「アメフト選手の脳のほとんどに障害が」騒動で浮き彫りになるスポーツと脳障害の研究の遅れ

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「アメフト選手の脳のほとんどに障害が」騒動で浮き彫りになるスポーツと脳障害の研究の遅れ
Image: UTBP / Shutterstock.com

先日国際的な医学雑誌である「JAMA」で発表されたアメリカンフットボールに関する研究が多くの人に衝撃を与えています。問題の論文は「アメリカンフットボール選手の慢性外傷性脳症に関する臨床病理的な評価」と題されたもの。慢性外傷性脳症(CTE)は衝突や打撃などで頭に衝撃を受けることの多いスポーツの選手には多く見られる神経疾患。特徴は、外傷を受けた直後に症状があらわれるのではなく、数年たってからアルツハイマー病やパーキンソン病と見分けのつかないような症状が発症することです。

この研究によると、死後寄付されたアメフト選手の脳を調べてみたところ、202人のうち177人がCTEを持っていたそうです。88%です。寄付された脳のうち111人は元NFL選手のものだったそうですが、その111人のうちCTEを患わっていたのはなんと110人。驚異的な数字です。

衝撃的な数字

もちろん、今回の論文は相関関係を示しているものであって、因果関係ではありません。アメフトをすれば脳に慢性的な障害を受ける可能性が高くなる、という証明がされたわけではないので注意ですが…。それでもこの数字に多くの人が衝撃を受けているようです。発表されてすぐに多くのメディアが取り上げ、ツイッターやFacebookといったSNS上でもたくさんの反応が投稿されています。

これが私の二人の息子が絶対にフットボールをしない理由。

研究の著者であるJesse Mez(ボストン大学)氏は米ギズモードの取材に対し「ある意味、私たち(科学者)よりもメディアや人々の注目のほうが科学の先を行っていたと言えます。(CTEの)数字は語られてきたけれど、論文として発表はされていなかったんです。この数字は衝撃的です」と語っています。

研究対象の偏り

この研究はフットボール選手の間におけるCTEの多さを測るようにデザインされたものではなく、またフットボールをすることが症状の重さを変えるかどうかについて結論を出すような意図もない、とMez氏は警告しています。

また提供されている脳も偏りのあるサンプルとなっています。というのも選手たちの脳が科学施設に寄付されたのは「CTEを持っていたのではないか」という懸念が理由だからです。脳の持ち主たちは生前、全員がCTEの症状を見せていたとのこと。そう言った意味では高い確率でこれらの脳でCTEが確認されたのは当然だとも言えます。

この研究の目的は臨床病理的な観点から、CTEのリスクを抱える脳について理解を深めること。ボストン大学医学部とVAボストン・ヘルスケア・システムは2008年に脳バンクを設立しましたが、寄付を受け付ける条件は生前に繰り返し頭に衝撃、外傷を受けていたことです。

JAMAのエッセイでカリフォルニア大学サンフランシスコ神経科のGil Robinovici氏は「この研究はこの分野に非常に大きな貢献を与えている」とする一方で、「この病気に関する根本的な疑問はまだ回答されていない」と今後の研究の必要性を説いています。根本的な疑問とは、「一般社会におけるCTE患者の多さはどれくらいなのか? 」「コンタクトスポーツを行う頻度や種類、レベルなどがCTEのリスクとどういう関係にあるのか? 」というものです。

NFLと脳震盪の複雑な関係

アメリカのプロ・フットボールリーグであるNFLは、選手の健康に関する態度をこれまで何度も批判されてきています脳震盪に関する研究結果にNFLが影響を与えようとし、一部のデータを研究から取り除いたり、ということが指摘されています。またニューヨーク・タイムズはNFLがロビイストや弁護士を通じてタバコ産業と強い結びつきがあるというレポートも行っています。

こういった件が指摘されて以降、NFLはアメリカ国立衛生研究所に何百万ドルに研究資金を提供することを約束しています。しかしこの寄付金も、一部は「ちゃんと支払われていない」という指摘がされているんです。

NFLの広報担当であるBrian McCarthy氏は米ギズモードに声明を送っています。それによると「今回のような研究は頭部外傷に関連する科学的な進歩をさらに進めるために重要です。医学、そして科学のコミュニティはこの論文から多くの知見を得られるでしょう。そしてNFLは現役、引退両方の選手たちの健康状態を改善するために、継続して幅広い専門家たちと一緒に取り組んでいきます」とのこと。

遅れている研究

Mez氏によると中程度のCTE患者であっても、その症状は非常に重いものが確認されているそうです。「我々が測定できていない何らかの病理がある可能性があるし、調べられていない分野があるのかもしれない」と彼が語るように、今後さらなる研究が求められています。アルツハイマーに関する研究と比べるとCTEに関する研究は何十年も遅れているとのこと。それだけCTEは研究がまだ進んでいない分野なんですね。

ただし、Mez氏はアメフトをしている人はすぐに止めるべきだ、とは言っていません。1950年代に高校でアメフトをプレイしていた人たちを対象に、65歳の段階での認知能力に相関関係は見られなかった、という研究も発表されています。

「リスクの可能性があることは知っておくべきだ」「けれどそのリスクが何なのかは我々もまだよく分かっていないのが事実」とのこと。うーん…そんなこと言われても、ですね。完全なスポーツは存在しないと言われればそうですが、この不安を解消してもらうためにもさらなる研究が求められます。

Image: UTBP / Shutterstock.com
Reference: JAMA (1,2), deadspin (1, 2), New York Times (1,2), Twitter, Wikipedia

Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US[原文
(塚本 紺)

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