トランプ政権下で、米国の医療はどうなっちゃうの?

トランプ政権下で、米国の医療はどうなっちゃうの?

オバマケアの夢は消え、妊娠中絶への風当たりは強まり、薬価高騰はどうなることか…。

ドナルド・トランプ大統領誕生、なんとも衝撃的でしたね。しばらく放心状態だった人も多いことと思いますが、決まっちゃったものは変えられません。そろそろ何がどうなっていきそうか、具体的に確認していきましょう。

今回の米国大統領選挙期間中、ドナルド・トランプが猛攻撃していたのが、バラク・オバマ大統領による医療保険制度改革、通称「オバマケア」でした。また妊娠中絶に関しても、現在の法制度とは逆の姿勢を示しています。また大統領選挙と同時に、マリファナ合法化などの法案についていくつかの州で住民投票が行なわれていました。そのあたりをまとめてお伝えしていきます。

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オバマケアの行方

まず今風前の灯火となっているのが、オバマケアです。彼は「大統領に就任したらその日に、オバマケアの即時廃止を議会に申請する」と言い続けてきました。たしかに今はトランプの属する共和党が上院・下院議会ともに過半数を握っているので、現行法の廃止もすんなりいってしまいそうです。上院で共和党トップを務めるミッチ・マコーネル氏と下院議長のポール・ライアン氏も、「オバマケア廃止が最優先事項」だと口をそろえています

ただしトランプは11月11日にオバマ大統領と直接会談し、「やっぱりオバマケア、全廃はしないかも」と柔軟な姿勢を見せ始めました。Wall Street Journalによれば、トランプはオバマ大統領からオバマケアの維持を求められ、特に既往症がある人の保険加入をサポートする条項などについて「すごく良いと思う(I like those very much)」とコメント。その他の部分についても、「オバマ大統領に敬意を表し、彼の提案を検討する」と言っています。

それにそもそも、オバマケアを廃止した後具体的に何をどうするのか、がずっと曖昧でした。今年6月、共和党による医療制度改革案が発表されたんですが、その改革案も詳細が詰めきれていないと言われ、共和党内でも意見が分かれています。それに、オバマケアのおかげで医療保険に加入できた人たち2200万人がいきなり保険から外されるとしたら、かなりの抵抗があるはずです。

特に女性には不安

トランプの医療政策で特に影響を受けそうなのは、女性たちです。トランプは妊娠人工中絶に関して「プロ・ライフ」(生命優先=中絶反対)の立場を取っていて、中絶する女性は罰せられるべきだとまで言っています。単に大げさに言ってみただけじゃなく、実際以下のような具体的なアクションも掲げています。

・米国最高裁判所にプロ・ライフの裁判官を任命すること。

・妊娠後期の中絶を米国全体で禁止する「Pain-Capable Unborn Child Protection Act」(痛みを感じられる胎児保護法)に署名すること。

・性教育や性病治療などとともに中絶手術を行っているNPO・Planned Parenthoodへの政府からの資金提供を停止すること。またその分の資金を、女性向けの総合的医療施設に回すこと。

・中絶への公的資金支援を禁じる「ハイド修正条項(Hyde Amendment)」を、恒久法にすること。

…と、いろんな側面から中絶しにくい状況を作っていこうとしてるようです。さらに、オバマケアでは経口避妊薬(ピル)などいろんな避妊方法に保険が適用されて無料になっていたのですが、オバマケアが廃止されればそれも負担になります。New York Magazineでは、「女性は今のうちに、数年間の避妊効果があるIUD(子宮内避妊用具)を装着すべき」と呼びかけているくらいです。

しかも11月11日のWall Street Journalの中で、トランプは副大統領に選ばれたマイク・ペンス氏が、政権運営に「大きな役割を果たす」と語り、特に「医療問題に深く関わってほしい」と明言しました。ペンス氏はトランプ以上に中絶反対派で、これまでにレイプの結果の妊娠であっても中絶を禁止すべきと主張するなど、きわめて保守的な政策を取ってきました。その彼が医療問題全体の舵を取るということは、女性にとって(というか女性だけに限らないんですが)大きな脅威となりそうです。

マリファナ、安楽死合法化が広がり

トランプ政権下で、米国の医療はどうなっちゃうの?2

Image: Wikimedia/Chmee2

今回の大統領選挙のかたわらで、いくつかのテーマで住民投票が開かれていました。特にマリファナ(大麻)合法化に関しては、大きな一歩がありました。カリフォルニア、マサチューセッツ、ネバダ、メーンの4州で、嗜好品としてのマリファナ合法化が賛成多数、フロリダ、ノースダコタ、アーカンソーの3州では、医療用マリファナ合法化が賛成多数となりました。嗜好用マリファナはコロラド州、ワシントン州などでも合法化されていて、今回の住民投票の結果によって合計8つの州+首都ワシントンではマリファナを吸ってもいいことになります。人口でいうと、米国人の20%に相当します。

ただ、トランプはマリファナ合法化に対してオープンな姿勢を見せていましたが、それが今後も維持されるかどうかはよくわかりません。オバマ政権はマリファナに関して、州がOKとしているところでは国は原則手出ししないことにしていました。でもトランプ政権で要職に就くと噂されるニュージャージー州知事のクリス・クリスティ氏や元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏は、マリファナ合法化に否定的で、彼らの動向に左右される部分もありそうです。

一方コロラド州では、末期患者が自ら死を選ぶ権利が認められました。これで、医師による自殺の支援が許可される州は米国で6つ目になります。余命6カ月未満となった人は、自殺を希望する文書を作り、さらに口頭で2回その希望を確認することで、自殺のための薬を処方されます。他に安楽死が合法になっている州は、ワシントン州、バーモント州、モンタナ州、カリフォルニア州、オレゴン州です。

またフロリダ州では、伝染病を媒介する蚊を退治すべく、遺伝子操作した蚊を放つことについて住民投票が行われ、賛成多数となりました。これでジカ熱とかデング熱、チクングニア熱などの伝播を防げると期待できますが、遺伝子操作した生き物を野に放って大丈夫なのかとか、本当に効果があるのかとかはまだ不安視されています。

他にも課題は山積

もうひとつ最近の医療関係で問題になっているのは、処方薬の価格がどんどん上がっていることです。急性アレルギー反応の治療薬エピペンしかり、エイズ治療薬の「Daraprim」しかりです。トランプはこれまで、この点ではヒラリーと同様に、公的医療保険を通じて処方される薬の価格を政府と製薬会社が直接交渉できるようにし、価格を引き下げると言ってきました。また彼は医療全体で価格の透明性を高める外国の安い薬を買えるようにするとも言っていました。たまには良いことも言ってたんですね。

ただこの問題について、トランプの姿勢はヒラリーほど強硬じゃなかったので、選挙戦の結果を受けて製薬会社の株価が上昇しています。それから大統領選挙の日、薬の価格を抑えるための法案の住民投票がカリフォルニア州で行なわれていたんですが、結果はなんと反対多数でした。ちなみに、この住民投票のために製薬会社が反対キャンペーンに投じた金額は1億1000万ドル(約120億円)近いと言われています。トランプが引き続き薬価引き下げに前向きなら、こんな製薬会社に対して今こそ剛腕を発揮してほしいところです。

最後に、トランプの公約といえばメキシコとの間の壁ですが、あれは違法薬物対策でもあるそうです。彼に言わせれば、米国に麻薬とか犯罪を持ち込んでいるのはメキシコ人だ、って話なので…。

マイケル・ムーア監督が『シッコ SiCKO』で指摘したように、米国の医療はただでさえ問題山積です。トランプ政権下で、これ以上悪くならないことを祈るばかりです。

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Top image: JStone / Shutterstock.com
source: Globe and Mail, UPI, Scientific American, CNBCSTAT, Chicago Business, DonaldJTrump, Mic, NPR, Vox, Susan B. Anthony List, Obamacarefacts, New York Magazine, ATTN, Wall Street Journal, Slate

George Dvorsky - Gizmodo US[原文(12)]
(福田ミホ)