iPad雑誌アプリの最高峰Wiredがイマイチな理由

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iPad雑誌アプリの最高峰Wiredがイマイチな理由

コンデナストの「iPad版Wired」、初日販売2万4000部だそうですよ? すごいですね。

押しも押されぬiPad雑誌アプリの最高峰なわけですが、プレビューで見たデモが余りにも好評だったせいか、「え? これだけ?」と肩透かしなところもあります。

iPad雑誌アプリ第1陣で話題を独占した「Popular Science」(こちらはiPadと同時発売の7月号が1万7000部売れた)のイメージ刷新も中途半端に終わって、ビビンとくるものはあったのですが、あの嫌な予感がWired(ワイヤード)でさらに増幅された気がします。

「これはちょっと...」と思ったことを並べておきましょう。

1. 高い。Wiredアプリは5ドルもする

紙は年間定期購読10ドルで済むのに、App Storeから買うと60ドル! コンデナストはNew Yorkerの方は紙とデジタル両方まとめて買うと安くなる価格も準備中みたいなので、ワイヤードもそうなるのかな? どうでしょうね。開発にお金かかったのはわかるんですが、そんなの読者は知ったこっちゃないだろうし、読者が気にするのはワード数だけ。このワード単価じゃ高過ぎますよ(広告がゼロでもないし...広告バンバン載ってます)

2. 重い。容量500MB超え

いやいや、グラフィックスはいいなって思いますよ、動画も最高。でも時間がかかることかかること。iPadにダウンロードしてインストールする間に近所の雑貨屋まで歩いて行ってATMで現金引き出してコーヒー1杯買って戻ってメール何本か送れちゃいましたよ! 印刷のWiredがカウンターの横に数部置いてあったので、それだって買おうと思えば買ってこれた(先月の古いのだけど、それでも...ねぇ)

ここのコメントで出てたのは、iPadで雑誌アプリをキープするには、MacBookのiTunesにも500MB分のコピーを残しておかないといけなくて、それも不便という声です。すぐいっぱいいっぱいなっちゃいますよね。日本はどうです?)

3. 雑誌の域を出ない

一見まったく別物に見えて、その実、ワイヤードがやったのは「雑誌を作り変える」ことではなくて、単に「ワイヤードを作り変えた」ことに過ぎないんですね。ワイヤードのグラフィックデザインは今や伝説なのに、それがiPadアプリのために犠牲になっているのは、愛読者としては見ていて辛いです。

紙の在来技法のままやってもだめなんでしょうね。例えば紙の雑誌とかInstapaperのブクマクでさえ我を忘れて記事に没頭することあるんですけど、このアプリではそれが一度もないわけ。これはPopSci(Popular Science)も同じ問題抱えてました。雑誌のスター選手でも解決できないところに不安を感じます。(面白いことに、僕が見た中で一番長文の扱いがうまいiPadアプリは「Vanity Fair」なんですが、あれってワイヤードとパブリッシャーが同じなんですよね)

4. その他細々したこと

例えばコピペ。できません。記事の共有もできません(もちろん将来対応すると思うけど)。リンクもなし。検索もムリ。

あとはエクスペリエンス、ルック、フィール―アプリ自体の問題ですね。発売前に見たデモは本当に素晴らしくて、みんな夢中で話題にしました。今見てもスゴいなって思います(下)。それに引き換えこの手の中にあるものは...ビジュアルが過剰過ぎるのか? その割に気持ちに訴えてこないというか、なんかピンとこないんですよね。レイアウトとデザインは文句ないし、インタラクティブなインフォグラフも客観的に見て素晴らしいのに、つい、ウェブページとかなんかフラットなテキストで見たいな、と思ってしまう自分がいます。

(同じ声がここにも。iPadアプリはウェブアプリを超えられるんでしょうか?)

プレビューのデモ(flashで作ったアプリ)は今見ても素晴らしい

100526Wiredこちら現実のiPad版ワイヤード。何かが足りない

ベストなiPadマガジンはまだ出ていない

未来。革命。―興奮が一段落ついて実行になってみれば、このアプリ。最初のデモは本当に素晴らしかったです。動画、ダイアグラム、インタラクティビティ―そのすべてがありました。今はそのマジックの抜け殻です。動画でこの目で見たのに。みんな夢膨らませていたのに。まあ、ワイヤードが約束を破ったんじゃなく、単にこちらが期待かけ過ぎてたんですけどね...。

Wiredアプリがインタラクティブ系アプリへの大きな一歩であることは間違いありません。広告をスワイプして回るのは鬱陶しいし(紙と同じ技法というのも解せない)、今後いろいろ調整要る部分もあるんだと思いますけど。でも僕はなんだか彼らの方向性がおぼろげに見えてしまった気がしますね。きらきら魅力的ですごいんだけども、割高で、一歩上を目指す路線―。

デジタルマガジンには別の理想のかたちもあります。 必要最低限の手間だけかけるアプローチです。--新刊号のPDFスキャンとかOCRスキャン、ウェブコンテンツと似たり寄ったりなもの。これだったら制作コストもすごく安く上がるし ―だから「理想」なんですが― 出版社も全バックナンバーをほぼ無償で読者に提供できますよね。まあ、こういう骨と皮のコンテンツで読者がつく雑誌というと文章主体の読み物とかにジャンルは限られちゃいますけど。それに売り方もはっきりしませんが(紙版のおまけ? 別売?)。

こういう問題は、マスコミのiPad祭りが弾けて以降シニカルなオブザーバーの間で散々言われてきたことだし、それが最強のマガジンアプリ「Wired」の神通力でも回答が見つからなかったという、それだけの話ですけどね。

(日本のiPad雑誌コンテンツはこの辺の問題どう解決してるんでしょ?使ってみた感想教えてくださいね!)

UPDATE: なんとiPad対応のWiredはアドビの新ツールで作ってたことが判明しました。

[Wired]

John Herrman(原文/satomi)