将来の犯罪者は3歳では決まらない

将来の犯罪者は3歳では決まらない

12月の始め、子どもが犯罪者になるかどうかを予想できるという研究が発表されました。研究者たちは神経学的検査に基づいて、3歳児の脳の健康度と、成人になってから犯罪を犯す確率に関連性を見出したのです。その結果、脳の健康度が低い子どもは、80%の確率で犯罪者になっていたことがわかりました。

この研究結果は世界的大反響を呼び起こし、私たちがついに『マイノリティー・リポート』のように、45分の脳検査だけで犯罪者扱いされる未来に来たのだと猛反発が起きました。

ただ唯一の問題は、研究でわかったのはそういうことではなかったのです。

今回ニュースになったのは「Dunedin Study」というニュージーランドで始まった大掛かりな研究で、1970年代に生まれた1,000人の生涯を追い続けています。この学術調査は過去40年で多くの発見を生み出しました。例えば、なぜ人は歳のとり方が違うのか何が麻薬中毒を引き起こすのか、そして幼少期の体験が成人してからの生活にどう影響するのか、といったものです。直近の調査は人口のうちの小さいグループが生活保護受給者の大半を占めているという仮説の正否を調べるもので、これにより早期の支援サービスが必要なグループを特定する方法を模索していたのです。

研究者たちが参加者1,000人の数十年分の健康記録や政府記録を調べた結果、わずか20%のグループが、全体の経済的な負担の80%の原因となっていることがわかりました。さらにこの小さなグループが、全体の犯罪件数の81%社会福祉給付の66%処方薬の78%、そして肥満と判断される人口の40%を占めていました。また研究者たちは、1970年代に全員が3歳のときに受けた小児検診の記録を調べ、言語理解、言語発達、運動技能、社会的行動を神経学的に調べたテスト結果を比較したところ、スコアが低いほど「危険性の高い」グループに入る可能性が高いことを発見しました。実際にスコアだけを見てどちらのグループに属するかを当ててみると、研究者達は80%の確率で正解したそうです。

研究主任のRichie Poulton氏が米Gizmodoに語ったところによると、この研究の目的は教育機関や保健機関が、より支援を必要としている層に的確にサービスを提供できるようにすることだそうです。「教育や予防プログラムは十分にあるのに、それを最も必要としている人々に届かないことも頻繁にあるのです」とPoulton氏。

しかしオンラインでは、この研究の内容は歪められ、「将来の犯罪者は3歳で決まる」というクリック稼ぎの扇動的な見出しに変えられてしまいました。Poulton氏は、こういったジョージ・オーウェル的な恐怖による扇動で、研究の真の目的から意識が逸れてしまうことが「残念だ」と語っています。

ガセニュースは研究の進退にも影響する

研究グループは、この研究結果がそういう形で解釈される可能性を意識していました。「大きな経済的負担となる人口の区分を幼少時代から予測する方法」というあまりバズらなそうな題名でNature Human Behaviorに掲載された論文において、研究者は「この研究結果を悪用し、人を非難したり差別する可能性があることは認識している」としながらも、「幼少時代の不利な環境からくる経済的な負担を理由に人を責めることには、何のメリットも無い」と断言しました。

現在、アメリカでの大統領選などもあって、ネットにはびこるガセニュースは最も熱いトピックのひとつですが、科学の世界ではもっと以前から問題になっていました。研究結果が捻じ曲げられたり、簡略化されすぎた末に事実と異なってしまったり。見出しがリツイートされたりして拡散されるたびに、さらに事実からかけ離れてしまうのです。

時には、完全な空想が事実として大衆の意識に刷り込まれてしまうこともあります。毎年British Medical Journalはクリスマス前にジョーク論文を掲載することで有名なのですが、それが数年後に事実として引用されてしまいました。今年の初め、フロリダキーズで遺伝子改変した蚊を使って病気と戦おうとするOxitecについて報じられた際、計画に携わる科学者のDerric Nimmo氏は、キーズの住宅街を一軒一軒まわって事実を説き、噂の流布と戦わねばなりませんでした。その噂とは、遺伝子改変された蚊にさされると子どもが不妊症になるとか、Oxitecが実はジカ熱を広めているといったことです。

これが重大な問題なのは、科学の進歩には技術の進歩だけでなく、政治的、倫理的な承認も必要だからです。「Dunedin Studyが犯罪者の予知システムを作った」などという見出しは間違っているだけでなく、将来彼らの研究に資金が投入されるかどうかにも影響してしまうのです。

科学者たちの間では、幼少期の危険因子が後の人生の予測に有用であるという考えは物議を醸します。Dunedin Studyの研究者たちは自分たちの何十年分ものデータを使って、その論議に彼らなりの意見を提示したのです。つまり、「特定の幼少期の危険因子を使うことで、政府が予防サービスを最も必要とするグループを特定するのに有用となる」と提案して議論を活発化させられるのです。

研究者たちは論文にこう書いています。「私たちは、行動科学や社会科学を悩ませ、子どもたちに対する国家政策にも影響する問いを投げかけたかったのです。幼少期の危険因子と将来の大きな負担となる行動はどれだけ強い結びつきがあるのか? 今回の結果は、成人後の非行に繋がる幼少期の危険性が過小評価されていたのではないかということを示しています」

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A. 高コストのグループが社会に与える負担 B. 対照的に、それ以外の多くの人々はどの高コストグループにも含まれなかった image: Nature

結果のいくつかは、すでに他の研究で立てられた説と一致しています。研究グループによれば、経済的負担となるグループの人間は幼少時代に4つの不利となるファクターがありました。生まれが貧しく酷い扱いを受けIQテストの成績が悪く自制心の欠如が見られたのです。この結果は、グループ全体に対しての予測には統計学的に高い確率を持つ一方で、特定の個人に対しての予測には役立ちませんでした。

そこで登場するのが神経学的検査の結果です。簡単な45分の神経学的検査により、個人が将来社会福祉や社会保険に大きく頼るかどうかを予測できたのです。理論上では、支援する側はこれを使うことで、特定の人たちに若い頃からピンポイントで支援を行ない、真っ当な人生を送れるように手助けできるということです。

「幼少期の不利な状況を改善することが最も重要な狙いです。そして幼い頃から子どもと家族を支援することでそれを行えば、社会全体に対して有益な可能性があるのです」と研究者は論文に記しています。この研究結果はとうぜん再現される必要があり、さらに実世界でこの方法を使って人を特定することが、ポジティブな効果を及ぼすのかどうかを試さなければなりません。

image: Kristina Perley-Robertson/Shutterstock
source: Dunedin Study, The Spinoff, Nature Human Behavior
参考: Quartz, Discover Magazine, Hypertension, Cambridge Core, ScienceDaily, NZ Herald, The Atlantic, Fusion

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
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