ディズニーワールドで配られる「マジックバンド」に隠された、ちょっと不気味なテクノロジー

ディズニーランドで配られる「マジックバンド」に隠された、ちょっと不気味なテクノロジー

ようこそ、夢の国へ。

夢の国を作りだすために必要なのは何でしょう? それは、科学です。テクノロジーです。魔法が(たぶん)ない現実において、ファンタジーを再現するのは科学の力です。米Gizmodo記者のAdam氏がアメリカ・フロリダのディズニーワールドで遭遇したテクノロジー。入場チケット代わりのリストバンド「マジックバンド」の中にあったものとは…。以下、Adam氏の体験談です。

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この間ディズニーワールドに行ったとき、ちょっと変わった体験をした。スプラッシュ・マウンテンに乗ったんだが、不具合が見つかって、途中で退場、避難させられた。その数分後、僕の携帯に送られてきたのは、スプラッシュマウンテンを走る空のコースターの写真。写真が撮影されたのは、ちょうど僕が非常階段から外に出て行っている頃。これ、どういうこと?

ディズニーワールド マジックバンド 1

テクノロジーは、ディズニーワールドでの体験を変えた。もちろん悪いことではない。近年、ディズニーワールドでは、「マジックバンド」と呼ばれる手首につけるウェアラブル端末を使うことができる。これはワールドの入園チケットであり、ファストパス代わりであり、レストランによっては支払いも可能で、ディズニーリゾートに宿泊していればルームキーの役割まで担う。しかしどうやら、僕がどこで何をしているかディズニーが把握するのにも一役買っているようだ。

ディズニーがマジックバンドを導入したのは2013年。その後アップデートもされているが、僕がマジックバンドを実際に体験したのは、今回の休みが初めて。以来、マジックバンドのことが頭から離れない。僕の行動を逐一チェックするバンドを身につけていたのかと思うと、怖い(ディズニーワールドでは入園ゲートで指紋をとられる。昨今、他のテーマパークも同じだが、それだけでもちょっと変な気がするというのに)。もちろん、マジックバンドではなく、今でも紙のチケットを使うこともできるが、まさか自分の行動をトラッキングされるとは考えもせず、マジックバンドで入園してしまった。

ディズニーに限らず、すでに多くの小売店で顧客のトラッキングは行なわれている。利用者にアプリ経由で位置情報利用を許可してもらったうえで、無線信号とビーコンを使って、客の位置を把握するというものだ。ただし日常のトラッキングや監視がOKと言っているわけではなく、あくまでも壁に囲まれたテーマパークの中でより楽しむためにトラッキングにGOサインを出したということになる。

さて、夢の国から家に帰って僕がしたことと言えば、ディズニーにバンドの仕組みを尋ねること。それと…ディズニー以外で仕組みを知っていそうな人=ハッカーに連絡をとること。一体どのように来場者をトラッキングしているのか、僕はそれが知りたい。

マジックバンド、分解

マジックバンドの仕組みはどうなっているのか。それを知るためには、まずナイフでカットして分解するところから。バラしてみればけっこうシンプルな作りで、使っているのはRFID技術(電車のICカードなどに使われる)。中には長さの異なる2本のアンテナ。短いほうは、園内のタッチポイントにバンドをタッチしたときに使う。タッチすると、ミッキーのロゴがLEDで光る仕組みだ。長いほうは常にオン状態にあり、園内に設置されたビーコンに信号を出し、ユーザーデータを送っている。

ディズニーワールド マジックバンド 2

入園時にマジックバンドの仕組みについて説明をうけた覚えも、トラッキングを許可した覚えもないが、ディズニーワールドの利用規約とよくある質問には、「園内でのサービス向上のためにデータをとる」という内容でマジックバンドのことが書かれている。

マジックバンドのアイデアは、ビジネス的に見ると素晴らしいことだらけ。ディズニーは、数学者を積極的に雇用して、フードの消費量からキャラクターが園内を回るスケジュールまで、ありとあらゆることを試算している。もし、どこにどれだけ来場者がいるのかがわかれば、より効率的に従業員などのリソースを配置することができるだろう。それも理解できるが、それでもトラッキングのことや、園内にあるビーコンの位置を教えてもらえないのはちょっと引く。というか、気分がそがれる思いだ。

連絡したディズニー担当者の説明によれば、「来場者の写真と本人とをリンクさせるため、アトラクション内にいくつかマジックバンドをチェックするビーコンがあります」という。つまり最初の空のトロッコの写真は、マジックバンドがチェックされたものの実際にはコースターが停止したため紐づけられたアカウントに写真が送られてしまったというわけ。

ちょっと怖い。怖いけれど、その一方でマジックバンドの利便性がとんでもなく高いことも忘れてはいけない。ファストタイムの利用スケジュールを数週間まえからセットでき、当日は乗り場でタッチポイントに行けば列をスキップできるというのは、何にもかえ難い魅力がある。マジックバンドとピンコードだけで、ミッキーのぬいぐるみもさっと購入できる。シンデレラ城の前で撮った写真もマジックバンドをタップすれば、MyMagic+アプリに送信できる。とにかく便利。

ディズニーワールド マジックバンド 3

ディズニーのアプリをダウンロードせず、今までのやり方でパークを楽しむのもいいが、2013年のマジックバンドリリース以来、来場者の半分がバンドを利用しているという。ディズニーホテルに滞在する場合は、チェックイン時にバンドを渡される。僕はこのパターンだったので、パークを回るのはマジックバンドが必須だと思ってしまったわけだが。

プライバシーは?

ディズニーは昨年、マジックバンド 2としてバンドをアップデート。新デザインでは、中心にあるミッキーロゴ部分が取り外し可能で、キーチェーンに付替えるなどのカスタマイズが可能となった。ディズニーは、ミッキーのミミアクセにもこの技術をとりいれようとしているというもあるようだが、トラッキングチップがはいったミミは、正直、僕は子どもに買ってあげたくはない。

スプラッシュマウンテンでの出来事を説明すると、ディズニーのシニア・バイス・プレジデントであるJim MacPheeg氏はこう回答してくれた。「マジックバンドはもともとプライバシーに考慮してデザインされています」「あなたという個人に紐づけているのではありません」

PR力の高い回答ではあるが、プライバシーに考慮してなんちゃらなんてのは、スノーデン事件以降はジョークみたいなもの。多くのものがネットに接続される現代は、何もかもがハッキングのリスクに晒されている。

ディズニー担当者が、マジックバンドの技術的なこと(プライバシー保護の対策や、来場者の情報を匿名化する技術など)について詳しい人の連絡先を教えてくれなかったので、どこでどうディズニーが来場者をトラッキングしているのかはわからないままだ。しかし、マジックバンドをハックすることはできた。

マジックの裏側へ

マジックバンドの仕組みについては、ディズニーが細かく教えてくれないので、他に教えてくれる人を探すことにした。マジックバンドのハッキングに成功した人だ。僕の知る限りでは、マジックバンドハックは大々的には行なわれていないようだが、それでも何人かが挑戦してはいる。バンドを分解し、米連邦通信委員会のディズニーファイルまで探してみた者もいれば、タスクを追加した者もいる。ハッカーのLuke Berndt氏は、Raspberry Piといくつかのコードを使ってハック成功、家の電気をつけるなどタスクを追加、こなせるよう改良した。彼いわく、スマートロックとの連携や、ネットサービスへのコマンド送信もできるとのこと。

ディズニーワールド マジックバンド 4

Berndt氏が、家の電気をつけるなどのタスクをさせたのは短いほうのアンテナ。短い方が簡単シンプルなものだという。ただバンドの仕組みで注目したいのは、やはり長いほうのアンテナ。米連邦通信委員会(FCC)のウェブサイトにあるレポートによれば、マジックバンドの長いアンテナは、ワイヤレスキーボードやマウスなどとは異なり、2.4Ghzの帯域を使っているという。この帯域ならば、100フィート(約30m)離れた場所からでも通信が可能。セキュリティ研究員でありハッカーでもあるSamy Kamkar氏によれば、この場合、さまざまなタスクが可能だという。

Kamkar氏いわく、マジックバンドが使っているのは、厳密にはBLE(Bluetooth Low Energy=2.4GHz帯を使った通信方法)ではないが、同じ波長ではあるという。実際にディズニーが行なっているかは不明だが、Bluetoothのシグナルを探知することができるので、周辺のBluetooth端末(スマートフォン、Apple Watch、Fitbitなど)、つまりユーザーがBluetooth端末を所持しているかどうかをチェックすることができる。また長いアンテナを使えば、パークの外でも技術的にはトラッキング可能だという。ただ、パークから出てしまえばマジックバンドをつける理由がないので、心配する必要はないっちゃないのだが。

いつも見られている…

マジックバンドの仕組みについて多少は理解したので、利用するのに抵抗が減った。怖い、不気味だと思うのは、よく知らないものだから。ディズニーのテーマパークをまた訪れても、歩くごとにシグナルを送っていると理解しつつ、マジックバンドを利用するだろう。

とはいえ、バンドのすべてを理解した、まったく抵抗がないとは言えない。ディズニーの奥歯にモノが挟まったような回答、バンドの解体、Kamkar氏の技術的には遠隔の通信も可能だというコメントで、モヤモヤとした気持ちや謎は残る。この謎は、パーク内で快適に楽しく過ごすために引換えにするものなのだろうか。

ディズニーワールドは夢の国だ。外の世界のことを気にしなくていい快適な場所だ。ディズニーが来場者に提供したいのは、そんな夢の国にふさわしい魔法=マジックバンド。…だとすれば、バンドは単なるワイヤーとアンテナだ。ただのデータベースとアルゴリズムだ。

接続型端末は未来の形である。それは、人間が便利さと引換えにプライバシーを犠牲にした世界。Appleのマップアプリや、GmailやFacebookを利用するたびに、このトレードについて考えずにはいられない。

僕たちは今、すでにある程度の監視社会の中で生きることを選んでいる。オンライン/オフライン問わず、パフォーマンス向上のためとして、さまざまな行動のデータを集めるビジネスがある。ディズニーもこれに違うことはない。うまくいけば、このデータ収集がより良い明日、より自分に特化した便利な明日に繋がるのだろう。ただ、より良い明日は魔法の力ではやってこない。現実でよりよい明日を望むなら、常に見られることに同意する必要があるのかもしれない。そう思えば、ディズニーワールドだけが特別なわけではない。

ディズニーワールドは、少なくとも、行動監視社会の中で最も魔法みたいな場所には違いない。

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アメリカのAdam氏が訴えるほど、日本ではまだこういったシステムが整っていません。でもこうなったとき、便利さのために、あなたは何をどこまで犠牲にできますか?

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reference: AtDisneyAgain, Adafruit Industries, Federal Communications Commission

Adam Clark Estes - Gizmodo US[原文
(そうこ)