スティーブ・ジョブズがアップルを辞めます。
明日すぐ辞めるわけじゃないですけど、たぶん、とても近いです。
だから今日(火曜)お別れの挨拶を始めたんです。それはある意味、新型のMacBooksやMacBook Pros、アップデートしたMacBook Airを発表する以上に大事なことでした。
今日のイベントは氏が全員を前にこの会社が彼という個人を超える存在だということをはっきりと伝える、そんなステージでした。それが証拠にジョブズは開幕1分目から直ちに座ってティモシー・クック(Tim Cook、COO)に喋らせた。まるで、「ほら、見てごらん、アップルはスティーブだけじゃないんだぜー。こんな有能な男たち、仲間、 Aチームが揃ってる。彼らは自分と同じビジョンを共有する仲間だ。この自分がオフィス椅子からハンモック乗り換えてハワイのプライベートビーチで カイピリンハーニャ啜る時が来ても大丈夫、彼らならこの会社を引っ張っていけるさ」とでも言うかのように。
過去ずっと常にジョブズはショーのスターであり続けた。自身が敬愛するジョニー・キャッシュのように、黒シャツに身を包んだこの男がオーケストラをバックにステージに上ると、その声と抑揚に聴衆は熱狂し、魔術のような動きに酔いしれ、その催眠は男がビルを去ってしまうまで抜けなかった。最高のシンガー、最高のギタリストではなかったけど、彼にはそれができたんです。ジョニーがそうだったように彼も時には、他の人と脚光を分け合うこともありました。でも、それもほんの1曲か2曲。コンサートは常に「みなさんこんにちは、ジョニー・キャッシュです」、基調講演は常に「みなさんこんにちは、スティーブ・ジョブズです」だった。
開幕から「ワン・モア・シング」に至るまで全部「スティーブのショー」。そこに何ら疑いをさしはさむ余地などなかったわけですね。
それが永久に終わりを告げる日が来た―今日のショーを見てその思いを強くしました。もうジョニー・キャッシュのようにはやらない、そろそろミック・ジャガーになる潮時だ、そう決心してしまわれたんだなあ、と。
キース・リチャーズ、チャーリー・ワッツ、ロン・ウッドも一緒に舞台に上げて、スティーブのバンドは今日、全曲ピッタリ息の合う演奏を披露しました。こうして世界に向けて、アップルにはフロントマンひとりだけじゃなく、もっとあるのだ、この会社のカルチャーのあらゆる面の奥深くに氏のDNAがあるとしても、というところを見せたんだと思いますね。
初っ端からして違いました。いつものように市場分析で議論の土台を用意するのではなく、今回はティモシー・クックがスティーブと同じカラースキームで舞台を引き受けましたよね。そう、ブルージーンズと黒のトップスで。すると見てるこちらもつい心理的に彼らを同等レベルに置くわけです。こういう心の準備があると将来もしかして世代交代があった場合にも権限委譲がスムーズにいくのではないでしょうかね。いや、馬鹿みたいに聞こえるかもしれませんけど、あれは偶然じゃないです、絶対。まあ、あのロックスターのCEOに比べちゃうと、クックは引力ゼロですが…。
次に“ジョニー”・アイブが出てきてデザインのこと、アルミのレーザー切削について話しましたから、結局ジョブズが実機披露の主役に交代したのは開始から18分目。
ジョブズと言えば瞬きひとつせず2時間ぶっ通してプレゼンできる男です。それが27分後にはMacBook 2008のビデオが流れて短いQ&Aに突入。ここでもクックとフィル・シラーがウイングマンとして脇を固めてます(写真下)。あとは今日の血圧を出すジョークをちょこっとやって、終わり。
この引継ぎの中核には、やはりその問題があるんでしょうね。なんせ世界のマスコミが今追いかけてるテクノロジー史上最大のニュースと言えばジョブズ崩壊か、あとはスティーブ・バルマーの性転換宣言かってぐらいですから。前にも書いたように、氏のプライベートな人生を詮索する義理なんて僕らにはないですけどね。でも、氏のことだからウォズと一緒に一から作ったベイビーであるこの会社にも明るい未来とプランを授けてやらなきゃな、とはっきり分かってるんだと思います。

アップルは氏の分身です。氏がつくり、追い出されて、地獄の底から救い出し、世界トップに引き上げた。その途上でたくさんの間違いを犯してきたジョブズですけど、この数年会社を一緒に舵取りしてきたチームと勢ぞろい団結することは間違いのうちに入らないと思います。いや、それどころか後で振り返ったら、氏が行った偉業の中でも最大かつ息の長い功績になるかもしれませんよ。
今回のようなショーはまた何度も見れると思います。ビル・ゲイツがマイクロソフトとずっと共にあるように、スティーブ・ジョブズもアップルとずっと共にある。それは引退後も変わらないでしょう。でも、今日見たショーは新生アップルのプロローグです。スティーブ抜きの、スティーブという時代を背負ったアップル。舵取りはもはやスティーブひとりではなく、彼が抜けても誰もパニックしない、そんなアップルです。誰もはっきり口にしたわけじゃないですが、メッセージはそこに厳然とありました。みんなが見えるような特大のネオンの文字で。
じゃなかったら単に下痢だったのかな。うちのジェイソンみたいに。
Jesus Diaz(原文/訳:satomi)
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