モノがつながっていくのが当たり前の時代にIoTはどう変わるべきか。国内外の最新トレンドを通してわかった課題

モノがつながっていくのが当たり前の時代にIoTはどう変わるべきか。国内外の最新トレンドを通してわかった課題 1

「モノのインターネット」は通り過ぎた。

IoT=Internet of Thingsという言葉だけでなく、ルンバをはじめとするスマート家電やApple Watchなどのスマートウォッチ、家庭をデジタル制御したスマートホームなどなど、製品も聞き馴染むことが増えてきた今日この頃。ギズモードでもIoTに関する話題を扱ってきました。さまざまな製品が生み出され、一般化していくことで当然IoTに参入する企業も増えてきました。

そうしたなか、9月14日にNTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)が主催する「生活×IoT ピッチ+マッチングイベント」が開催。生活とIoTというテーマのもと、IoT製品開発や、プラットフォームの構築を推し進める企業が主役となって、ベンチャーと大手企業のマッチングを目的とするイベントです。NDVは、スタートアップ企業とNTTグループのリソースをつなぐ場として、さらに、それぞれが組み合わさったところで新しいモノをプロデュースしていく場として今回のイベントを位置付けています。そこでフォーカスしたのが、「生活×IoT」というわけです。

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今回のイベントでは改めてIoTについて考えるというIoT再考の側面もあり、「国内外のIoT最新トレンド」としてトークセッションが開かれました。

スピーカーはギズモード・ジャパンを運営する株式会社メディアジーンのグループ会社である株式会社インフォバーンCVOの小林弘人。そして、IoTプロデュースやコンサルティングを行なっている株式会社CAMI&Co.代表取締役社長の神谷雅史さんのおふたり。セッションのモデレーターを務めたのは、ギズモード・ジャパン編集長の松葉信彦です。

海外のIoT事情

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最初のスピーカーは小林。自身が訪れたドイツ、ベルリンでの最新の動向を見ていきつつ、考察をされました。

ドイツ政府といえば「インダストリー 4.0」を提唱していることもあり、工業や製造業のデジタル化を進めています。ファブリケーションやデジタル産業が活発なことは知られています。その中でもIoTスタートアップ企業の盛り上がりは注目していると語ります。英ガーディアン紙の報道を引用し、「20分に一社、会社が生まれている」ほどだそうで、ヨーロッパの中でも特に成長著しいそうです。

代表なものとしては、SoundCloudがあげられます。音楽共有プラットフォームとして現在は世界的に知られるSoundCloudはベルリンで生まれました。このようなウェブサービスの企業、そしてIoT企業がベルリンのいたるところで生まれているのです。

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こちらは、ベルリンのテックキャンパス「Factory Berlin」。2014年にGoogleの出資によって建てられました。Googleが出資したのか!と少し驚きますが、シリコンバレーもベルリンには注目しているといいます。Factoryには、TwitterやUberのような企業も入っていて、なおかつベルリンのスタートアップ企業も同居しています。キャンパス内では、ノウハウを交換したり、エコシステムを構築していこう、という取り組みが常になされているのです。

さらに面白いのは、シードスタートアップへのサポート。いろいろな企業にノウハウを教え、新たな事業をどんどんと加速させようというプログラムもあるようです。

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続いては、ヨーロッパのSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)ともいわれるテクノロジーフェスティバル「Tech Open Air」の話へ。EU圏では一番大きなテクノロジーフェスティバルとして知られていて、アメリカからも100人近くのスピーカーが登壇されるそう。こうした催しもベルリンの盛り上がりを示していますね。

さらに、かつてはビール工場だった、500平方メートルもの巨大なスペースが今では「Fab Lab Berlin」としてテックの発信地になっているという話に。今ではファブラボが入っていて、小林が訪れたときにはバックエンドのオフィスでVRのIoTを作っていたりという光景があったそう。さらには、古びた建物に”Open Innovation Space”と書かれた場所もあり、その中でアイデアソンが行なわれていました。そのアイデアソンで出たアイデアを持って行き、すぐに隣接しているファブラボでハッカソンを行ない、それらを形作ってプロトタイピングしてしまおう、ということもあるそうなのです。

こうしたフローは日本にはなかなかないものなので、ベルリンの現在を示すエピソードとして印象的です。改めて、「20分に一社、会社が生まれている」というベルリンの盛り上がりに納得できます。

ベルリンのスタートアップ、IoT産業の成長を背景に、「生活×IoT」ではどうだろうか、と小林は、3つの事例を挙げています。

ひとつ目はKIWI。こちらは、ベルリンにあるコワークスペース「AHOY!」のインキュベーション施設に入っているIoTベンチャー企業で、スマートキーを開発しています。プロダクトの「KIWI KI」は、とてもシンプルなソリューションで、たくさんの鍵を持ち歩かなくてもいいようにチップさえもっていればあらゆる扉を解除できるというもの。もちろん解除する扉のほうにも電子解除の仕組みをつけるのですが、いままでの不便さを解決しましょうと提示しているのです。

現在のところ、B2B、つまり対企業がメインで、ビルの清掃業などたくさんの鍵を持たなければならない人たち向けのソリューションとして展開しているそうです。

ふたつ目は、Bonaverdeという会社。こちらはデスクトップ型のコーヒーメーカーを開発しています。こちらはなかなか特殊で、この一台で焙煎もできるのだそうです。さらに面白いのが、コーヒーフィルターをスキャンすると、その豆に適した焙煎方法がインプットされるのです。時間や温度などが設定でき、さらに細かいパラメータも自分の好みにカスタマイズが可能とのこと。

最後はアメリカから。ライドシェアサービスのLyftの創業者が開発しているJUNEです。「intelligent oven」という名前だけあって、とても賢いスマートオーブンなのです。JUNEに素材を入れると、それが何なのか理解して、その素材にあった調理を自動でしてくれるというもの。というのも、内部にコンピュータがあるためネットに接続してレシピをダウンロード、そしてその調理を施すのです。内蔵のカメラから焼き上げる間をスマホを通して見られたり、なんてことも可能。「素材を入れるだけ」というスマート化が素晴らしいです。

小林はプレゼンテーションの終わりに、今後の見立てとして、「将来的にブロックチェーンの技術とIoTをうまく融合させたようなハードウェアが出てくるのではないか」としています。ブロックチェーンがあれば、スマートコントラクトを使うことにより、すぐに「自分が誰か」という認証ができます。並列分散処理が基準となりネットワーキングがどんどん非中心化を推し進めると予想し、そうなったときに大手企業が脅威に感じるか、あるいはチャンスと捉えるか...という風になっていくだろうと語っています。

国内IoTの実情

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スピーカーは神谷さんに変わり、テーマは国内のIoTへ。事例を挙げながら、国内のIoTの現状や課題を語っていただきました。

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感銘を受けた事例として挙げられたのは、東京女子医科大学のスマート治療室「Hyper SCOT」。ロボットアームで手術を行ない、さらに医療機器のネットワーキングやデータ分析を行ないます。手術をしながらリアルタイムでデータを見たり、あるいはデータによって手術のやり方を変えたり、という未来型の手術室のプロトタイプです。

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次に現状について。事例で挙げられたものもそうですが、現段階は「プロトタイプ」だといいます。たしかに、最近国内でも盛り上がりをみせているように感じるIoTですが、現状はまだプロトタイプなのです。総務省のデータを照らし合わせつつ、「国内でIoTを導入している企業でも、約半数は限定的にしか導入していない」と語ります。導入率でみると、大きな差があり、アメリカが2015年にいる地点に、日本は2020年にようやく届くとの予想です。

それはなぜか、というと大きな理由が2つあり、そもそも「IoTに関する理解・知識が少ない」ことと、「IoTを導入するメリットがわからない」こと。神谷さん自身、コンサルティングをやる中で、現場の若い人たちは理解があっても、ひとたび役員レベルのベテランの方が、よくわからない、と一蹴されてしまうということもあるそうです。

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こうした現状で、これからIoTを推進していくためには、「IoTの異業種連携」と「ビジネスプロデュース」が必要だと、神谷さんは提案しています(知識をつける、理解する、は大前提で)。IoTを理解していたとしても、ビジネスとしてプロデュースする立場の人間がいなければ成長していかない、といい、さらにプロデューサーを担う人はとても少ないのだそうです。

一方で、日本のIoTインフラは実はとても整備されているとのことで、それでも進展していないのは...これも実際にビジネスとして成立させるための人材がいないということなのです。

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では、IoTプロデューサーがいることでどのように変わるのでしょうか。これまで、IoTというものは、エンジニアベースでした。ただ、エンジニアが中心になることで、ビジネス戦略が苦手であったり、コミュニケーションが難しい(エンジニアの話す言語の違いがあるから)、ハードウェア制作が難しい、といった課題が出てくるのです。こうした問題を解決するかもしれないのが、プロデューサーということです。

IoTに「企画者視点」、「総合的な視点」を持てる人材が入ることで、IoTビジネスの全体を見回すことができるのだといいます。そうした視点に特化した人間がいることでビジネスとして成立させ、進展が望めるということです。

しかし、と神谷さん。IoTプロデューサーとして必要スキルはどんなものかというと、「ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク、マネジメント、そのすべてができる人」といい、実際なかなかいないのだそう。まあ、そうですよね...。

それを見据えて、IoTに関する人材育成をしていくことが現段階でのソリューションかもしれないのです。2020年にIT教育が義務化されるといわれていますが、そのときにIoT教育も必要かもしれませんね。

IoTはどう変わる?

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おふたりのプレゼンが終わり、松葉からの質問に。ガートナージャパン株式会社から出されている「先進テクノロジのハイプ・サイクル」というグラフが出されます。こちらは先進テクノロジーが出始める「黎明期」、多くの宣伝が打たれ盛り上がりが頂点に達する「期待のピーク期」、そしてその期待がなくなっていく「幻滅期」と分かれており、その後に普及していくという流れを示しています。

先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015」では、IoTの和製語である「モノのインターネット」キーワードが入っています。しかし、1年後、今年の「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2016」では、「モノのインターネット」はなくなっています。その代わりに、「IoTプラットフォーム」「ブロックチェーン」「コネクテッドホーム」「仮想パーソナルアシスタント」といったIoTにまつわるキーワードが期待のピーク周辺に位置しています。

「モノのインターネット」がなくなり、「IoTプラットフォーム」「コネクテッドホーム」などの言葉が表われた、こうした変化をみてどう思うか?

という質問がおふたりに投げられました。

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神谷さん:IoTが消えた理由はぼくにもわかりません。(笑)

ただ、みていると、IoT自体が漠然としていたのかな、と感じます。私も、「IoTってなに」と聞かれると、簡単にいうと今までネットワークに繋がってなかったものが繋がるんだよ、なんて答えていましたし。例えばスマートウォッチ、Apple Watchが最たる例だという風に。今までアナログだったものが、インターネットにつながるとすごいんだ、という感じで。それくらい漠然としていました。

そこからようやく具体的になってきたということかな、と思いますね。じゃあ、「どこまでの範囲がIoTなの」、「どこまでがIoTか」、なんて話になると、どこまでなんだろう、って。アメリカの実情とかをみても、アメリカのほうでもIoTを全面に押し出すより、それこそ「コネクテッドホーム」みたいなところから押し出していたり...。

まさに、「IoT」という漠然とした言葉から、徐々に具体化してきたんじゃないかなと思いますね。この変化はポジティブな意味を持っているんじゃないかな。「ブロックチェーン」や「仮想パーソナルアシスタント」といったことも実際は裏にIoTが潜んでいて...それぞれが具体化してきたといういい傾向かな、と思いますね。

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小林:基本的には私も同意見です。

特にIoTの解釈に関しては広くて、割と英語圏のサイトだとUberなんかもIoTに入っていたりするんですよね。考えてみれば、アプリで車を配車して、モノが動いてくれるというモノのインターネットと広義の意味ではいえる。

最初聞いたときは、ArduinoとかRaspberry PiでプロトタイピングしていなければIoTじゃない、みたいなのもあったんですけど、全然そんなことはない。広義に解釈していくと、モノがつながっていくなんて当たり前じゃん、という。

例えば車のワイパーの中にチップが入っていて、日に何回動いたとかデータをどんどんとビッグデータとして取っていくようなことが起きる。より広義な意味になっていくし、より透明になっていくな、と思いますね。

あと、こういうハイプ・サイクルでいえば、日本でインターネットのユーザーがまだ350万人しかいないときに、Wiredを立ち上げて、そのときからVRってあったんですよね。見れたものじゃなかったんです。ただ、ずっと残っていて、必ずサイクルがある。脈々と掘っている人がいるんですよね。一回死んでしまっても、また復活して別のかたち、別の会社でやっていく、そういったサイクルがあるんですよね。ハイプ・サイクルというものも、叩かれて、谷に落ちたりするんですよね。YouTubeだって、Googleだってそうでした。そういう時を経て、根性というかしぶとくやっていくしかないんじゃないかな、と思いますよね。

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小林と神谷さんのお話、海外と国内と、とても対照的で、IoTについていろいろな現在があるんだな、と思いましたね。小林のいう「ブロックチェーンとIoT」も気になりますし、神谷さんのいう「IoTプロデューサー」も気になります。IoTが出始めたときとは違い、私たちはすでにモノがネットワークにつながっていることすら当然となってきています。そこからどのようなプロダクトが生まれ、プラットフォームはどのように変わっていくのか楽しみだな、とイベントを通して思いました。

これからのIoTが進展していくためにいろいろなことが必要とされます。進展を望む取り組みの一環としてこの「生活×IoT ピッチ+マッチングイベント」が開催されました。イベント後半の、IoT企業によるピッチコンテストやマッチングの様子は兄弟メディアのライフハッカー[日本版]でご覧いただけます。こちらもぜひ。

source: NTTドコモ・ベンチャーズ, ガートナー株式会社, The Guardian, Factory Berlin, Tech Open Air, KIWI, Bonaverde, JUNE

(横山浩暉)