気難しそうなご老体…それがクレーグ・バレット(Craig Barrett)インテル会長の第1印象です。
ピリピリするのも無理はなくて、このロングインタビューを行ったのはインテルが四半期決算報告で純利益90%ダウンを発表した1月半ば。最近アップルがIntelからNvidiaのGeForce 9400Mに鞍替えした件に話が及ぶと、会長は軽蔑も露わにこう返してきました。
「君、Macユーザーだろ」。そこにいたのは、一瞬で相手を見抜く場数を踏んだガイです。
でも、「デスクトップを自分で組み立てた時にはインテルのCore 2 Duo(Wolfdale)使ったんですよ」と言うと、破顔大笑こう言ったんです。「黒のKeds履いてる小僧の割には、やるじゃないか」。スニーカーのこと(実はアディダス)、こうしていつもネタにするんですよね。
会長は今69歳。テクノロジー業界のパワーハウスを動かすトップとしては、押しも押されぬ最長老のひとりです。向き合って座ると、「こちらはなんでもお見通しなんだよ」ということを態度でビンビン伝えてきます。
白衣を脱いで仕立てのいいスーツになったのは随分昔のことですけど、こうして話してると、「ああ、スタンフォードではMBAじゃなくマテリアルサイエンスの博士号とった人なんだなあ」と今でも、なんとなくわかります。ナード言葉が苦もなく口をついて流れてくるし、言いたいことを静かに伝える時は目を閉じるんです。まるで大学教授みたいに。
と同時に、こっちの気持ちを掻き立てるようなものも備えた人です。やっぱり先代アンディ・グローブの言った「Only the paranoid survive(パラノイドだけが生き残る。=成功するのは物憑かれ人、とことんこだわり続ける偏執狂・被害妄想というぐらいの狂人だけだ)」というマントラ通り、このビジネス界を生き抜いてきた人ですから。
インタビューを終える頃には、すっかり大好きに。厳格だけど公平で、まるで旧約聖書の王のような人なんですね。チップの指導者とチップのファンボーイが語る、競争に打ち勝つ方法、クロック・スピードの限界、マルチコアの競争熱、黄金期にパラノイアであり続ける秘訣 ―対話の要約は以下でどうぞ。
● マルチコアの軍備拡張レースに終焉はあるんでしょうか?万事うまくいけば処理パワーという点では「ムーアの法則」通りいける。[しかし] ソフトウェアソリューションはソフトウェアソリューションと足並みを揃えていかなくてはならない…。ソフトウェアにもパラダイムシフト(論理的枠組みの転換)が起こらなくてはいかんね。
● それを起こす上でインテルはソフトウェアサイドにどれぐらい力を入れて関わるんでしょう?おそらく1番の目安はこうかな。毎年うちで雇う人を見れば、ハードウェアエンジニアよりソフトウェアエンジニアの方が採用数が多いことがわかるだろう。
● インテルが現在開発中のハイエンドなGPU「Larrabee」。これは御社をどこへ舵取りする製品?根本的な問題はパフォーマンスをギガヘルツ以外の何かにすること。…その限界はもう到達できたので、今度は何か他のことをしなくちゃならない。それがマルチプル・コアというわけだ。あとは単に同種のコア同士の間の分割(領域確保)ソリューションか、それとも同一チップ上の異機種環境のコア同士の間の分割ソリューションか、という問題となる。
だからみんな考えてることは同じなんだよね。 つまり、CPU ―そしてGPUタイプのコア― をどうミックス&マッチしたらいいんだろう? これを6個とあれを2個混ぜるなら、それにどうソフトウェア・ソリューションが足並み揃えていけるのか? と。
● Nvidiaの最近の競争についてはどうお考えですか?それについては、かなりずけずけとした物言いでコメントしてる人間が(ここに)少なくとも約1名いる。
● NvidiaはAMDより大きな競争相手でしょうか? 今の競争の全体状況についてはどうお考えですか?我々は今も、アンディー・グローブの描いた「パラノイドだけが生き残る」というシナリオ通り、経営している。だから競争は何時どの方角から飛んでくるか分からないと、パラノイア(被害妄想)を持つ傾向があるんだ。インテルの社史を見てみると、これまで競争相手になった大手はIBMからNEC、Sun、AMDまで、なんでもございだ。つまり競争は絶えず変わる。それはちょうど技術の風味が変わるのと同じこと。
ビジュアリゼーションが重要になれば―ビジュアリゼーションは今や君とか消費者の欲しがってるものへの扉を開ける鍵だが― 大事なのはCPUか? それともGPUなのか? あるいはまた両者のどんなコンビネーションになるのか? どうしたら最高のビジュアリゼーションが実現できるのか? そういうことまで考えなきゃならない。競争の全体状況など日々変わる。 Nvidiaは5年前より明らかに今の方がライバルだ。AMDも相変わらずライバルだしね。
● 同じ競争哲学はモバイル分野にも通用する?それとこれとは全く別の領域だがね、当然。ネットブックは機能を削ぎ落としたラップトップのようなものだ。Atomプロセッサで、パワーとパフォーマンスという面では我々も順調にこの業域に参入できる。Atomがあれば、この種のネットブック、MID[モバイルインターネットデバイス]、スマートフォンの間にあるファジーな領域にも深く入り込んでいける。ここで考えなきゃならんのは「何を消費者は欲しているのか?」ということだ。
問題は「このスペースにおける究極のデバイスとは何か?」。 ... インターネットが拡張してくるのか、それとも携帯電話が成長してくるのか?
● つまり携帯分野で御社は今後さらに直接競争に関わっていく予定で?あれらのMIDは、よりスマートフォンに近いものになってきたと、私は思うね。...あとちょっと縮めるだけで、無茶苦茶いいスマートフォンだ。 ARMベースのものとは違い、あれはインターネット機能フル装備のスマートフォンと同じケーパビリティを備えている。 ― たぶん君が使い慣れたインターネットのように見えるかもしれないし、見えないかもしれない。
● インテルとマイクロソフトはPC革命で“勝利”しました。今や国内では基本的にありとあらゆるオフィス机にコンピュータが1台ずつ乗っかってしまってる状況です。ここから先はどうなるんでしょう? モバイル? 途上国?まあ、その組み合わせだね。今は便利なものを求めてモバイルに向かうトレンドがあり、これは避けようがないものだ。 モバイルのフォルムに収まるようケーパビリティを縮小もできるし、そのコストはデスクトップほど大きくはない。これが1点目。2点目は、モバイルがなさそうな新興経済圏に足を運んでみると、現実には新興市場で優れたブロードバンド接続を確保する唯一の方法は、有線接続でも固定アクセスポイントでもなく、ブロードバンドワイヤレスなんだよね。これが新興市場におけるモバイルの普及を促進する土台でもある。
● それは今後5年間のインテルの方向性に、どう影響するんでしょう?それもあってブロードバンドワイヤレスの方はプッシュしているんだよ。WiMax...これはブロードバンドワイヤレス接続機能で、接続の部分に当たるものだし、もっと処理パワーを備えたモビリティ、エネルギー消費量を低減しバッテリー寿命を確保することなどなど、なんでも良いものは全部取り組んでいく。 あとベターなグラフィックス。(先ほどの話に出た)Larrabeeみたいなのや、その辺も全部プッシュしていく。
● CPUのイノベーションではオンダイ・メモリコントローラ、ワット当たりの処理量への注力など、あらゆる面でAMDを抜きました。今後どのようにこの優位を維持する予定でしょう?優位を維持したいなら自分の目標値をアグレッシブに設定すること、これが基本だ。タダで転がり込んでくるものなど人生には何一つない。自分の目標をライバルを打ち負かすぐらい高く設定して初めて、人は成功できる。その点、我々には最高の目標があると思う。…ムーアの法則というディールだ。
あれを見失わない限り、そしてまた、ロードマップや製品プランなど全てを(共同創設者)ゴードンの掲げた法則通りプッシュし続ける限り、リードを守るチャンスはあるだろう。18ヶ月かそこらで倍になる ―成功したいなら、そのぐらいのレベルに自分の目標は設定しないと。
● その指針の哲学は、どうせ壁に貼ったバナーの飾り文句だ、とか思わないんですか?これはロードマップなんだ! 我々が持っている、ロードマップ。ちょっと分析したら君もわかると思うが、年とればとるほど人は普通コンサバになって、ムーアの法則なんて本当は起こらないんじゃないか、と心配し始めるものなのだ。だがね、そこに頭の切れる若い才能を持ってきて、こう言ってやるのさ。「おい、そこの頭の切れる若いの。俺たちはこのご老体だが、ムーアの法則をこの40年ずっと守り通してきたんだ。台無しにするなよ」。するとなんせ頭がいいから、なんとかなるんだよ。
matt buchanan(原文/訳:satomi)
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