要警戒! 科学を阻害する「(仮)トンデモ遺伝プライバシー法」

要警戒!  科学を阻害する「(仮)トンデモ遺伝プライバシー法」
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その法律、とんでもない! 研究の邪魔だよ!

23andMeやAncestoryのような企業が遺伝子検査の普及にいそしむ昨今、遺伝データのプライバシー保護はさらに強化されるはず、と普通は思います。ところが米国の議会は、遺伝的差別に対してすでに脆弱な保護をいっそう脅かすような行動に出ています。遺伝子に基づいて市民が差別される「ガタカ」みたいなディストピアもコワイけど、不適切な遺伝プライバシー法科学を窮地に追い込んでしまうのを、科学者はもっとも警戒中なんです。

ハーバード大学医学部の遺伝学者Robert Green氏は、「臨床上のケアと研究の両方が阻害されている」と米ギズモードに語っています。Green氏は、ゲノム医学が人々の健康と行動に与える影響について研究中です。特に関心を持っているのは、遺伝子検査に賛成する要因は何か? ということ。そして逆に検査を拒否する最大の理由は、「遺伝的に差別されるかも」という危機感ではないか、と観察しています。

Green氏などの遺伝学者にとって、特定の遺伝子が特定の病気にどのように影響するかを追跡するには、何千人もの人々のゲノム配列決定(ゲノム解析)を行う必要があり、膨大な時間と労力がかかりります。なので、遺伝的差別に対する危機感から、治療に役立つかもしれない検査を拒否してしまうのは、残念な結果となる可能性も十分とあるのです。

「人々は、危険な遺伝子を持っていることが医学的な記録に残れば、何らかの形で悪影響があるのでは、と懸念している」とGreen氏はみています。

2008年に米国議会は、保険会社や雇用者が遺伝検査を要求したり、免責額の決定などへの利用を禁止するため、「米国遺伝子情報差別禁止法(Genetic Information Non-Discrimination Act:GINA」を成立させました。しかしGINAの保護は、生命保険や長期ケア、障害保険には適用されていないため、これらの会社は遺伝子情報を要求でき、危険すぎると判断される人々を拒否することができます。現在差し替え中の医療費負担適正化法は、遺伝子検査で明らかとなる契約前発病に対する差別から保護することで、このGINAの問題を解決するものです。一方、下院で現在審議中の別の法案H.R.1313は、雇用主が従業員に遺伝子検査を受けさせ、拒否すれば重い罰金を課すことを認めるという内容となっています。

このような法案の動きに対し、Green氏は警告します。

とんでもない差別の機会が職場に導入されようとしている

Green氏は、これがヘルスケアや研究成果にどのような影響を与えるか考察を開始しました。 かなりの影響を示すデータが、あるプロジェクトで見つかっています。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)の主要な研究の一環として、乳児の遺伝的配列決定が健康管理にどのように影響するかを調べるため、Green氏ら研究チームは、2,500人以上の新生児の両親に「無料で配列決定が受けられますよ」と呼びかけました。このうち、325人の新生児の親が情報セッションへの参加に同意しましたが、実際に参加したのはわずか57人だけでした。

Green氏のチームは、親が遺伝子検査に「はい」または「いいえ」と答えた理由の調査を続行中です。Green氏は米ギズモードに対し、プライバシーに関する懸念が重要な役割を果たしている可能性があることを明らかにしています。

人々はプライバシーと遺伝的差別、特に保険差別に対する懸念から遺伝子検査を拒否している。これは生物医学的研究と人々の医療へのアクセスを妨げている

多くの人々は遺伝プライバシーの保護が不十分であることに不満を抱いていますが、保険会社や雇用主は遺伝情報を明らかにするビジネス上の理由があると主張しています。保証すべきリスクに関する情報が多いほど、保険会社はより手頃で効率的な製品を提供することができるかもしれないからです。

Green氏は、この問題にいかにアプローチすべきか、英国の好例を挙げました。保険会社と政府は、保険の権利と、リスクに影響を与え得る情報に保険会社がアクセスする権利を保証するという合意に達しています。保険会社は遺伝子検査データに基づいてリスクアセスメントを打ち立てるなら、典型的なものより高いハードルを設定しなければなりません。つまり、あなたがいずれ病気を発症する遺伝子のキャリアだとしても、保険会社には知られずにすむようです。また、保険会社が消費者に検査を強要したり、医学研究の過程で行われた検査や親族の遺伝子検査情報の共有も要求できないことが保証されています。

「企業のビジネスニーズを満たすと同時に消費者のプライバシーも満足させる方法はある」とGreen氏は解決の道を示唆しています。が…今のところは残念ながら、遺伝学のコミュニティが「呆れ果てる」しかないのが現状のようです。

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reference: Wired, Wikipedia, Fast Company, Congress.gov, GOV.UK

Kristen V. Brown - Gizmodo US[原文
(Glycine)

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