CERNで反物質の光スペクトルを観測。それって何がすごいの?

CERNで反物質の光スペクトルを観測。それって何がすごいの?

謎に包まれた反物質の姿が明らかになります。

欧州原子核研究機構(CERN)で実験を行なう研究チームALPHA(The Antihydrogen Laser Physics Apparatus)は、反水素の光の放出を詳細に観察することに成功したと発表しました。研究はNatureに掲載されています。

「反物質」ってなに?

CERNで反物質の光スペクトルを観測。それって何がすごいの?2

反水素と水素 / image: NSF

今回のALPHAチームが実験に使ったのは反水素です。

普通の水素原子は、陽子(電荷プラス)の周りを電子(電荷マイナス)が回っています。反水素は、反陽子(電荷がマイナスなんだけど陽子)の周りを陽電子(電荷がプラスだけど陽子。なんで反電子って呼ばれないんだろう?)が回っている、普通の水素と中身の電荷が逆の原子です。

すべての粒子には、反粒子が存在しています。質量やスピンは同じで、電荷の正負が反対。粒子と反粒子が衝突すると膨大なエネルギーを放って消えます。これが対消滅と呼ばれるやつです。

反対のことをすると、つまりエネルギーの高い粒子どうしをぶつけると、粒子と反粒子が得られます(対生成)。CERNにあるLHCなど巨大な加速器は、この方法で加速した陽子と陽子をぶつけて反陽子を作っています。なぜ作らなきゃいけないかというと、反物質なるものは地球にはほぼ存在してないからです。地球に振ってくる宇宙線のなかには少しだけ混じっているようですが。

わかったこと:反物質と物質は鏡の関係

以下はCERNによる研究の紹介ビデオ。

ざっくり言うと、ALPHAチームは反水素をつくって閉じ込めました。1回の実験につき14個ゲットして、レーザーを照射。反水素原子はレーザーを吸収し、特定の色(波長)の光子を吐き出しました。それが普通の水素原子が放出するだろうもののひとつと同じだったというわけです。

反物質と物質が同じ光スペクトルを放出する」ことは、アインシュタインの特殊相対性理論や標準理論などの物理学の重要な理論から予想されていたんですが、これを今回初めて詳細に観測することができたということなんです。

アメリカはウィスコンシン州、マーケット大学の研究助教授でALPHAチームのTim Tharpさんは、この発見が非常に重要なものだと話しています。「長いあいだ、反物質は物質の“反射”だと言われてきました。それが実際に正しいと言える証拠を、私たちは集めているのです」

まだ水素の光スペクトルの全範囲を反水素のものと比較できたわけではありませんが、反物質が“鏡に写った”物質(同じように見えるけれども違っている)だということになれば、宇宙最大級ミステリーのひとつになるでしょう。

何かいいことある?

そもそも、どうしてこの発見がこんなに嬉しいんでしょう? 科学者たちはどうして反物質の振る舞いを必死で観察しようとするのでしょうか?

その答えは宇宙の始まりとされるビッグバンにまで遡ります。ビッグバンが起こったとき、宇宙には物質と反物質が同じ数だけあったとされますが、今では物質よりも反物質がかなり少ないのです。反物質だけが消滅してしまったというのが有力な説ですが、もし物質と反物質がまったく同じ性質ならどうして片方だけ減ってしまったんでしょうか。

デンマークのオーフス大学の物理学者Jeffrey HangstさんはNPRの取材に対して「何か小さな非対称性があって、それが物質を生き残らせたんです。現時点ではそれが何だか突き止められてはいません」と説明しています。つまり、物質と反物質には何か隠された違いがあるのではないか?と科学者たちはにらんでいるようですね。

これがわかれば、どうして地球や人間が今ここに存在しているのかを解き明かすことにもつながります。そして宇宙のどこかへ消えてしまった鏡の向こうの兄弟たちのことも。

もっと読む:
ブラックホールは黒でなく、やがて消える。「ホーキング放射」実証の本命現わる
ノーベル化学賞は「世界最小のマシン」を開発した科学者3人へ

image by maximmmmum / Shutterstock.com
source: ALPHA, Nature, NPR
参考: 早野 龍五 >> 反水素原子, NSF

Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文
(斎藤真琴)

あわせて読みたい

    powered by CXENSE