固体だけど流れる液体。物質の制約を超えた「超固体」、ふたつのチームが実現

固体だけど流れる液体。物質の制約を超えた「超固体」、ふたつのチームが実現

ほぼ絶対零度の世界で成り立つ、新たな素材。

たしか中学校あたりの理科の時間に、「物質の状態は固体・液体・気体の3つ」と習いました。固体には形と体積があり、液体には体積のみ、気体には形も体積もない、とされ、複数の状態を同時に満たすことはできないと言われていました。でも新たな研究で、特殊な素材と環境を用意すれば、固体と液体の性質を兼ね備えた素材を作りだせることが裏付けられました。

マサチューセッツ工科大学(MIT)とスイスのチューリッヒ工科大学(ETH Zurich)の研究チームが、それぞれの手法で「超固体(supersolid)」と呼ばれる物質を作り出しました。ただそれは、手で持てるようなものではなく、超低温の真空チャンバーの中だけで存在しうるんです。この研究によって、物質の本質の理解がより進むことが期待されています。

「我々のゴールは、誰もそれがありえるとは思わなかったような、新たな性質を持った新たな素材を発見することです」、MITの物理学者、ヴォルフガング・ケターレ教授は言いました。「地球には今まで存在しなかったような素材を作りたいのです」

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ケターレ氏の実験設備 (Image: MIT)

MITとETH Zurichのチームは、それぞれ違う素材と手法を使って超固体作成に挑みましたが、共通していたのは原子を「ボース=アインシュタイン凝縮」させたことです。ボース=アインシュタイン凝縮とは物質の5つめの状態(4つめはプラズマ)と言われるもので、気体を絶対零度近くまで冷やすことで見られる状態です。そこでは、原子が波のような挙動を示すようになります。

この状態はかつてアルベルト・アインシュタインが予言していたのですが、実在が確認されたのは1995年のことでした。その状態を作り出す実験をした研究者のひとりがケターレ氏で、彼はその功績によって2001年にノーベル物理学賞を受賞しています。

で、「固体であり液体でもある」ってどういうことなんでしょうか? ライス大学のKaden Hazzard氏はNatureで、次のふたつの性質を兼ね備えていることを説明しています。

a.超固体は固体のように固く、簡単に恒久的に移動させられる液体とは違い、原子が移動させられると元の場所に戻る。

b.固体では、原子が欠けているといった欠損は原子の格子を通じて移動するが、超固体では量子力学によってこの動きが粘度なしに起こる。

MITとETH Zurichの研究チームはそれぞれ、ボース=アインシュタイン凝縮状態の物質に、固体の性質を与えようと試みました。MITではレーザーと蒸発冷却によって、ナトリウム原子をボース=アインシュタイン凝縮させた後、レーザーで原子の密度を変化させ、結晶構造を作りだしました。この物質に光をあてると、そこからは格子状の光が反射してきました。これによってケターレ氏らは、新素材ができたことを確信し、その結果をNatureに発表しました。

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ETH Zurichのチームによる実験設備 (Image: ETH Zurich)

一方ETH Zurichのチームは、ボース・アインシュタイン凝縮状態のルビジウム原子を鏡に囲まれた空洞の中に設置しました。そこでは光の粒子が前後にはねかえっており、光が原子の間に広がることで結晶構造を形成させました。この研究についても、同じくNatureに掲載されています。

ただしケターレ氏は、これらの物質が手に持てるようなものではないとことわっています。これらの研究でできた素材は特殊な環境で作り出されているため、いつでもどこでも一般的な「固体」の性質を示すわけではないのです。

それでもイスラエル工科大学の物理学者Jeff Steinhauer氏は米Gizmodoに対し、これらの研究が「固体ヘリウムの性質を理解するのに役立つかもしれない」と称賛しています。またケターレ氏は、ふたつの研究チームが同時に発見を発表したことでこの分野への関心が高まることを期待しています。

で、異なる相の性質を併せ持つ物質ができたことで何か実用的に役立つのかっていうと、とりあえず直接的に役立つ用途はなさそうです。つまりこれらは、純粋な基礎研究だと思っていたほうがいいみたいです。でもこうした研究が進むことで逆に、宇宙には我々の知らない現象がまだまだあるってことがわかってきます。

「我々を駆り立てるのは、このような現象が成り立つとわかれば、多くの人がこんな素材が自然法則上ありうるのだと知ってくれることです」とケターレ氏は言います。「これから10年から20年後、この研究が素材デザイナーの努力を促して、真空チャンバーの外でも存在しうる超固体ができるかもしれません

我々のお腹には未知の臓器があった

top image: ETH Zurich / Julian Léonard
source: Nature(1, 2

Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文
(福田ミホ)

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