この週末ウェブ見た人ならもうみんな知ってますよね、「本当のグーグルフォン」が「すべてを変える」という話。
盛り上がってるみなさんには申し訳ないんですが、あれってちょっと騒ぎ過ぎじゃないかと思うんです。だってグーグルは妖術師でも何でもないし、「Nexus One」はゲーム・チェンジャーでも何でもないですから。少なくとも今はまだ...。
僕も「Nexus One」が何かは知ってます。グーグルがやろうとしてることが何かも。グーグルは米国内カスタマーが従来慣れ親しんだ購買経験とは別種のものをNexus Oneで提供し、将来のAndroid端末に範を示そうとしてる―それが悪いと言ってるんじゃないんです。
単に今のこの騒ぎが理解できないだけ。
グーグルのNexus Oneは興味深い実験ではありますが、そんな英雄視するほどディスラプティブなクーデターじゃないと、僕は思うんですよ。多くの人(ギズを含む)がそういうニュアンスで語ってますけどね。
どれだけのものか、事実を1個1個見てみましょう。
従って、素材という面では、グーグルが消極的に監督したG1とか、積極的にデザイン補佐したMotorola Droidと大差ない。忘れちゃ困るけどグーグルはまだハードウェア会社じゃないし。そちらは他社の足元にも及ばないと思いますよ。
Snapdragon内蔵のAndroid携帯はギズが知ってるだけで少なくともこれが3つ目。 5MPカメラ、ノイズ削減のデュアルマイクロフォン、超薄型―これは新型携帯の機能として申し分ないけど、どれもこれもHTCが次に出す携帯はそうなるだろうとギズが予想していたことと大体一緒です。
みんな「ユーザーエクスペリエンス(UX)全般のコントロールにグーグルがいかに関わったか」、「これまで見たAndroid携帯といかに違うものになるか」を一生懸命語ってますけど、2.1の話ならギズも他のビルドでもう見てますからね。リークしたHTC HeroのSense UIでカバーされた状態で見たんですけど(結論をバラしてしまうと、そんな素晴らしくはない)、あれとスパイ写真でちら見した初期状態を掛け合わせると、2.1は2.0から大して進歩してない感じ。
2.0はDroidに搭載になってますけど、このDroidだってモトローラはほとんどノータッチだったようですよ? 少なくとも僕に言えるのはNexus Oneは非常に新しいUI(webOSのカードっぽいプレビューと3Dが加わった)になるけど、UX(ユーザーエクスペリエンス)はたぶんそれほどでもない、ということですね。もう一回言います。これは普通の、着々と良くなる進歩の途上であって、いきなり全てがガラッと変わる抜本的改善ではありません。
Nexus Oneを興奮状態で語る人もこれは認めてることなんですが、Nexus Oneってスペックそのものより、その存在の意味付けが重要なんですよね。はいはい、初の「ザ・グーグルフォン」で、これを売るグーグルの販売戦略は米市場でも他に例のないものになる、と言うんでしょ? うん。電話契約抜きで買えて、おそらくアンロック端末になる、と(複数の電話会社に交渉中という続報が入ってます。3Gこだわる人はもしかしてT-Mobileか?)。でも、アンロック端末なんてその辺のBest Buy(米家電チェーン)に行けばゴロゴロ売ってますから、史上初ってことじゃない。そうそう、ノキアなんて何年も前から米市場向けにアンロック携帯出してますよねー。売れ行きは芳しくないようですけど..。
マーケティングが弱腰で要領を得ないノキアにはできないことでも、グーグルならインターネットのパワーで右に出る者はないんだし、それを活かせば同じ高価な補助抜き携帯でも消費者が納得して買う方向に仕向けられるかもしれません。が、いくらグーグルでも無料で配ったりの常軌を逸した真似はできないわけですよ。せいぜいできることと言ったら、自社の広告ネットワークやホームページ、マスコミの力を今やってるみたいに利用して宣伝して、安く売る(利益がゼロかそれに近い値段で)のが関の山。片やベライゾンやT-Mobileのような電話会社は月額利用料で携帯コストがすぐ吸収できるメリットがあるわけで、その彼らが出す値段と互角に張り合えるっていうのは買いかぶり過ぎじゃないでしょうか..。それでグーグルに何が残るんでしょ? 将来のアドセンス収入?
もちろん今ニュースで出ていることで全部だとしても、Nexus Oneが注目の端末なのは事実です。「電話会社の介入がないとAndroidはこんなものになる」というビジョンを見せるためグーグルが用意する端末ですからね。ソフトウェアのエクスペリエンスをコントロールするのもグーグル、アップデート方法をコントロールするのもグーグル、搭載していいソフトとよくないソフトをコントロールするものグーグルだと、どういう携帯になるのか―が分かる。さらに、Nexus Oneは「Google Voiceで何ができるか」を伝える媒体でもあります。グーグルが利用者に電話番号を与え、標準より安い通話料を提供し、テキスト送信なんかも許可し、キャリアはただ中立の(ゆくゆくは視界から消える運命の)携帯接続サービスを提供するだけ、そういう世界のビジョンを見せてくれる端末なんですね。
仮にグーグルがやろうとしてることが以上で全てだとして(それはギズにも分からない!)、Nexus Oneは最初の1歩という位置づけでしょう。今後業界の進む道を示す初期プロダクトであって、その道を決定づけるプロダクトではない。
グーグルの話をする時はいつもちょっと斜めに見なきゃいけないような気がします。バズも多いし、いろんな業界でこれまでに何度もカーブ球投げてきてますからね。この携帯の話は、まあ、Google Voice、Android、Googleオンラインサービス、HTCが生んだハイプのnexus(束)でしょう(これ以上いい表現が思いつかない)。
なので現段階からNexus Oneで「すべて変わった」と言うのは、なんだかなあ、と。こうした会社が流したハイプの尻馬にあまりにも易々と乗っかる行為だし、なんでもグーグルの神通力で語りたがる行為だし、グーグルがやるとも言ってないうちから一連の行動をやって当たり前と決めつけちゃってる気がしますよ。テック界のウォッチャーが見境なく将来予想しちゃうのは、アップルのことだけじゃないようです。
140字以内でまとめるとこうですかね...。「グーグルフォンの重要度は、グーグルがどれだけ重要に演出するかで決まる」。―というわけで、みなさん、ここはひとまず、落ち着いて。
John Herrman(原文/satomi)