モスクワだけで東京の7倍以上、ロシアのメイカーズスペースはなぜ盛り上がるのか?

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モスクワ・ミニ・メイカーフェア取材した翌日の7月11日、会場で出会ったユニークな活動をしているメイカーズたちに誘われて、モスクワ市内にある2カ所のメイカーズスペースを訪ねる機会に恵まれた。ひとつはUniversitet Mashinostoenii(機械製作大学)内にあるロボット研究所、もうひとつは子ども向けの教育プログラムを提供しているCMITアカデミーである。

ロケット構想図にヘリコプター、大学内のFabLabはとってもミリタリー

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1カ所目はUniversitet Mashinostoenii(機械製作大学)。Электрозаводская(Elektrozavodskaya)駅から徒歩5分の所にある大学だ。大学構内にあるПроектРоботы для бизнеса и развлечений(ビジネスと娯楽のためのロボットプロジェクト)という研究室に勤務しているロボット工学者ドミール・ザイヌラインさんを訪ねた。同大学内にはFabLabもある。

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ドミールさん

「この部屋は、FabLabなんだ」とドミールさんに案内された一室には、モスクワ・ミニ・メイカーフェアにも展示されていた超伝導装置やロケット構想図などが置いてあった。どうやら先日彼らは同じ研究をしているグループで出展していたようだ(モスクワ・ミニ・メイカーフェアの取材記事はこちら)。

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ロケットの構想図

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巨大なヘリコプターのコックピット部分などもあった

超伝導装置

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大きなものもつくれるCNC工作機械

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モスクワ・ミニ・メイカーフェアに展示してあった電動二輪車

「見せたいものがあるんだ」と言って彼が手にしたのは、機械部品の一部分。手にとって「動かしてごらん」と言われるままに力を入れて上下に動かそうとしてもビクともしない。「実は、これには仕掛けがあるんだ。電流を流してみるよ」とデモンストレーションをしてくれた。

この動画のように、電流を流せば機械が力をアシストして簡単に上下運動ができるようになる。

次に、「スーパープラスチック」と書かれたケースの中から取り出した白い粒状の素材を、静電気が帯電した棒にくっつけてドライヤーで加熱し始めた。

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スーパープラスチックと記載されている

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このような部品が簡単につくれる

加熱によって柔らかくしてから形をつくり、それを水で冷やすと部品の一部を簡単につくれる。「こうやって簡単にロボットの骨格部分や、それらを覆うガード部分をつくることができるんだ」とドミールさん。これは便利である。

見学をしているうちに、彼らがやっているのは、「ロボティクス+α」だということに気がつく。ただロボットや機械を動かすための研究をしているだけでなく、製作に必要な素材や構造の研究もしている。そのような基礎研究をベースに、今まで以上にスケールの大きなものや、より人にとって便利な乗り物などをつくろうとしているのだ。

そのことについて、ドミールさんは次のように言っていた。「僕はもともと材料工学をやっていた。ケミカルをいじっていてね、いろんな実験をしていたんだけど、もっといろいろなものを動かしたくなってきたんだよ。それで面白いものをつくろうとしているうちにロボットに行き着いてしまって、今はロボットに夢中さ」

この施設の訪問では、ロシアの科学技術の持つ底力を感じた。彼らのアイデアから、さらに面白いロボットがロシアから生まれるのを期待せずにいられない。

子どもたちに無償で教育プログラムを提供するCMITアカデミー

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こちらがЦМИТ Академия(CMITアカデミー)の入り口

2カ所目は「ЦМИТ Академия(CMITアカデミー)」という子ども向けワークショップを中心に行っているメイカーズスペースである。場所はUdaltsova. Str 6th .MoscowメトロのRed Lineの先にあるПроспект Вернадского(英語表記:Prospekt Vernadskogo)駅から徒歩7分くらいにあるビルの1階にその施設はある

驚いたことに、この施設では子ども向けプログラムが無償で受けられる。それができるのは、さまざまなプロジェクトに関わることで資金を調達しているからなのだとか。以下施設のWebサイトから抜粋した概要の日本語訳。

若者の革新的な創造性を育成するCMITアカデミーの主な目的:科学と近代的な技術、研究と技術革新に対する子どもや若者の関心を目覚めさせます。

この施設では、子どもたち同士の簡単な紹介の後、5〜8人のグループで独自の研究や設計を開始し、彼ら自身が自発的に小さな発見をするように促します。我々は彼らに「正解」を教えることはしません。そのかわりに彼ら自身の創造性によって解決策を見つけることを奨励します。

我々が提供するのは、特定の機器や材料のセットだけではありません。デジタルを活用したあらゆる生産活動や製造の方法を学ぶために、複雑かつ創造的なアプローチをする場でもあるのです。

ウェブサイト:academylab.ru
設立日:2013年10月15日

施設の中では、子どもたちが実際につくった作品や設備を見せてもらった。

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レーザーカッターでつくられたゴム鉄砲

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同じくレーザーカッターで作られた「ミニボーリングゲーム」

これは9歳の子どもがつくった作品だ。銃のモックも警察用スターバッジも子どもたちによるもの。自由な発想のもとで子どもたちが伸び伸びとつくることで、思いもよらない発想が出てくるそうだ。失敗はしてもそこから学ぶことが成功よりも価値があると伝えている。その結果、子どもたちは自由にものをつくったりプログラムに参加することで自発的に「自我」を育てることができる。

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切削マシンやCNC工作機械、USA製のレーザーカッターもある

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ロシア製3Dプリンタで出力した制作物。義手もつくっている

壁を見るとモスクワ市内の地図の上にたくさんピンが刺さっていた。「これは何?」と聞くと、モスクワ市内のメイカーズスペースの配置図らしい。赤いピンは現在ある施設、青いピンは小中学校や高校・大学の中にあるFabLabなどの施設、黄色は将来的に施設を設置する予定の場所。

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モスクワだけで約90カ所のメイカーズスペース!

その合計の数だけでも約90カ所はあった。日本だと東京でさえ12カ所くらいである。人口約1233万人のモスクワと約1360万人の東京では人口にそれほど大きな差はない。しかし、なぜこんなにも多くのメイカーズスペースがあるのか? CMITアカデミーのスタッフに聞くと次のように答えてくれた。

このような施設が、いろんな場所にあった方が面白い。たとえば学校の中にあれば学生や教員が中心になって集まれる。小さな施設が郊外に点在すれば、それぞれ小さなコミュニティーをつくりやすい。

ボランティアで大学生に子どもの指導をしてもらうことが多いが、人に対して物事を教えたり伝えることを実践することで、彼らが小さな子どもたちから学ぶことは多い。大人もそうだが、特に子どもに伝える場合には、わかりやすく丁寧にユーモアを交えて伝えることで、教える側がたくさん考える機会に恵まれるんだ。

施設が小さいからこそできることがある。気軽に集まりやすいのと、スタッフが子どもたちに目が行き届きやすく、コミュニティー形成もしやすい。そして、それぞれの施設同士での交流が深まることでよりお互い刺激しあえる。

コミュニティー形成と他コミュニティーとの交流が何よりも大切だ。なぜなら、私たちはものづくりだけをしているのではなく、子どもたちやプロジェクトに関わる人たちの未来を創造しているからだ。このような場所を今後増やすのが目標だ。

ところで、ここにはCMITのマスコット的な存在の猫がいた。机の下に行くなど愛らしい姿でこのアカデミーに来る人々を癒している。

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彼のネームタグはレーザーカッターによる手づくり

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ロシアのものづくり現場2カ所を巡ってみて感じたことは、底力がすごいということだった。ロシア人は逆境にとても強い国民性を持っている。どんな失敗があっても常に前向きに「またやれば良い」という精神があり、非常に大らかで明るいのだ。子どもが失敗したとき、叱るよりも、どうしたら次は上手く行くのか?と一緒に考える姿勢がある。それがロボット製作や子どもたちのアカデミーにも反映されていた。どんな状況でも常に前向きな姿勢こそ研究や教育に最も不可欠なものなのである。それは日本のものづくり現場が学ぶべきことである。

優秀なロシア人技術者たちはアメリカへ渡るそうだ。そして意外だったのはロシア語が話せる日本人技術者はほとんどいないということ。逆もまたしかりで、ロシア人技術者で日本語を使う人もほとんどいない。かろうじて航空宇宙関係では若干名ロシア語から日本語を理解する人がいる程度だ。

それぞれが素晴らしい技術を持つロシアと日本、言葉と情報の壁がまだある中で技術交流を今後活性化させていき、お互いが成長できるような環境づくりをして行けたらより素晴らしいと思った。

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大砲あり、テスラコイルあり。ロシアのメイカーフェアは発想の宝庫だった

(木村正子)