次の疑似科学の舞台は「遺伝子」かも

次に流行る疑似科学は遺伝子関連かも

Husarさんは、通信会社の営業マンで、現在38歳です。彼はウクライナ人で、普段はお肉やポテト、塩分、飽和脂肪酸がたくさん摂取する、典型的な東ヨーロッパの食生活です。しかし、遺伝子を元にダイエットや運動など日々の生活についてアドバイスを行なっているDNA Lifestyle Coachによると、そんな彼には地中海の食事が適しているとのことです。

DNA Lifestyle Coachのように、遺伝子の情報をライフスタイルに活かそうとする企業は珍しくありません。この数十年で、DNAシークエンシングのコストはかなり安価になってきていて、一般消費者にも少しずつ浸透してきています。そのため、DNAから将来を予測できるという売り込みが広がってきています。しかし、塩基配列を解読し、個人のライフスタイルについてアドバイスすることについては、科学者たちは懐疑的な立場です。

実際、ライフスタイルに対するアドバイスは、科学というよりは健康に関する知恵になりがちです。例えば、DNA Lifestyle Coachはある顧客に「体重を減らすために混濁果汁のりんごジュースを毎日750ml飲みなさい」というアドバイスをしています。

サンディエゴのスクリプス研究所で遺伝学者をしているEric Topol氏は、米Gizmodoに対して、「何百万人もの人が遺伝子型判定を受けていますが、全遺伝情報のシークエンシングを受けた人はほどんどいません」と述べています。23andMeのような一般消費者向けDNA検査を行なう多くの企業は、すでに解明されている部分についてDNAの断片を調査する、遺伝子型判定(ジェノタイピング)を行なっています。一方で、遺伝情報のシークエンシングは、断片ではなく遺伝子全体の解読を行ないます。そして多くの場合、「炭水化物を避けるべきかどうか」といった問題に対して正確な予測をするほど遺伝子の研究は十分ではありません。

Topol氏は、「どんな食事が合っているかといった助言を行なうには、数十億人分のシークエンシングのデータが必要です」と説明しています。

Husarさんは、数年前に23andMeにDNAを検査してもらった後、たまたまKickstarterでDNA Lifestyle Coachのページを見つけました。彼は自分のDNA検査の結果からもっと情報が集まらないだろうかと思っていました。そして、6カ月前に、23andMeのデータをDNA Lifestyle Coachにアップロードしました。各検査には、おおよそ60から70ドル(約7,000円から8,000円)かかります。

Husarさんは「常に自分の健康、体、自分自身について知るための方法を探しています」と言っていて、2015年にKickstarterでDNA Lifestyle Coachに出資しています。

実際に、彼が受けたアドバイスはかなり具体的なものでした。DNA Lifestyle Coachによると、彼はビタミンB12、D、Eのサプリメントをとる必要がありました。さらに食事に含まれるヨウ素を増やし、塩分を減らすように指示を受けました。また、彼の食事に含まれる脂肪分の55%を、サンフラワーオイルからオリーブオイルのようなモノ不飽和脂肪酸に変えることを勧められました。運動については、持久力を中心としたメニューに変える必要がありました。このアドバイスに従った結果、体重が約3kg減りました。

1 次に流行る疑似科学は遺伝子関連かも

今まで、DNA Lifestyle Coachの「解釈エンジン」は食事と運動にのみアドバイスを出していましたが、今後はスキンケアやデンタルケア、ストレス管理などについても、アドバイスできるようになる予定です。さらにガンのリスクを減らすために使う日焼け止めのSPFやどの化粧品が老化を遅らせてくれるかなどについても、機能を追加したいとのことです。

DNA Lifestyle Coach以外にも、DNA検査を結果を元にサービスやプロダクトを展開している企業はあります。DNAシークエンシング会社のHelixは、今年「遺伝学のためのアプリストア」をローンチする予定です。そのパートナーのひとつに、Vinomeという四半期ごとに149ドル(約1万7000円)でDNAに合わせたワインを送ってくれるワインクラブがあります。ORIG3Nという企業は、フィットネスやメンタルヘルス、さらには非科学的な超能力について遺伝子を元に評価するサービスを展開しています。

Helixの共同創業者であるJustin Kao氏は米Gizmodoに対して、「まだまだ時間はかかりますが、DNAが日常の一部となる日が来ることを信じています。どの映画を見るべきか、どのレストランに行くべきかについてデータを元に決めているように、DNAのデータを元に日々の体験を決定するようになるでしょう」と語ってくれました。

遺伝子から得られる情報の精度が上がってきていることについて疑いの余地はありません。ほんの10年前はシークエンシングに30万ドル(約3400万円)も必要でした。最近では、IlluminaというDNAシークエンシングの会社が10年以内にたった100ドル(約1万1000円)で可能になると発表しています。日々、研究者が私たちの健康や環境、遺伝子の関係性について、新たな発見をしてくれているのです。

しかし、これらの研究の多くはまだ発展途上です。例えば、DNA Lifestyle Coachのりんごジュースに関するアドバイスは、たった68人の非喫煙者を対象とした研究を元にしたものです。このような研究結果は、見込みのあるものですが、確証を得るにはもっと多くのデータが必要です。

言うまでもなく、遺伝子から得られる情報は確率的であり、決定的なものではありません。もし親子鑑定を行ない、あなたの両親が高確率で本当の「両親」であるという結果が出た場合においても同じことです。大抵、ある性質には多くの遺伝子が関係していて、遺伝子同士がどのように相互作用しているかについては複雑でよくわかっていません。さらに難しいのは、私たちの行動や環境もまた影響があるということです。例えば、皮膚ガンになりやすい遺伝子を持っていたとして、天候の悪いシアトルに住み、決して外に出ない生活をしている場合、ロサンゼルスに住み、毎日日焼け止めなしに外で過ごしている人よりも、ガンになる可能性はおそらく低いでしょう。

しかし、DNA Lifestyle Coachは、ユーザーにシンプルでわかりやすいアドバイスを提供するために、こういったグレーな部分は省略しています。代わりに、摂取すべきビタミンAの量から1日あたりのコーヒーの量まで、具体的に指示を行ないます。

2 次に流行る疑似科学は遺伝子関連かも

DNA Lifestyle Coachのウェブサイトには、「結果の信頼性から研究をランク付けするアルゴリズムを使用しています。その後に、実際の食生活や栄養との関連について分析し、ユーザーに直接リコメンドを行ないます」と記載されています。

りんごジュースのアドバイスに対する疑いについて尋ねると、DNA Lifestyle Coachの創業者は「データが不十分だが、害はないリコメンドだ」と回答しました。

Topol氏に、DNA Lifestyle Coachの主張に正当性があるかどうか尋ねると、「いつか、遺伝子の情報から個人ごとに適した食事のタイプについて分かる日が来るかもしれません。しかし、DNA Lifestyle Coachが行なっているくらい詳細な予測は難しいでしょう。限界があるのです」と笑って返しました。

3 次に流行る疑似科学は遺伝子関連かも

一見科学っぽい言説を信じることは問題ないことのように見えますが、代償として重大な結果をもたらす可能性があります。何年もの間、DNAはあらゆるものに対する答えと考えられてきました。人間の遺伝子を解読することで、魂の謎が解けると。その結果、DNA Lifestyle Coachのような企業に、危険な権力を与える事態になっています。もし、DNA検査の結果から肥満の傾向が分かったとして、自身のコントロール外にもかかわらず、なぜ運動や食事に気を使う必要があるのでしょうか。遺伝子によって決まっているのであれば、努力する意味はないように思えます。

このように、DNAと私たちの身体や生活スタイルの関係性についての研究はまだまだ発展途上です。また、DNA検査の結果がすべてではありません。DNA検査の結果を盲信してしまうことで、より悪い事態を引き起こしてしまう可能性もあります。ついついシンプルでわかりやすいアドバイスに飛びついてしまいますが、注意しないといけませんね。

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top image-Angelica Alzona/Gizmodo US
source: DNA Lifestyle Coach, 23andMe, Helix, Vinome, ORIG3N, Illumina
参考: Wikipedia

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(tmyk)