脳の命令をワイヤレスで脚に送るデバイスによって、下半身不随のサルが再び歩行可能に!

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素晴らしいテクノロジー! でも倫理的な問題も...。

スイス連邦工科大学のGregoire Courtine教授をはじめとする国際的な研究グループは、脊髄の損傷部分をバイパスして脳と脊髄をワイヤレスでつなぐ、神経機能代替デバイスNatureで発表しました。この「脳-脊髄インターフェイス」と呼ばれるデバイスによって、右足に麻痺を抱える2匹のアカゲザルが歩行できるようになったのです。

以前、Courtine教授は「e-Dura」というデバイスを開発し、脊髄損傷をして歩けなくなったラットの歩行機能を回復させることに成功しました。「e-Dura」は脊髄に埋め込むデバイスでしたが、今回の研究では、脳の命令をワイヤレスで伝達させるという異なるアプローチを取っています。また、サルに対して神経機能代替デバイスを適用することで、歩行機能を回復させるのは初めての試みです。研究チームによると、人間への応用も考えているそうです。

麻痺は、運動皮質(運動に関与する脳の一部分)から発せられる脳の信号が、脊髄損傷によって遮断されることによって起きます。残念ながら、脊髄の神経は自然回復することはありません。また、確実な治療法もいまだ存在しません。世界保健機関(WHO)は、脊髄損傷に苦しむ人が世界中で25~50万人近くいると推計しています。

「脳-脊髄インターフェイス」は脳と脊髄との間を流れる信号を、ワイヤレス技術を使ってリアルタイムで送受信します。サルの脳に埋め込まれたデバイスは、運動皮質から発生した信号を正確に解読し、その情報を脊髄損傷部分の直下に取り付けられたデバイスに送ります。情報を受信したデバイスは、情報を元にして正確な場所に電気信号を送り、脚の筋肉を刺激します。このデバイスで、サルは脊髄損傷から6日後には歩けるようになりました。

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実験では、サルはワイヤーや装置に邪魔されることなく自由に、歩行することができていました。また、装置を付けた直後から効果が見られ、3ヶ月後には完全に回復しています。

共同研究者のErwan Bezard氏はこう述べています。

サルは「脳-脊髄インターフェイス」を付けてすぐに歩けるようになりました。つまり、理学療法やトレーニングは必要なかったのです。

研究者らは、深刻な脊髄損傷に対してもこのデバイスが適用できるようになるだろうと考えています。「Nature News and Views」にこの研究について記事を書いたニューカッスル大学の研究者、Andrew Jackson氏によると、化学的・電気的刺激など他の技術と組み合わせることで、より重大な損傷でも適用可能になるかもしれないと述べています。

面白いことに、この新しいシステムは脳の柔軟性を向上させることも可能になるかもしれません。2つのニューロンが同時に活性化したときに、そのニューロン間につながりが生まれます。このデバイスによって、運動皮質を拡張させることができ、リハビリテーションにも役立つ可能性があります。

はじめのほうで触れましたが、研究者らは、今回のシステムと似たようなものを人間に適用できるかもしれない、と言っています。しかし、バランスや障害物回避など、移動に関する問題についてもっと研究が必要とのことです。ただ、「脳-脊髄インターフェイス」で使われている多くのコンポーネントは、すでに人間に適用できるので、うまく進めば数年後には人間を対象とした研究も始まるかもしれません。

このプロジェクトの主神経外科医であるJocelyne Blochは次のように述べています。

初めてです! 「脳-脊髄インターフェイス」によって、麻痺を抱えた患者さんが再び歩ける姿を想像できるなんて。

ここでひとつ大事なことがあります。それは、Courtine教授らは故意に脊髄にダメージを与え、脚の麻痺を起こしたということです。この種の動物実験に対する公的な圧力を避けるため、研究者らは中国で実験を行なっていました。

Jackson氏いわく、

脳科学の実験でサルを使用することに対して、メディアからは疑問視されています。また、動物愛護団体の活動によって、欧米ではこういった実験に対する規制が厳しくなっています。研究者らはヨーロッパを拠点とし、EUの規制に従っているものの、実験そのものは中国で行われました。

Courtine教授は過去に、海外でこのような実験を行うことに関する問題について述べています。他の研究者も家から遠く離れた場所で実験することに対して、時間や体力、リソースが足りていません。それゆえ、強まっていく規制によって、欧米でサルを使った十分な研究が出来なくなると、こうした研究の発展が遅れる危険性があります。

その一方で、霊長類に関する神経科学の拠点がアジアに移っていくにつれ、研究者は世界規模で、技術の洗練と実験動物に関する福祉の向上に、力を注いでいくことが重要になってくるでしょう。

より倫理的基準をアジアで作っていく必要があるとJackson氏が指摘しているのは正しいです。しかし、サルを用いた実験モデルそのものも考え直すべきかもしれません。

動物実験に対する規制がゆるい国へと逃げるのではなく、コンピュータモデルを用いたり、被験者になってくれる方を募集するといった、理論やシステムを検証する別の方法を模索したほうが良いでしょう。そうすれば、麻痺を抱えた方がリスクなくこうした研究に参加する機会を得ることができるかもしれません。

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image by Capogrosso et al., 2016/Nature/Andrew Liszewski and EPEL
source: Nature

George Dvorsky - Gizmodo US[原文
(tmyk)