デザイナー受精卵がビジネスに? 生殖医療+遺伝子編集の未来

デザイナー受精卵がビジネスに? 生殖医療+遺伝子編集の未来 1

精子とか卵子を人工で作って任意に改変、も(技術的には)可能な時代へ。

これから遺伝子編集技術の進化で、「デザイナー・ベビー」が可能になってしまうのでは?と科学界が揺れています。遺伝子を簡単かつ正確に切り貼りできる技術CRISPR/Cas9を使えば、「美形でモデル体型でIQ200で孫悟空みたいに体力のある人間」とかができてしまうかもしれないんです。

【遺伝子編集技術の現在】血友病がCRISPRを使った遺伝子治療で治った。まずはマウス実験で成果

そんなのまだSFの世界での話だと思われていても、技術は日々進化しています。さらに遺伝子編集技術だけでなく、体外受精(IVF、In Vitro Fertilization)などの生殖医療も進んでいます。今だってIVFによって子どもを持てなかった人が持てるようになっているし、さらに精子や卵子提供を受ける場合は、提供する人の人種や教育レベルなどを選ぶことも可能になっています。CRISPRが人間に対して使われたら、技術的には、そんな取捨選択が果てしなく可能になってしまうんです。

ある研究グループが現在、「IVG(In Vitro Gametogenesis)」(直訳:試験管内配偶子形成、「配偶子」とは精子や卵子のこと)という生殖医療技術がデザイナー・ベビーを現実に近づけていると問題提起しています。IVGとは、精子や卵子そのものがなくても、他の適当な細胞を元に精子や卵子を作れる技術です。

極端にいえば、たとえば髪の毛1本、皮膚片ひとかけあるだけで、自分または他人の遺伝子を持った精子・卵子ができてしまうってことです。なので理論上は、Tinderで出会ってドリンク1杯も飲み終えないで別れたんだけど、数カ月後にその相手から「あなたの皮膚を使って精子を作ったからよろしくね。あなたって遺伝子の作りは良さそうだったから」って連絡される…なんてことがありうるんです。

「IVGで何が変わるのか? 問題は、それが遺伝子編集技術CRISPRと組み合わされたときです」ハーバード・ロー・スクールのGlenn Cohen教授は語ります。彼はScience Translational Medicineの共著記事の中で、IVGが持ちうる倫理的問題を提起しました。「現在CRISPRはまだ黎明期にありますが、これから遠い将来、(遺伝的)特徴を選ぶことがより確実に可能になるでしょう」

Cohen氏いわく、IVGによって大量の受精卵を作ることが簡単になるかもしれません。そしてCRISPRによってそれらの卵を簡単に編集し、その中から遺伝子的に一番よさげなものを選んで着床させるなんてことも可能になるかもしれないんです。

「それは、システィーナ礼拝堂を描いたミケランジェロと、Photoshopで同じようなアートを作ろうとしている人の違いのようなものです」とCohen氏は米Gizmodoに語りました。「現代のミケランジェロは作品のコピーを数多く作り、1,000パターンも試してみて、どれが一番良さそうか選ぶことができます。それが、IVGとCRISPRの組み合わせによって起こる(非常に遠い未来の)可能性です」

とはいえ、こんなシナリオが可能になるのは非常に遠い未来です。今のところIVGはマウスに対してしか行なわれていません。そしてCRISPRは「DNAの切り貼り」ツールといわれるものの、実際そこまで正確なわけではありません。だから上に書いたようなTinderホラーストーリーが成り立つには、両方の技術がもっと進む必要があります。それに米国などでは、人間の受精卵の遺伝子編集自体が今は違法です。

ただ、IVGそのものは、不妊に悩むカップルにとっては希望の光となりえます。だって自分の精子とか卵子ができなかったり、質が悪かったりしても、体の他の細胞を元に精子や卵子を作れちゃうんです。

でもCohen氏たちは、これによって今では考えられないような受精卵の商品化が起こるかもしれない、と警鐘を鳴らします。これは、IVGとIVFの技術的違いによるものでもあります。IVFのプロセスの中で受精卵を編集しようと思ったら、精子と卵子がくっついた後にする必要があり、その受精卵が元々どういう特徴を持つのかコントロールはできません。でもIVGでは、細胞が受精卵になる前に編集可能なので、あらゆる遺伝的特徴をコントロールしようと思ったらできてしまうのです。

「IVGが破壊的たりうる理由は、それが遺伝子編集を行なった細胞に対し徹底的なクオリティーコントロールを可能にすることです」Science Translational Medicineの記事を書いたもうひとりの著者で、ハーバード大学のGeorge Daley教授は言います。

ただCohen氏は、彼らがIVGの生殖医療技術としての可能性を否定しているわけではないと言っています。彼らの主張は、この技術が進化しすぎる前にその倫理的な意義を徹底的に評価すべきだということです。

そのためには、イギリスのアプローチが良いガイドラインとなるかもしれません。多くの国で人間の受精卵に対する遺伝子編集を禁止しているのに対し、イギリスではたとえば特殊なミトコンドリア病など、限定的なシナリオではそれを許可しているのです。

「我々は、どんなときに(IVG利用が)適切となるのか、ガイドラインを作りたいのです」とCohen氏は言います。「私が賛成できるひとつのケースは、がん治療が原因で卵子を作る能力がなくなってしまったがん生存者が利用する場合です」

IVGもCRISPRも、人間に対して使われるようになるには、技術そのものの進化も必要だし、法的整備も必要です。逆にいえば、倫理的議論を早めに進めておくことで、技術が完成したときにそれを必要とする人が早く利用できるようになるのかもしれません。それは多分、Tinderで遺伝子的に良さげな異性から皮膚片をはぎとる人ではなさそうです。

遺伝子編集ツール「CRISPR」人間への使用、承認される

image: Shutterstock
source: Science Translational Medicine, The Huffington Post

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)