ブラックホールは黒でなく、やがて消える。「ホーキング放射」実証の本命現わる

イスラエル工科大のJeff Steinhauer教授

「ブラックホールは完全に黒ではない。微量の放射をしながら、やがては消える」という、スティーブン・ホーキング博士が1970年代に唱えた奇想天外な仮説が急に実証性を帯びてきました。

イスラエルの物理学チームが、この説を裏付ける本命キター!!な新論文をNature Physicsに発表したのです。えらいこってす。

「ブラックホール」は、重力があまりに強く、ある地点を超えると、もはや光さえも脱出できなくなることから命名されたものです。この後戻りできなくなる理論上の臨界が「事象の水平線(event horizon)」です。しかし、それに異を唱えたのが知の巨人ホーキング博士で、理論上はブラックホールから量子力学的プロセスで粒子は放出されうると論じました。俗に言う「ホーキング放射」ですね。

量子力学の世界では、真空さえも完全に空っぽではなく、そこでは「仮想粒子(virtual particles)」なるものが生成しては消滅しています。その生成消滅がものすごーーーーく短期間に起こるため、既存の物理法則には何の影響も与えません。

ところがそこには例外も。もし仮に1組の仮想粒子がブラックホールの外縁に現れて、うっかり片方がブラックホールに引っ張りこまれたとすると、どうでしょう? ブラックホールからフォトン(光子)が放射され、ブラックホールの質量が減っちまうんです。で、ブラックホールがブラックホールじゃなくなってしまう。ブラックホールがデカければデカいほど、消滅にかかる時間は長くなります。逆に大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で物理学者たちが実現しようとしてる「ミニ・ブラックホール」とかのちっこいやつだと、1秒の何分の1とかで消えちまうんだそうな。

なんとも途方もない理論ですが、このホーキング博士の説は理論物理学、特に「ブラックホール情報パラドックス」にとても大きな影響を与えるものと言われています。

ただ問題は証明ですよね。ブラックホールなんてそんな簡単に作れない。どう証明しろっちゅーねん!というところでみな悶々としていたわけです。

1981年にはブリティッシュコロンビア大学の物理学者Bill Unruh氏が、音でブラックホールを説明する思考実験を提案し、これをとりあえず「dumb hole(馬鹿ホール)」と呼ぶことにしました。フォトン(光子)ではなくフォノン(音量子)のペアの片割れを引きずり込むブラックホール、ね。

Unruh氏が引っ張りだしてきたのはのアナロジーです。滝では、崖で水の流れがどんどん急になり、しまいには水中で音が伝わる速さを超えてしまいます。そうすると、フォノン(音量子)が水から逃げようといくらもがいても急流に攫われて逃げられなくなってしまう、まるでブラックホールそのものではないか、と。

無論、ダムホール(馬鹿ホール)なんてものは自然界には存在しませんけど、Unruh氏は「ぐるぐる回る風呂でもブラックホールに近いものは見れるぞ!」と発表で言いました。水を落とすと表面波ができるが、水位が十分浅くなると、表面波より水が落ちていくスピードの方が速くなってしまう、まさにブラックホールじゃないか、というんですね。いやあ、物理学者ってーやつは風呂の水を落とすときも、そこに壮大なブラックホールを見ているわけですなあ…。

イスラエル工科大のJeff Steinhauer教授の研究室

さて、その発表の最後で、ボース=アインシュタイン凝縮(BEC)というキータームが出てきます。ボース=アインシュタイン凝縮とは物質を超低温にして得られる奇妙な量子状態のこと。学会にはボース=アインシュタイン凝縮で人工的にブラックホールを生成することは可能だと考えた物理学者たちもいました。その状態になると大量の原子の塊が、あたかも1個の原子のように振る舞っちまうんです。で、2009年にルビジウム原子10万個の塊ちゃんを冷却し、約8ミリ秒間だけ超音速状態を生み出すことに成功したのが、今回論文を発表したイスラエル工科大のJeff Steinhauer教授(写真)の研究室です。

成果は、ホーキング博士の予言の実証性に道を開くものとして大きな注目を浴びました。人工ブラックホールでは、ホーキング放射と同量の放射と、もつれ状態のフォノンが確認されなければならないわけですが、同教授は5年後の2014年、音のブラックホールの実験でその現象の一端らしきものを初めて確認したことも明らかにしました。

ただ、その時はレーザービームでこしらえた穴で音のシグナルが増幅される現象を確認したというだけで、決定打と呼ぶには乏しく、「そんなシグナル、ただの装置のノイズなんじゃないの?」と言われてしまえば、その可能性も否定し切れない面も…。

でも今月の新論文では、ラボで実験装置を改良したので、もつれ状態のフォノンが音のブラックホールから放射されている現象を今度こそしっかり確認できた!トリガーとかしなくてもボース=アインシュタイン凝縮自体から放射されてたぞ!と教授も自信たっぷりなんです。

もし本当なら、これは量子物理学界を揺るがす大発見となります。なんたって、あのブラックホール情報パラドックス決着の鍵を握る部分だし、いつか量子力学と一般相対性理論を合体する統一理論の登場に道筋をつけることも考えられます。

ホーキング博士が提唱して40余年。ノーベル賞に光が見えてきました。

image top: Institute for Quantum Computing, middle: Nitzan Zohar/Technion

source: Nature Physics via Physics Buzz

Jennifer Ouellette - Gizmodo US[原文

(satomi)