーク・スカイウォーカーが自分のフォースを試すシーンの一連の流れを尺で説明しています。

ルークがXウィングに手をかざしてフォースを送るショットに4秒15フレーム、Xウィングが沼から上がってくるのが4秒9フレーム、ヨーダが目をみひらくのが3秒6フレーム、ルークがより力を込めるのが2秒17フレーム、興奮するR2D2に1秒23フレーム。ここでピークを迎え、再びXウィングは沼へ沈んでいきます。

このショットが4秒7フレーム、ヨーダの失望が5秒18フレーム、完全に沈むXウィングが3秒23フレーム、ルークの深いため息に5秒、ヨーダのもとにやってきて「できない」とこぼすルークに9秒19フレーム。失敗と失望の尺のほうが長く取られているのがわかります。

そしてTonyさんは、同じように失敗と失望を表現した「アントマン」(2015年 ダン・レーベンタール、コルビー・パーカー・Jr編集)と比較。

虫を見つめるスコット・ラングに3秒17フレーム、期待を込めて見守るピムに3秒10フレーム、虫の動きに2秒8フレーム、集中するスコットに3秒2フレーム、飛び立つ羽蟻に1秒6フレーム、諦めるスコットに2秒3フレーム。スコットの失敗はたったの30フレームです。

一方のルークは30秒もかけています。どちらのほうがより落胆を伝えられているか、よくわかったのではないでしょうか。

人間は機械ではありません。人に何かを信じてもらいたければ、感情を読む時間を十分に与える必要があります。しかし、編集技師でアメリカ映画編集者協会会員のセルマ・スクーンメイカーも言っているそうですが、「映画を見て『これを信じろ!』といっても、観客が信じられるように作られていない」のです。

リズム

Tonyさんいわく、タイミングはショットが持つリズムに自然に反応するということであり、意識して図れるものではないとのこと。

「ストーリーそのものと、それを伝えるリズムの間にもとから備わっている関係というのがあるのです。そして編集とは7割がリズムなんです」(「地獄の黙示録」のウォルター・マーチ談)

俳優が実際に体を動かしていればリズムをとるのは難しくありません。同じ肉体的な動きでも、歩いている人々やレストランの中の様子といった、私たちが日常的に感じているリズムは捉えるのが難しく、編集しづらいのだとか。繰り返し見ることで、どのタイミングでカットすればいいのかを見えてくるそうです。

クラシックなハリウッド映画の編集は、リズム重視で行われていました。前述の「編集が気づかれない」理由はここにあります。カットがあまりにも自然なので、目につかないのです(例:「コンドル」ヴィオラ・ローレンス編集、1939年)。

もちろん全てにおいて「見えない」ことが最善ではなく、時に大胆に編集することでシーンを引き立てることもあるようです(例:「花様年華」ウィリアム・チャン編集、2000年)。

また、わざと観客に不快感を持たせるような編集をすることで際立たせることも(例:「タクシードライバー」トム・ロルフ、メルヴィン・シャピロ、マルシア・ルーカス編集、1976年)。

こういった編集の仕方は、観客にどんな反応をしてほしいかによって変わるようです。

編集の学び方

編集がこうも直感的ならば、どのように学べばいいのでしょう?

答えはシンプル。練習あるのみ。練習は嘘をつきません。

編集はダンスに非常によく似ていると言えるでしょう。ダンスの基本を教えることはできても、学ぶためには踊らなくてはなりません」(ウォルター・マーチ談)

経験を重ねることで、リズムや感情のセンスを磨くのが最善とのこと。一朝一夕の作業ではありません。編集歴10年のTonyさんも、まだまだだと感じています。そして、行き詰まると彼はマイケル・カーンの言葉を思い浮かべると言います。

「素晴らしい作品は山ほどあるが、自分はこの作品に向き合っているのだ。このシーン、このショットを手がけている。多くの作品があるが、今はこれをやっているのだ」

今やっていることに集中する。それだけを見る。行き詰まっても、なんどもなんども繰り返し見ることで、そのリズムと感情が理解できる。すると、どこでカットするべきかが自然と見えてくる......。


その昔、日本のアニメ業界にいた時に「編集は監督の決めた尺通りにつなげれば良い」と訳者は言われたことがありますが、今回の動画を見る限りではまったく違うようです。30分のアニメと実写映画では異なるのでしょうが、なんにせよ、真に受けて編集者を目指さなくて良かったと改めて思いました……。

source: YouTube

Bryan Menegus - Sploid[原文
中川真知子