これは自殺急増に悩むFoxconn(富士康)が、坊さんに霊を供養してもらってるところです。
中国メディアも大々的に報じている「富士康十連跳(連続飛び降り自殺事件)」。
「数の上では全国平均自殺率より低い。騒ぎ過ぎ」なんて声も最初はあったのですが、借金苦や病苦もない定職に就く若者がこんな次から次へとバタバタ飛び降りるのは、やっぱり異常ですよね...Lemmingsじゃあるまいし...。
工場内で今なにが?
先日の記事でもご紹介したように、「南方週末」が20歳のインターン採用の記者を社員としてFoxconn深セン工場敷地内に送り込み28日間の潜入取材を敢行しましたので、Chris Changさんが「M.I.C. Gadget」に紹介した記事でより詳しくみてみましょう。末尾には敷地内で撮った写真のギャラリーも置いておきます。

半年足らずの間に9件の自殺未遂と7件の自殺が相次ぎ発生したFoxconn(富士康)深セン工場で、4月また新たに30件の自殺未遂が発生、会社は急きょカウンセラー100人と仏教僧30人を雇い、煉獄をさまよう自殺者の霊の供養に躍起です。
Foxconnはアップルの大手製造請負会社のひとつ。週7日24時間フル回転でMac mini、iPod、iPhone、iPadなど組み立てているほか、インテル、デル、HP、その他メーカーの製品の製造も手がけています。4月に入り自殺未遂が6人を数えた時点で、NYタイムズが「中国で最も影響力の強いリベラル紙」と評する「南方週末」は記者をひとり正社員として工場に潜入させ、同時に年長の記者をFoxconn経営陣の取材に送り込むダブル取材を行いました。目的は、「あの工場内で今なにが起こっているのかを探り、自殺の本当の原因を究明すること」。
28日間の取材生活でインターンの劉(Liu Zhi Yi)記者は、工場内の丁稚奉公のような労働環境に強い衝撃を受けたと言います。短い食事と睡眠休憩以外は来る日も来る日も祝日以外ノンストップの、いつ果てぬともない単純作業の繰返し。これじゃあ死ぬ以外にこのサイクルから抜け出す道がないと思いつめても仕方ないな、と思ったそうです。
この任務に院生の劉さんが選ばれたのは、歳が若いから。同工場が雇うのは20代の人だけです。劉さんはなんの問題もなく採用されました。署名を求められた書類でひとつ特別だったのは、「残業同意書」―つまり長時間労働になっても会社側は一切責任を負わない、という取り交わし。これは劉さんによると、任意で求めてくる同意書ながら、中国政府の定めに抵触するものらしいですよ。
Foxconn社員が笑顔になるのは毎月10日の給料日だけ。この日、工場内のATMマシンというATMマシンは大賑わいになります。気になる初任給は、900中国元(1万1838円)。

自分たちが毎日組み立てるApple製品は高嶺の花で、ほとんど話題にものぼりません。買えるのはせいぜい模造品です。世界のガジェ好きがiPhoneの話で盛り上がる時、Foxconn社員はあの模造品はここがいい悪いというのが話題の中心です。
一番興味深い話が聞けるのは食事休みの時。中には病欠の同僚が羨ましいよ、と言う人たちもいます。だって休みの許可もらって思いっきり寝てられるから。工場で起こった事故のこともよく話題になります。製造作業中に指を切断されたワーカーの話が出た時には、何人かが「あの機械は呪われてるからな」と言ってました。どうやらその機械を使うのは危険だと、彼らは考えてるようです。
工場の製造ラインで何が好きって、床になんか落とすことだね、と言う人もいました。何故か? みんな体が痛いの我慢して最高8時間立ちっ放しなので、しゃがんで拾う姿勢が1日のうちで一番体が休まる瞬間なんだそうです。
工員さんたちが「BMW」と呼んでるのは倉庫専用トロリーのこと。製品をうず高く積んだトロリーを引っ張り回しながら、いつか本物のBMW買えたらいいなーと夢見るわけです。
そんな夢のひとつもなきゃ生きてられないんだよ、とある工員さんは話してました。いつかお金持ちになる夢。給料の一部を宝くじや競馬に遣う人もいます。
別の夢もあります。恋愛生活です。劉さんによると、こんな環境じゃ出会いのチャンスもないとこぼす人もいたそうな。しょうがないので代わりの手段を探さなきゃならない。工場外のレストランの中には隠れネットカフェがあるところもあって若者にこっそりポルノビデオへのアクセスを売ってくれるんですね。でも、さすがにずっと動画見てるだけじゃだんだんつまらなくなってくる、と言ってたそうです。

自殺の話題は避ける人もいれば、冗談のネタにする人も。そもそも同僚同士の間に付き合いや友情が欠落している、これも問題です。隣で一緒に働く人の名前も知らない工員さんもザラにいます。それどころか南方週末の記事によると、みんな同じ作業服で同じ作業を毎日やってるので互いに付き合うキッカケも見つけづらくなってるのだと言います。 毎日仕事以外やってないので、なんか面白いことお喋りしようと思っても何を話していいか分からないんですね。 ストレスが貯まっても、その気持ちをぶちまけて分かってもらえる相手もいないし、助けを求める相手もいないのです。
Foxconnは社員をもっと人間扱いし、心と体の健康に気を配ってやらないといけないと思います。犬扱いするんじゃなくて。(以上、「南方週末」のLiu Zhi Yi記者のルポを、Chris Changさんが「M.I.C. Gadget」に紹介したものです)
ギャラリー
Liu Zhi Yi記者の潜入ルポ、本当に気が滅入りますね。さらに悲しくなるのが以下の写真集です。暗い空気、喧嘩。外には、この40万人が働く工場に採用を求める人たちが、長蛇の列を作ってます。
希望を感じさせる写真も何枚か。いたわり合う男女、殺漠たる環境で花を育てようとする人―先月自殺未遂30人を出した搾取一色の環境でも生きる人間のたくましさを感じます。