キツツキがヒントの「えり」、アメフト選手を脳損傷から守れるかも

キツツキがヒントの「えり」、アメフト選手を脳損傷から守れるかも 1

従来の防具では守れない、頭蓋骨の中を保護。

去年、サンフランシスコのアメフトチーム「49ers」のクリス・ボーランド選手が24歳の若さで引退を発表しました。その理由は、激しくぶつかり合うプレーで起こる脳しんとうや、それが長期的に脳に及ぼす影響への懸念でした。アメフト選手はヘルメットを装着しているとはいえ、同じような不安を抱える人が、特に10代の選手の間で増えています。でも近い将来、キツツキにヒントを得たカラー(えり)が、選手の脳を守れるようになるかもしれません。

Q30 Innovationsという会社のDavid Smithさんらが開発したカラー「Q Collar」は、脳を守る緩衝材のような役割を果たします。その構造と効果は、最近「Frontiers in Neurology」と「British Journal of Sports Medicine」で公開された論文で詳しく説明されています。その論文のための実験として、Q Collarは高校のアメフトチームとホッケーチームで試用され、脳の損傷を大きく減らしているんです。

アメフトリーグNFLの選手のうち、60%は少なくとも1回以上脳しんとうを経験していて、その結果長期的に残る脳損傷を受けている可能性があります。ヘルメットによって頭蓋骨の損傷は防げるものの、脳しんとうやそれに関連する脳損傷を予防する効果はわずかです。というのは、上記2つの論文を書いたシンシナティ小児病院のGreg Myerさんによると、かさばるヘルメットによって慣性が増すからです。つまり脳が頭蓋骨の中でより大きく揺れて、脳組織や神経を損傷する可能性がかえって高まるんです。

Q Collar開発者のSmithさんは、軍隊で使うヘルメットの改良に取り組んでいるとき、キツツキに関する研究がヒントになるかもしれないと気付きました。キツツキは繁殖期になると1日1万2000回、1秒あたり18〜22回も木をつつきます。頭を激しく前後させることで、1200Gもの力が頭にかかっています。

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Image by Field Museum of Natural History/Digimorph

それでもキツツキが脳しんとうで倒れないのは、頭に衝撃を吸収する仕組みが内蔵されているからです。CTスキャンを使った過去の研究では、キツツキの筋肉は厚く、骨はスポンジ状で、第3の内まぶたがあり、それらが脳脊髄液とともに、木をつつく衝撃を吸収していることがわかっています。

またキツツキの舌はとても長く、それによって自分の頭を巻き、頸静脈をつまむこともできます。これによって頭蓋骨内の血液量を増やしてクッションにし、頭蓋骨の中を保護しているんです。

Smithさんはキツツキの舌の構造を見て、1920年代の軍隊での脊髄損傷の診断方法を思い出しました。当時は医師が患者の頸静脈をつまんで、それによって脊柱の血圧が上がらなければ脊髄損傷、と判断していたんです。

ひらめいたSmithさんは、Myerさんにメールして彼の仮説を伝えました。Myerさんは最初「クレイジーだと思った」そうですが、でも物理的には筋が通ることに気付きました。そしてSmithさんのアイデアを検証する方法もまた別の動物、羊にインスパイアされたものでした。羊はお互いに頭をぶつけあう習性があるのですが、高地に移動することで自然に頭部の損傷から保護されているらしいのです。

そこでSmithさんとMyerさんは、高校とプロのフットボール選手の試合データを集め、それを試合が行なわれたスタジアムの高度順に並べました。すると高地の試合では、高校生で30%、プロで32%、脳しんとうが少なかったんです。

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Image by Q30 Innovations

彼らの発見を形にしたのが、Q30 Innovationsという会社です。これまで、ネズミにカラーを着けることで脳を保護できることもわかっていたので、首の周りをCの形に囲む「Q Collar」のデザインが生まれました。

Q Collarは頸静脈を柔らかく包み、いわば「ホースをつまむ」ことで、脳の中の血液量を増加させます。それによって脳がグラつくゆとりがなくなり、脳損傷のリスクが減るというわけです。これは、脳をプチプチの緩衝材に包むのと似た効果があるとのこと。

ただ正直、軽くとは言え首を絞めるのはいいんだろうか?という気もしますよね。でもQ Collarの安全性を数年間検証してきたMyersさんはこう言います。「ホースをつまむことで脳の血液量が増えます。これは、寝ているときの生理機能を真似ているんです」。

それで実際の効果はというと、今回発表された2つの論文でしっかりと示されています。論文のうち1つはホッケー選手で、もう1つは高校のアメフト選手で、ヘルメットに付けたセンサーで頭部への衝撃をモニタしていました。選手たちはシーズンの前後に、MRIの1種である拡散テンソル撮像法の検査を受け、脳の白質への損傷のマーカーを調査されました。するとQ Collarを装着していない選手ではシーズン後に脳の白質が変化していたのに対し、Q Collarを装着した選手では変化がありませんでした

Q Collarを発売するには米国食品医薬品局(FDA)の認可が必要で、それにはもっと検証が必要です。でも彼らの研究成果が世に出れば、スポーツ選手を守れるだけではなく、車のチャイルドシートやシートベルトのデザインにも反映されていくかもしれません。「これはパラダイムシフトだと思います」とMyerさんは言います。「スポーツを超えた、大きな意味があるんです」。

top image by Q30 Innovations

source: British Journal of Sports MedicineFrontiers in Neurology

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文

(miho)