暗闇で光るビールで、バイオハッキングを広めたい男の話

暗闇で光るビールで、バイオハッキングを広めたい男の話

ブラックライトの下で光る、緑色蛍光タンパク質を導入された酵母で醸造されたハチミツ酒

技術の進化によって、デザイナー・ベビーの可能性は現実を帯び、CRISPRによって無敵な作物はできるかもしれませんが、遺伝子工学の革命はそういった形ではなく、暗闇で光るビールで起きるのだとJosiah Zaynerは言います。

Zayner氏はバイオハッカーです。かつてはNASAの合成生物学者でしたが、世間に科学をもたらすため数年前に退職しています。そして今、Zayner氏は遺伝子操作された、光るビールを醸造する方法を人々に教えたいそうで…。

「パソコンが登場した頃、それがカッコよかったり、遊べるゲームや使えるプログラムがあったりしたから、みんなは購入したんだと思ったんです」、Zayner氏はそう教えてくれました。「今や生物がパソコンであり、DNAは現実を書くコードです。僕たちは、自身の想像力に手をのばし、遺伝的設計で物事を実現させる能力を人々に与えたい」とも。

35歳であるZayner氏は、1日のほとんどをバイオハッキングの素晴らしさを広めることに費やしています。彼の会社The Odinでは、最先端の遺伝子編集ツールCRISPRを用いて酵母を操作するキットなど、安価なDIYバイオ用品を販売しています。ただ、彼が夢見ているのは、ピクルスを漬けたりジャムを作ったりすることのように、バイオハッキングがありふれた趣味になっている世界。そして彼の賭けた、黄色の酵母を赤色に変えられるような何の変哲もないキット販売では、バイオハッカーの新世代を刺激するには魅力が足りないのです。

そこで、ビールです。自家醸造は世界中で嗜まれている趣味ですからね(訳注:日本では酒税法により、アルコール分1度以上の飲料を製造する場合、酒類製造免許が必要です)。Zayner氏は「何かカッコいいことができる醸造酵母の操作方法」を教えるキットを販売したらどうか、と考えを巡らせたのです。例えば、暗闇で光るとか。

2016年、彼は科学好きな自家醸造家たちがそれを行なえるキットを199ドルで発売しました。キットには、あらゆる種類の醸造酵母にクラゲの緑色蛍光タンパク質を導入するために必要なものが、すべて入っています。操作された酵母を使い、ビール(あるいはZayner氏のおすすめは蒸留酒、ハチミツ酒)を醸造すれば、ブラックライトの下で輝くビールの出来上がりってわけです!

1 暗闇で光るビールで、バイオハッキングを広めたい男の話

遺伝子操作された酵母で醸造したハチミツ酒(左)と緑色蛍光タンパク質酵母(右)

「自分が想像する遺伝的設計の未来はどんなものかと自問自答したら、それは地元のタトゥーショップに行けば、僕の遺伝子を操作してもらえる世界でした」とZayner氏は言います。「そのあとは、友人たちを招いて、僕が操作して庭で育てたスパイシーなトマトが入ったハンバーガーを食べて、これまで味わったことがないような良い香りがするように設計した酵母で作ったビールで全部を流し込むんです」

さらに製品においては、サメの肝油に発見された物質で、癌のリスクを減らすと提議されたスクアレンという分子を組み換えた酵母を使い、ゆくゆくは抗ガンビールのためのキットを売りたいという計画があります(人間の健康へのスクアレンの影響をくまなく調査するほど、十分なリサーチがされたわけではありません)。

カッコよくて触れられるものを生産する能力によって、もっと多くの人が学ぶだけでなく実際に遺伝子操作を行なうことに興味を持つようになればとZayner氏は願っているのです。

「遺伝子工学の革命が本当に始まるのは、消費者たちが遺伝的設計を使って自宅で触れられるものを作れるようになってからだとわかりました」と語るZayner氏。「酵母こそが取り組み始められるものだって気付いた」とのこと。

2 暗闇で光るビールで、バイオハッキングを広めたい男の話

バイオハッカーのJosiah Zayner氏。ベイエリアにあるガレージ研究室にて

Zayner氏には残念なことですが、ビールに熱狂したバイオハッカーの集団の気配をアメリカ食品医薬品局(FDA)も察して、良い顔をしていません。ビールそのものではなく、ピペットやペトリ皿、酵母、DNAを販売していることから、彼自身はFDA違反とは無縁であると信じています。FDAはZayner氏が販売している緑の蛍光性クラゲのタンパク質が、FDA未承認の着色料に分類されるのでは?と疑問を呈しているのです。

Zayner氏は緑色蛍光タンパク質は正確には色ではないと主張し、FDAに止められるまでは販売し続けるつもりです。規制当局と科学の権力者層は、彼のプロジェクトのように、ガレージで複雑な実験を試みるDIY科学者の集団と闘おうと四苦八苦しています。こういった実験は規制されるべきか、だとしたらどの程度までという議論は白熱しています。

Zayner氏の暗闇で光るビールについては、ブラックライトの下でわずかに光るだけなので、想像するほどSF的な感動はないかもしれません。でも、本当に注目すべき問題はそこではありませんから、ね。

image: Josiah Zayner
source: Fusion, The Odin1, 2, Forbes, NCBI, 国税庁

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(たもり)