映画『メッセージ』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にインタビュー:「何らかの地球外生命体はいると思う」

映画『メッセージ』ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にインタビュー:「何らかの地球外生命体はいると思う」 1

テッド・チャンの名作短編小説『あなたの人生の物語』をもとにした、地球外生命体とのコミュニケーションを描くSF映画『メッセージ』。今回は本作を手がけたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督にお話を聞いて参りました。

次作『ブレードランナー 2049』にも大きな注目が集まっている監督のSFへの愛、特徴的な宇宙船と文字のデザインが生まれた裏側、宇宙人への思いなどについて語っていただいています。

――監督にとってSFというジャンルの最大の魅力、そしてそれを本作で表現するために一番気を配ったことはなんでしょうか?

ドゥニ・ヴィルヌーヴ(以下、ヴィルヌーヴ):自分にとってSFの最大の魅力は、子ども時代の記憶とリンクしていることです。私はカナダの小さな街で生まれ育ったのですが、冬がかなり長いので、家でSFに触れていると逃避にもなりましたし、自分の周りの世界を理解する手立てにもなりました。

もしかしたら観客にとって難しい、つまらないトピックが扱われていたとしても、詩的な距離があることで入り込めたり、掘り下げたりできるというところが、SFの魅力だと思います。そして、自分が惹かれるのは、たとえば戦争だったり、ハイテクノロジーだったりではなくて、もっと実存主義的な未知を模索するようなSFです。

2001年宇宙の旅』を初めて観た時のことをよく覚えているんですが、高所恐怖症になったかのような気持ちになりました。その恐怖心というのは、『2001年宇宙の旅』が何か自分では触れることのできない、理解することのできない、そういうものを描いているひとつのアート作品だったからだと思うんです。その時に感じた美しいまでの恐怖心に自分は虜になってしまい、SFが好きになりました。

誰も見たことがないような文明、あるいは人間の法であったり、重力であったり、化学物質であったりとはまったく違う、異次元の方法論や世界から来ているために私たちが理解できない神秘というものが、『メッセージ』では少しずつ明かされていきます。そういったところに、自分のSFへの思いというのは表現されているのではないかと思いますね。本作で自分が好きなのは、どういう風に旅をしてきたのか、どういう言語を使うのかもまったく理解できない未知の文明を前にしたときに、すごく謙虚な気持ちになるキャラクターたちと、彼らのその謙虚さなんです。

映画の脚本からデザイン、コンテ、撮影としていく中で、いろんな人に言われたのが「宇宙船の中をもっと見せてくれ」ということだったんですが、私は拒否しました。操縦桿なのか? ボタンなのか?など、もっと見せたいとスタッフから言われたんですが、自分はミステリーのままにしたほうが、より強い作品になると思ったんです。私はスティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』が大好きですが、クライマックスで船内を見せてしまうのは間違いだったと思います(笑)。

『2001年宇宙の旅』でスタンリー・キューブリック監督は、エイリアンのデザインはしていたらしいのですが、登場させないほうがよりパワフルな作品になると判断して、最終的には登場させなかったそうです。それは英断だったと思います。

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――宇宙船やヘプタポッドのデザインはどのように生まれたのでしょうか?

ヴィルヌーヴ:直感に突き動かされてデザインしたというのが正直なところですし、誰も見たことがない形状を目指して宇宙船のデザインは生み出したつもりだったんですけど、世界の反対側(日本)ではみんなが知っている形状だったなんてね(笑)。(※編集部注:日本では本作の宇宙船が米菓の「ばかうけ」にそっくりという声がたくさんあった)

あえて言うのであれば、フランスの漫画家メビウスに影響は受けていると思います。先日リサーチをしていて気づいたのですが、自分がもともと大好きなノルウェーの画家であるオッド・ネルドルムの絵に描かれている暗い雲が『メッセージ』の宇宙船と同じ形をしていたので、もしかすると彼の絵のことも無意識のうちに参考にしていたのかもしれません。自分でもときどき、どこからアイディアが来ているのかがわからないことがあるんですが、あの不思議だけど完ぺきな形状は何らかの形でメビウスとつながっていると思います。

本作では私の作品の美術をずっと担当している、パトリス(・ヴァーメット)とデザインを作っていきました。原作では巨大なスクリーンのような~と表現されている船内のインスピレーションとして、パトリスも私も、ひとりのアーティストの名前を挙げたんです。それがジェームズ・タレルでした。

ヘプタポッドや宇宙船の形状、船内のデザインは、観客が無意識のうちに「死」を想起するようなものを目指しています。それはルイーズが「死」というものと対話するからです。本作は、そのルイーズの死との対話を通して、人生、あるいは生きるということを抱擁できるというストーリーだと私は思っています。

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――ヘプタポッドの文字はどのようにデザインしていったのでしょうか?

ヴィルヌーヴ:原作に登場するヘプタポッドの言語の本質が円だったので、映画でも円にしなければいけないというのは理解していました。私のイメージでは、それはすごく純粋でコントロールされたものだったんです。

アーティストのマルティーヌ・ベルトランド(Martine Bertrand)がインクのはね、シミのようなものを使ったデザインを提案してくれて、ロールシャッハではないですが、見る人によっては文字であったり、悪夢であったり、いろんなイメージを想起させるような部分もとても気に入りました。ただ、形をそのままデザインとしてヘプタポッドが毎回書くとなると時間がかかってしまうので、彼らの手足のような体の部位からインクが噴出して、空間に言葉として描かれていくという方法を採用したんです。結果的に、奇妙で美しい表現ができたと思っています。

形状を決めたあと、パトリスをはじめとしたデザイナーのチームが、ちゃんとロジックのある言語を作り上げて、小さな辞書みたいなものまでできていたんですね。それを見て、スタッフもキャストも本当に驚いていました。言語学の専門家も関わっているので、信憑性のある言語になっています。さらに、ヘプタポッドの言語を翻訳するコンピューターのプログラムは、有名な理論物理学のスティーブン・ウルフラムがデザインしていて、ちゃんとそういった言語を理解するソフトウェアが現実にありえるように完成させてくれました。スタッフの中には、そういった作業をものすごく楽しんでいる人たちがいましたね(笑)。

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――監督は宇宙人、地球外生命体は現実に存在するとお考えでしょうか?

ヴィルヌーヴ:いてほしいと思っています。宇宙に私たち地球人しかいなかったらがっかりしますし、人類のナルシシズムにとっても良くないと思いますね(笑)。私の実存主義的な観点から見ても、この宇宙に地球外生命体が存在していないというのはありえないと考えていますし、良くないことだと思っています。

本作のように地球へ突然やって来るとは信じていませんが、何らかの地球外生命体はいると思いますね。植物のような存在なのかもしれませんけど、いてほしいです。「いるかもしれない」という可能性こそが美しくありませんか?

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映画『メッセージ』は5月19日(金)全国ロードショー。

image: 映画『メッセージ』オフィシャルサイト
photo: ギズモード・ジャパン編集部
source: 映画『メッセージ』オフィシャルサイト, YouTube
reference: ばかうけスペシャルサイト, Site officiel de Jean Giraud Moebius Official website, Odd Nerdrum, James Turrell, Wikipedia

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